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第24話 女神様、ひとりでお留守番② 寂しさ限界突破

 カーテンの隙間から光が顔を出しています。

 2日目の朝になりました。


 今日もはやとさんはいません。


 お布団から出て張り込みや下界の情報収集をしなくてはいけないのですが、体が思うように動きません。もう少しだけ……あと5年だけ、温もりを感じていたいのです……。


 いけませんいけません。

 私ははやとさんの香りを大きく吸い込んでからお布団を出て、頬をぱちんと叩きました。

 気を引き締めなくては。このお家を任されたのですから。


 

 ◇



 午前中は佐々木公園でエリス様の魔法陣の張り込みをしました。今日も犯人は現れませんでした。

 やはり、夜も張り込むべきですね。


 午後は図書館にやってきました。


 天随使が下界で本を収集しているため、天界でも読書は可能です。私も転生のお仕事の合間によく読んでいました。

 天随大使になるには、未知の情報を手に入れる必要があるのです。

 なので、今日は天随使が集めないような本を探してみようと思います。


「あれ? セラフィーラさんじゃん」

「あら。柚木様」


 本棚の前で、お隣の柚木様と偶然お会いしました。


「先日はお料理教室にご一緒いただきありがとうございました」

「あー! 頭下げないで! 私も料理覚えたかったんだし。そうそうお料理教室といえば前の教室は出禁になっちゃったけど、新しい所を見つけたらもしよかったら」

「よかったら?」


 私は首をかしげます。


「また参加しない?」

「私をお誘いくださるのですか!?」


 私、生まれて初めて同性からお誘いを受けました! 

 柚木様の手を取ります。


「いいのですか!」

「わっ近い。ま、まぁこんなに恥を晒せる友達は他にいないし……」

「友達!? お友達ですか!?」

「そう、友達。え? 何?」


 はやとさん! 私、お友達ができました!


「ちょ、いたいいたい。手がちぎれるっ」


 咄嗟に力を入れてしまいました。


「あっ申し訳ございません。喜びのあまり」

「じゃあ、参加ってことでいい?」

「はい! いつでも!」

「そんなに料理したかったのね……」


「ところで、柚木様はどうしてこちらに?」

「休日だし、園児に読み聞かせる絵本を借りようと思って」

「絵本とは何でしょうか?」

「あーちょっと待ってて」


 柚木様は薄くて大きな本を持ってきてくださいました。

 


 ◇



「良かったですねぇ、イモムシ様は綺麗な蝶になれたのですねぇ」

「えぇっ!? 泣くほど? そういう意図じゃなかったんだけど、絵の見せ方とか教育的な観点とか」

「手に汗握る展開の連続でした」

「そんなシーンなかったでしょ。強いて言えば食いすぎて腹痛になったくらいじゃん。普段何見てんのよ」


 涙で前が見えません。はやとさんにも読み聞かせたいです。

 

「他の絵本も見てみる?」

「ぜひ! ……あっですが、その前に……」

「何?」

「一服させてください」

「じゃあ戻ってくるまでに絵本探しておくね。喫煙室はあっちだって」

「承知しました!」

「へぇ、セラフィーラさんってタバコ吸うんだ意外」


 最後に柚木様がおっしゃっていたことは頭に入りませんでした。

 私は言われるまま喫煙室という部屋に入りました。

 もう限界です。体の震えが止まりません。禁断症状です。


 私は手提げから袋を取り出しました。

 袋の中にははやとさんのくつ下が入っています。


「すぅ」


 はやとさんの香りが全身を駆け巡ります。

 とても、とても落ち着きます。


「すぅーーー」


 また吸ってしまいまいました。体温が急上昇します。


「はぁ……はぁ……」


 私はたまらずその場に座り込んでしまいました。

 やめられません。とまりません。もう一度、もう一度だけ……。続けて香りを吸い続けました。


「あっ」


 時計を見たらあっという間に時間が過ぎていました。

 充電は十分です。これ以上、柚木様をお待たせするわけには行きません。私は喫煙所をあとにしました。


「おかえり、ずいぶん長かった……って何ニヤニヤしてんの。大丈夫? ヤバい薬とかやってないよね?」

「はいぃ」


 視界がぼんやりしています。



 ◇



 途中様子がおかしくて怖かったけど、セラフィーラさんはいつも通りの天然お姉さんに戻った。


「もうすっかり遅くなっちゃったし、そろそろ帰ろっか。せっかくだし一緒にご飯でも行く?」

「ぜひ!」


 という流れで私たちは帰路につき、この辺では割と人気のあるラーメンの屋台に入った。


「ん〜何にしようかな? あっ新メニューの激辛ラーメンだって。せっかくだしこれにしようかな」

「私は醤油ラーメンで!」


 箱入り娘との説が(私に)有力視されているセラフィーラさんであるが、この屋台には通い慣れているらしい。


「よくこの屋台には来るの?」

「はい! よくはやとさんと公園帰りに!」


 その情報いるぅ??


「初めて食べたのはホームレス時代ですね」

「えっなんかごめん……」

「何がですか?」


 セラフィーラさんが世間知らずなのは貧しかったからか……。この底抜けの明るさで数々の不幸を乗り越えてきたんだ。

 

 激辛ラーメンは絶品だった。日々の保育業務の疲れが吹っ飛ぶほどの濃厚な激辛スープに舌鼓を打つ。

 セラフィーラさんがチラチラこちらのラーメンを見てくるので「一口食べる?」と聞いたけど、首を横に振った。そんなに気になるなら頼めばいいのに。

 

 帰り道では謎に早歩きだった。見たい番組でもあるのかな。



 ◇



 今日は初めてお友達ができて、絵本を知り、一緒にラーメンを食べました。帰り道も楽しくお話しながら歩きました。

 とても充実した1日でした。

 ですが、何かが足りません。いえ、本当は答えは分かっているのです。


 私はお家に帰ってすぐに、袋を開け、香りを嗅ぎました。おもむろにはやとさんのTシャツも着ました。


 昨日よりもはやとさんの香りは薄くなっています。明日はもっと、明後日はもっと。はやとさんと過ごした日々が。

 私は耐えきれず声を出してしまいました。


「どうして! どうして! 行ってしまわれたのですか!」


 冷たい物が頬を伝いました。


「もう二度と……お会いできなかったら、私は。私はっ!」


 このようなこと今まで一度も。


「私、おかしくなってしまいました。天界では1人が当たり前でしたのに……」


 ぷっつん、と何かが切れる音がしました。

投稿が遅くなり申し訳ございません。初めは投稿サイトのシステム改修の影響を様子見するために自粛していたのですが、そのままズルズルと時間が経ってしまいました……。数日は毎日投稿いたしますので、引き続き読んでいただけますと幸いです!

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