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第21話 手作りクッキー

 ピンポーン。


「はーい」


 何かと思えばテレビの受信料の集金だった。


 私の部屋にはテレビがないから断ったら、あっさり引いてくれた。

 一部屋ずつ回ってるみたいだから今はお隣さんのところかな。うっすら話し声が聞こえてくる。


「テレビとは何ですか?」


 は? セラフィーラさん、その逃げ方は流石に無理だよ。

 この前の料理教室では戦友になったけれど、やっぱ不思議だよ、この人。


 って集金の人、めっちゃ丁寧にテレビとは何かを説明してくれるじゃん、いい人かよ。


「まぁ! 素晴らしいですね! ぜひお一つ買わせてください」


 いや販売業者じゃないから!


「ではなぜ集金するのですか? でんぱ? でんぱとは何ですか?」


 すっごい、質問攻めするじゃん。あっ集金の人帰っちゃった。凄まじいなセラフィーラさん。



 ◇



 ピンポーン。


 のぞき穴を見ると小洒落たおばさんが二人。チラシの束を持っている。

 おそらく宗教勧誘だ。うん、こういうのは、居留守に限る。

 私はドアを開けない。

 

 あっ待って、セラフィーラさんが入信したらだるいなぁ。あの人、スピリチュアル系好きそう。

 変な壺とか売り付けられなきゃいいけど。

 

 案の定、おばさんたちはお隣さんのチャイムも鳴らした。

 私は緊張しながら、聞き耳を立てる。


 セラフィーラさんがドアを開ける音が聞こえた。


「あなたは神を信じますか?」


 さぁ、どうでる?


「はい。私が神です!」


 はぁ!?

 つっよ、嘘でしょこの人。


「あっ、そっ、はい?」


 ほら、おばさんたちも想定外の返答にしどろもどろになってんじゃん。マニュアルになかったんだよその返答。


「と、徳を積まないと神様に見捨てられてしまいますよ!」


 無理やり話を続けたよ。おばさん。


「いえ、私はあなたたちを決して見捨てません」


 あくまで、神様として対応するのね。


「で、でもそう言われたのよ!」

「そのような方針はなかったかと。どこの部署から言われたのですか? 今は難しいですが、後ほど問い合わせましょうか?」

「えぇと……」


 神様って部署制だったの? 

 すごい、おばさんを謎設定でぐいぐい押している。


「何やら事情がおありのようですね。詳しくお聞かせください」


 まさかの立ち話を始めた。

 いや、話聞かないで帰してよ……。


「なるほどなるほど。では、私からあなたたちへ神託を授けますーー」


 それからセラフィーラ神は、おばさん二人に寄り添って、神託、と称して悩みと洗脳を取り除いていった。

 敏腕カウンセラーかな?

 私も保育士だし、今度この話術を教わりたいかも。


「セラフィーラ様、ありがとうございました。おかげで心の膿が取れました」

「いえいえ、少しでもお力になれたのであれば何よりです」


 おばさんたちの声色は、憑き物が落ちたように軽かった。


 神様のフリをするって図太すぎるでしょ。ただ者じゃない。演劇部出身とか?

 セラフィーラさんの撃退力が怖い。


「また来ます」

「はい。いつでもいらしてくださいね」


 いや来んな!



 ◇


 

 今日はそういう日なのだろう。絶対にまだ何か来る。

 私はドアを見つめる。


 ドンドンドンッ!


 えっ後ろ?

 ベランダから大きな物音がした。何? カラス?


「違うわ、セラフィーラ様は隣の部屋よ」


 急に頭がぼーっとしてきた。外で話し声がする。

 仕事の疲れが溜まってるのかな。眠気が…………。



 ◇


 

 よかった。セラフィーラ様、今日もお元気そう。


「あら、こんにちはリリム。人間はドアというものを使うらしいですよ? ベランダから出入りすると、またはやとさんに怒られてしまいます」

「あっごめんなさい。急ぎの用件だったので! 次から気をつけます」


 私は必死に頭を下げる。ほら、1129番も頭下げなさいよ! あんたが急いだせいよ!

 さっきも隣の人間に睡眠魔法を掛けるのが遅れていたらどうなっていたか。


「ではよしとします。こんにちは。あなたは初めましてですね?」

「は、はい。初めまして。1129番と申します。もう一人来る予定だったのですが、やむおえず欠席です」


 さっきまであんなに啖呵を切っていた割に、声が上擦ってるじゃない。


「番号ではなく、お名前を教えてくださると嬉しいです」

「いえ、名乗るほどではありません」


 何よコイツ。セラフィーラ様がせっかく名前を聞いてくださったって言うのに。その番号は団体のでしょ?


「そうですか、んー。では1129、いい肉、イーニと呼ばせてください!」


 1129番は目を大きく見開いて顔を真っ赤にする。怒っている?


「セラフィーラ様ありがとうございますこれから死ぬまで一生イーニと名乗らせていただいますこのご恩は一生忘れません」


 1129番は信じられないほど早口で感謝を述べながらその場にひれ伏した。


 ずっるい!

 私もあだ名をつけてほしい!


「あとベランダから入ってはいけませんよ?」

「はい! 承知しました!」


 1129番はセラフィーラ様の言うことなら聞くらしい。まぁ、私も聞くけど。


「それで、報告とは?」

「はい。天界の検査の結果、セラフィーラ様のお体に異常がなかったことが証明されました」

「そうですか。原因不明なのですね」


 セラフィーラ様は浮かない表情だった。


「あともう一つ。この前の嘆願書ですが、半年以内に条件を満たすことができれば、天随大使として認められ、戸籍も発行されるとのことです」

「まぁ! 認可が下りれば下界に滞在できるのですね! 条件とはなんでしょう! 詳しくお聞かせください!」


 今度は嬉しそうだ。セラフィーラ様に良いご報告ができてよかった。


「とりあえず上がってください。手作りクッキーもあります」

「「セラフィーラ様の手作り!?」」


 ハモった。


「えぇ。まだ練習中ですが、どうぞ」


 私たちは床に座る。

 そして、机に置かれたドス黒いオーラを放つクッキーとやらを見つめながら、セラフィーラ様に聞こえないように小声で耳打ちする。


「1129番、これって料理ってやつよね?」

「えぇ、そうね。あと私のことはイーニと呼びなさい」

「はぁ……。料理ってようは下界の生き物の死骸よね?」

「えぇ、そうね」

「む、無理よ! 死骸なんて!」

「何を言っているの2077番。セラフィーラ様の申し出を断るなんて極刑よ」

「さぁさぁ。召し上がってください」


 笑顔のセラフィーラ様を裏切ることはできない。

 私たちは恐る恐る禍々しいオーラを放つクッキーに口をつけ、すぐさま意識を失った。

 お待たせしました。投稿が月末になり申し訳ございません。

(繁忙期で土日も仕事......_:(´ཀ`」 ∠):)


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