10 紳士
スーリオラ村に到着。
地味、じゃなくて、これ以上無いってくらいに静かで落ち着いた村。
村に一軒しかない宿も、民宿ちっくな風情ある宿。
例の御仁とは、こちらで落ち合う予定。
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「この度は遠くエルサニアから御足労いただき、感謝の念に堪えません」
いえ、初孫とおじいさんの逢瀬を邪魔する無粋な輩など、馬に蹴られて……
えーと、おじいさんなんて言っては失礼ですよね。
「いや面目無い、同い歳でしたか、ノアルさん」
モリリオネ商会のご主人、森 鷹強志 (モリ タカヅヨシ)さん。
恰幅の良い壮年紳士は、俺と同い歳でした。
確かに、この世界の成人は15歳だし、
モリさんや娘さんみたいに早婚だと、初孫こんにちはもこんなに早いわけで。
そっか、初孫しちゃってもおかしくない歳だったんだ、俺。
「モリさん、ノアルさん」
「まずは急ぎこの国からの脱出を」
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モリさんの幌馬車に乗って、一路ヴラウペンの街へ。
対結界魔導具は入国の際に動作確認済みなので、問題無く国境を越えられるはず。
出来ればベラルタ騎士団長宛てにお礼の一筆を残したいけど、
また速達鳥のお世話になりますか。
『環境が人を育てるって言うけど、ホントなんだね……』
ちょっと、アンチさん。
言いたいことはわからないでもないですけどっ。
モリさんとベラルタ騎士団長、
ナイスミドルのお手本みたいなおふたりと、
歳甲斐無いことこの上無しの俺とじゃ、
最初から勝負にもならんのですよ……
「ノアルさんはノアルさんのままで良いのですよ」
『……』
ありがと、マーリエラさん。
スーちゃんも、健気なフォロー、いつもありがとね。
「私は、ノアルさんが羨ましいです」
「"低職"の逆境にもめげず、素晴らしい家族との自由な旅暮らし」
「まさに異世界召喚の醍醐味、ですな」
いえいえ、モリさんこそ。
素敵なご家族に恵まれて初孫まで。
異世界もあっちの世界もなんのその、幸せ街道まっしぐらじゃないですか。
「"幸せのカタチは人それぞれ、幸福は競うものでは無く、ただ味わうのみ"、ですね」
なるほど、至言です。
初孫を迎えるモリさんご家族の幸せのお裾分けをいただけるので、
今回は俺たちも、幸せのご相伴でお腹いっぱいになれそうです。
「なるほど、然り」
「このまま平穏な旅が出来るよう、神に祈りましょう」
あー、あの放置神は、あまり当てにしない方が……




