道端セックス禁止令
何かの本に、『日本人の場合ブスであるほど性的露出に熱心である』と書いてあったけれど、確かにそうかもしれない。
この間も、夜中のファーストフード店で、ブスと不細工が四人掛けの席にわざわざ隣同士に座ってべたべたとしていた。可愛い子が「ちょっとこの曲聴いてみてえ?」等と言って彼氏の隣に座ったりするのならまだ微笑ましいのかもしれないけれども。ああ、もしかすると、ショックが強い方が印象に残るというだけなのだろうか。
恋愛というのは、夢や空想のように形がなく、行き来がわりと自由なもので、両想いというのは、お互いが同じ夢を見ている様なものなのではないか。だからきっと、周りから見たら恥ずかしくなるようなことや、多少理解が及ばないことでも共有できるんだろう。
二人が同じ夢の中にいる間はいい。だが、世間を見渡してみると、そのうちに夢から覚める時がくる様だ。夢から覚める時が、恋の熱が冷める時。
そのタイミングが二人同じなら何ら問題はない。駅前のドトールでの別れ話もさらっと終わって、
「じゃあこれからもお互い頑張りましょう。お仕事うまくいくといいわね」
「ありがとう。機会があったらまたお茶でも」
と、別れの挨拶を交わしてお互いに背を向けて歩き出す。
しかし、片方だけが先に冷めてしまうとそれはもう悲惨だ。彼氏はベッドから起き上がってズボンを履こうとしているのに、彼女の方の寝相が悪くて布団ごとベッドに引きずり戻そうとシャツの裾を掴む。今日は会社で大事な会議があるもんだから、多少手荒にでも立ち上がろうとする。すると、転がるその塊からかかと落としが飛ぶ。こうなるともはや彼女でも何でもない。
つい最近まで傍らに寄り添っていた可憐な少女はどこへ行ったんだ? 夢から覚めてみたら何の大したところもないこのトドだかセイウチだかは放っておいて、あの子を探しに行かなければ。
と、彼氏の方はあわよくば別の夢をみようと他のベッドへ潜り込もうとする。まあそのベッドサイドでの攻防が醜いこと。
ストーカーっているでしょう? 吸血鬼ドラキュラの方でも自動給炭機でもなくて、「【stalker】特定の個人的に異常なほど感心を持ち、その人の意思に反してまで跡を追い続ける者(引用:広辞苑)」の方。あれなんかその典型的な例だ。ベッドは愚か二人用の寝袋なんて奇っ怪なものまで持ち出して、いつでもチャックを閉める機会を伺っている。そんなもの持ち出されてたら、ただでさえ狭い部屋が窮屈だし、専務にはエベレストにでも行くのかいなんて皮肉を云われる始末。
人間の生活で使用するものには、年月を経て古くなると唐笠おばけよろしく変化する能力を持つことがある、なんて云いますが、そのシュラフに怨念が籠もって人喰いなんかになったりして、最後はバラバラにされてしまう、なんてことになったらたまったもんじゃござあせん、手前はちょっくら失礼いたしやす。なんてわけにもいかない。なんたって元々は自分も住んでいた夢の世界なんだから。小鳥がさえずり草花も歌うメルヘンランドが、いつのまにやら化け物屋敷に、なんてシーンが移り変わるところもまさに夢の様。
これを読んで、つい隣で楽しそうに漫画を読んでいる彼女の方をみてしまったあなた。あなたの彼女は部屋に大きなリュックなんか隠していませんか? 彼女がいない間にでも調べておいた方がいい。女は執念深いって言いますからね。
可憐な少女のみなさん、王子様を夢から覚まさないように、目覚めのキスに備えて前の晩にアドルムなんかを混ぜたリップクリームなんかどうです? さじ加減がうまくいかなかったらしょうがない。すっぱり諦めて隣の国の王子様なんかに慰めてもらって、しばらくあちらこちらとひとりで遊んでみましょう。そのうちに、あら? こっちのお城の方が大きくてゴージャスだわ、なんて発見があるかも。
それではみなさん、よい夢を。
恋人と変人って字が似ているけれど、意味も似たようなことな気がします。恋は盲目って言うし、何もない精神状態の時にはしないような言動を見せるという意味では、恋人も変人の一種なのではないでしょうか。変人科恋人目という括りがしっくりくると思います。