表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にたがり少女と不死身少年  作者: 永山ぴの
1/3

1章1話『出会いは死に場所で』

新しく書き始めました。

ぜひお読みください。


 ──どこか、違う世界に飛び込めたらいいのに。


 そう、何度も願う少女がいた。

今この場から逃げて、自分のことを誰も知らない世界へ──未知の世界へ行けることを夢見た。

 そこでなら、自分の好きなように人生をやり直せる。

自分の意志で生きて、毎日家族と食卓を囲み、友達と遊んで──そんな充実した人生が欲しかった。

だが、それは叶わない。

 どこかで幸せな暮らしをする者がいる。

一方、どこかで苦しい人生を送る者がいる。

 それを誰よりも実感し、悩み、幸せを実現できるように試みた。

それでも、やはり自分は幸せにはなれない。

 そうして少女が辿り着いた答えは、ただ1つだった。


 ──こんな世界、永遠にさよならしてしまおう。




    ◇




「はぁ……はぁっ……」


 山の中──草が生い茂った道とも言えない道を歩き続ける少女。

息を切らしながらも、斜面を登り続ける。

時折、木の幹に片手を添えてはキョロキョロと辺りを見渡して歩きやすい道を見つけ、進行方向を変えてひたすらに進み続ける。

 だが、少女がどれだけ疲れて汗を流そうとも、その美貌は輝きを失わない。

腰まで伸びる銀色の髪。

柔らかな印象を受ける目つきに薄青の瞳。

まるで森に住むエルフのような容姿とは反対に、服装はは真っ白なワイシャツに青いネクタイ、プリーツスカートと学生姿。

そして、その手にはしっかりとロープが握られている。

 この少女の名は結城海彩(ゆうき みあや)


 自分の人生を終えるために山へと入り込んだのだ。



「うぅん……なかなか良い死に場所って見つからないものね……」


 かれこれ山の中を探索して1時間は経過した頃。

海彩は1本の木に疲れ果てた体を預け、困ったように空を見上げる。

空は木の葉に遮られてほとんど見えず、葉と葉の隙間から少しだけ太陽の光が差し込むだけ。

だが、その光も海彩にとっては自然を感じるものでも何でもない。

もうこの人生は終わりだから。


「ん……?」


 ふと、視線を降ろして正面の木の奥へと目を凝らす。

そこには、周りの木よりも一回りほど大きく育った大樹が。

 途端に、海彩は食い付くようにその大樹へと駆け寄ると、そっと木の幹に手を当てる。

大樹を見上げ、目を細める。


「大きい……枝もしっかりしてるし、ここなら山の入り口からも遠い………うん、これなら大丈夫」


 頷き、ロープを手に木を登って木の枝にしっかりとくくりつける。

何度か引っ張ってほどけない事を確認してから股がっていた枝から飛び降る。

まさか、人生最後の木登りに自分の運動神経の良さが役立つとは思わなかったが、そんな事を実感する日はもう二度とない。

 海彩は大樹とは反対の方向を振り替える。

 急な坂に生える木の隙間から見える街並み。

この景色だって見ることはないだろうが、後悔などない。

どうしようもない人生とお別れできるなら、死ぬくらい──と、足元に置かれた大きな岩の上へと乗り、ロープへと手をかける。


「さよなら」


 呟き、岩を蹴飛ば──そうとした時。


 ガサッ。


 海彩の左方向から草を動かすような音がする。

再びガサガサと音がしたかと思えば、今度は一番手前の茂みが激しく揺れる。


「え……え?」


 戸惑い、どうしたらいいのかと海彩は硬直する。


 そして、茂みから少年は出てきた。


 紺色がかった髪に輝きを失ったような瞳。

海彩と同じ中学校の制服を身に付け、なんとその手には同じくロープが握られている。

 少年は山道に疲れたのか、「ふぅ……」と短く息を吐くとゆっくりと自殺寸前の海彩を見上げる。

と、海彩の存在を認識した途端、少年の瞳が少しばかり開く。

 一方、海彩も突然の乱入者に目をパチクリさせてを見つめたまま1ミリも動かない。

 そもそも、海彩はこの状況を理解できていない。

何故こんな山の中に人が。

何故今に限って来てしまうのか。

何故──世界はこんなにも自分を苦しみから解放してくれないのか。

 互いに見つめ合って一体何秒経っただろうか。

少年がゆっくりと、片手を海彩へと伸ばしてきた。


「………?」


 わけがわからず、海彩が少し困惑顔を浮かべると少年はハッとしたように手を引っ込めた。

それと同時に少年は俯く。

 再びどうしていいのかわからずに海彩も固まったままでいると、少年が顔を上げ、無愛想な表情で言い放つ。


「どいて」


「え……」


「そこ、俺の気に入ってる死に場所だから──どいて」


「え……えぇ……?」


 少年の言っている意味が解らず、海彩は戸惑うばかりで岩の上からは動かない。

 すると、その様子に痺れを切らしたように少年はズカズカと寄ってくると海彩をヒョイと肩に担いで岩から降ろす。


「ちょっ……か、勝手に何を……!」


 担がれた当人は突然の事にバタバタと暴れるが、問答無用で地面に降ろされてしまう。

いきなりの行動を理解できず、冷めた表情を見せる少年を地面に座り込んだまま見上げる。

 少年はズイッと海彩へと顔を近づけ、訊く。


「お前、死のうとしてたのか……?」


「…………そ、そうですけど」


 迷ったが、この状況では言い逃れできずに海彩は頷くと今度は少年の手に持つロープを指差し。


「……あなたもじゃないんですか?それ………」


 普段なら、無粋にそんな事は訊けない。

だが、相手が随分と冷たい態度な上──まるで人生を諦めたかのような表情をしてる彼を見れば、検討がついたのだ。

そう、海彩もそうだから。

その冷めきった感情を知っていたから。


「……………」


 少年はしばらくの沈黙のあと、ため息をついてから「そう」頷いた。


「……そう、ですか…………」


 再びの沈黙。

どちらとも声を出さずに視線を合わせない、気まずい空気が流れる。

 正直、海彩はこの場から逃げて全てなかった事にし、もう一度死に場所を探したいが、この空気ではどのタイミングで言い出せばいいのか解らない。

 それに、死にたい者同士が鉢合わせるなんて事は全く予想していなかった。

漫画なんかなら、死ぬ寸前のところで主人公が助けに来てくれたりなんてのがあるだろうが、実際は死にたい少女の元に死にたい少年が現れるという事態。

 最悪の組み合わせだと思い、海彩が項垂れていると少年は海彩の隣に胡座をかいて座る。


「あ、あの……?」


 戸惑っていると、少年はチラリとこちらを見て。


「どうせ死ぬなら……少しくらい、聞いてやるから話せよ。俺にはお前の事情なんかどうしようもないけど、最期くらいはスッキリして終わるのが一番だろ」


「最期くらい……そう、ですね」


 目を細め、なんとなく前髪をいじってから少年へと向き直る。


「あ……私、結城海彩です。えっと……」


黒川希寿(くろかわ きずき)。たぶん、同級生だろ。中3?」


「はい。そうですね」


「じゃあ敬語いらない」


「あ、そっか……」


 希寿は無愛想な表情のまま、コクリと頷く。


「……で?何でまた死にたいわけ?」


「……単純。いじめ──みたいなものかな」


 希寿は何も言わず、ただ海彩の話を聞く。


「この銀髪、地毛で……両親とも日本人なのにどうしてかこの髪色で生まれてきたの。目の色だってそう」


 悲しい表情を見せながらも、海彩は話を続ける。

1つ1つ、自分の人生を振り返るも、苦しんだものばかりが思い浮かぶ。


「そのせいで親から〝気持ち悪い〟とか言われたり、学校でもハブられたりとかばっかりで……誰も助けてくれなかったから。だから、あぁ……もういいかな、って」


 涙を堪え、少しだけ微笑んで希寿へと視線を移す。


「そのせいでメンタルも保てなくなっちゃったから……だから、今日で世界とはさよならね。でも、最期に話せるのは本当にスッキリしたかも……ありがとう、希寿くん」


 海彩のお礼に何も返さず、ただ一点を見つめ、何の反応も示さない希寿。

何かしてしまったのでは、と海彩は慌て始めるがやっと希寿が口を開いた。


「……別に………お前さ」


「………?」


「お前、別にキレイだけど」


「……へっ?」


 突然の褒め言葉にキョトンとする海彩。

だが、それに構わず希寿は言葉を続ける。


「銀髪が珍しいって言っても長いし綺麗だし、顔だって整ってる。学校の奴らは気持ち悪くてハブいてるんじゃなくて、ただの嫉妬だろ」


「えっ……き、急に何……」


 海彩は更に戸惑う。

 だが、ふと〝それに〟気付く。

──きっと、止めようとしてくれているんだな。


「……いいよ」


「ん?」


「………いいよ。無理して褒めて止めなくても」


 その言葉に希寿は口を縛る。

海彩は─やっぱり─と思い、呟く。


「私はもう、この世界はうんざりだから。だから、誰になんと言われようと止める気はないわ」


 言い、立ち上がる。

 この少年は海彩には優しすぎたのだ。

彼はぶっきらぼうなようで優しいのかもしれない。

 そう考え、立ち去ろうと海彩。

だが、その腕は強く掴まれる。


「……は、離して……」


「……そんなにこの世界が嫌か」


「……え?」


 先程よりも一層真剣に、真っ直ぐ見つめてくる希寿の様子に狼狽える。

だが、コクリと頷く。



「──なら、教えてやるよ。中にはこの世界から消えたくても消えられない奴がいるって事を」



 言い、希寿は日本語ではないであろう言語で何かを呟く。

海彩は理解が追い付かないまま、突如光に包まれる。


「──!?」


 視界が真っ白に染まり、ギュッと目を瞑る。

その一瞬の後、ゆっくりと光は消えて行く。

 恐る恐る海彩は目を開く。

足元を見れば、そこは山の中の雑草の上ではなく、レンガ道の上。

そのまま視線を上げていく。


「ッ!?」


 海彩は驚き、一歩後退る。

 それも当然。

目の前に広がるのは山道ではなく、中世ヨーロッパ風の建物と広場に植えられた大樹。

そして賑やかに行き来する人々。

人々は獣耳が生えていたり、中には杖や剣を手にする者が。

 海彩は一気に変わった風景に困惑し、固まったままでいると、隣に立つ希寿が少しだけ誇らしげに口を開く。



「どうだ。もう元の世界とは違う──ここが〝異界〟だ」




今回、わりとシリアスでちゃんと構成考えた作品です。

ぶっちゃけこれが私の限界ってのもあるんですが、どうしても後半が雑になっちゃうんですよね。

申し訳ないです。

理由としては私の端末が小説を書いていくほど重くなり、キーボードを打つのが果てしなく遅くなるんです。

はい、どうにかします。


2~3日に1回のペースで更新していきたいと思っているので、ぜひブクマ登録や評価などお願いします…!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ