クリスマス・アフターの昼に
ススーッと襖が音を立てながら物置部屋が開く。1年まるまる放置していた来年必要になるであろうと去年用意していた必要の無い物がそのままの状態で置いてあった。三十路ながら「ヨイショッ」と情けない声をだして重たい腰を上げ早速作業に取り掛かる。大きな業務用のゴミ袋にやれ、あれはいらない、これはいらないとポイ、ポイ、ポイと捨てていると乱雑に積み重なった大量のアルバムやらCDやらがでてきた。「懐かしいな」思わず笑みがこぼれる。どれもこれも学生時代の思い出の品達だ。あまりにも部屋の面積をとるものだから去年意を決してここに入れたのだ。1年も掃除せずに置いてあったので少し埃をかぶっているそれは「久々にどっかで飯を食べながら話さない?」と数年越しに会った友達のようにページをめくるのを促した。
ペラ、ペラ、ペラと紙をめくり読み進めていく。皆で毎日バカみたいにはしゃいだりして青春を謳歌しながらこれからの未来も何もかも上手くと思っていたあの頃。写真の中にいる1枚、1枚の自分が何も恐れることは無いと自信満々の笑顔で写っていた。皆元気にしてるかな。ふと、そんなことを考えながら顔を見上げ時計をみるともうお昼過ぎになっていた。このままでは折角の休みを無駄に過ごしてしまう。とりあえず昼ご飯を食べることにしよう。作業は終わってからだ。ゆっくりとアルバムを閉じた。
昼ご飯は事前にコンビニで買ったカップ焼きそばとコーラ。一人暮らしのお昼ご飯と言えばコレ、というレギュラーメンバー達だ。ズルズルと貪った焼きそばをゴク、ゴク、ゴクといきおいよくコーラで流し込む。「うんめぇ」思わず独り言が漏れる。皆元気にしてるかな。引き続き焼きそばを啜ったりたまにコーラを飲んだりしながらさっき見た写真を思い返す。写真に写っている友人達とはもう数十年以上の付き合いになる。つい最近(とは言っても5、6年前)までは毎日のように連絡を取り合う仲だったがある日1人が結婚すると言ってからやれ、俺も、僕もと次々にまるでドミノ倒しのように結婚をしていき、遂に一昨年には仲間内では自分1人だけが未婚者になってしまった。それ以来夫婦間のあれこれや育児等に水を差してはいけないと思いこちらから何となく連絡をとる機会が少なくなり、今では年賀状で「元気にしてるか?」と生存確認しあうタンパクな関係になってしまった。「いい人いないかねぇ」また独り言が漏れる。こんな感じだから彼女ができないんだろうけど。
今日は12月26日。強いて言うならクリスマスの次の日と言うだけでなんともない日だ。クリスマス・イヴがあるくらいならクリスマス・アフターぐらい作っても別に誰も文句は言わないのではないだろうか。まぁ、そんな日を仮に作ってしまったら、今日の自分の休みが無くなっていたのだが。この2日間務め先ではクリスマス商戦で大忙しにも関わらず社員の大半が「予定が入っている」と有給の取り合いをしていたり、定刻よりも若干サバ読みして定時退社をキメている人がいたりともう散々だった。もちろん自分はというと、飲む相手もいないし、圧倒的な人手不足のお陰で残業代が普段より多少上がっていたのでもちろん出社した。これが正月にもまたあるというのだからこの時期は老後の安定した生活を送りたい自分にとっては素晴らしいことこの上ないのだ。と、強がってみたりする。(本当はクリスマスにエナドリを飲みながらパソコンをカチャカチャせねばならんのだ!と思っていたことは秘密だ。) これらのことから本来日曜日なのに休日出勤をしたクリスマスに成り代わって代打の休日として入ってきた今日以外これから約1週間は休みがない上に朝8時30分出社の夜23時帰宅という労働基準法など皆無な超ハードワークなスケジュールをおくらなければいけないため新年に部屋の整理をする余裕がないのだ。独身男性だってそりゃ気持ちよく新年を迎えたい。と、余興はここまでにして。ラストスパート。箸で野菜を焼きそばカップの隅に追い込み一網打尽にする。無事完食。ご馳走様でした。空のプラスチック容器を台所に持っていき、中を水いっぱいに浸してそのまま放置。一息ついたので午後の予定を考えることにする。午前中は掃除機をかけて部屋の掃除をしたので多少の汚れは無視するとして遠目から見えるような大きなものは無くなっているはずだ。あとは昼ご飯前に放置していた物置部屋の整理と窓を雑巾で拭くだけ。案外早く終わりそうなので、先に散歩でもしながら夕食の食材を買いに行くか。散らばったアルバムをとりあえず積み上げておいて、ユニクロで買った厚めのジャンパーに無印で買ったネックウォーマーと手袋を着用して外に出ることにした。
4階建ての築20年程のアパートをでて左に曲がり大きな交差点がある道へと向かう。向かう先は徒歩15分程の業務用スーパー。今年は寒波が早く訪れたため例年よりも少し寒いようだ。冷たい風がジャンパーの袖と手袋の付け根の僅かな隙間に滑りこんでくる。とてつもなく寒い。昔付き合っていた彼女に寒がりと言われたことがある。思えばあれもなにか別れる伏線だったのかと、とんでもないこじつけをしてしまう。悪い癖だ。交差点に辿り着くとピコ、ピコと信号が点滅し始めた。別にこれといって急いでいないので足を止める。1分程待っている間やることもないので、何か変わったものはないかと辺りをキョロキョロと見渡してみる。(自分が育った地域に比べれば)田舎でもなんでもないので周辺は大きなビルが立ち尽くしている。いつも何かと通っている道だが心に余裕があるとたくさんのものが見えてくる。早速丁度向かい側の歩行者用道路に普段は全く目にもかけない小さな看板にデカデカと大きな文字で○○公園イルミネーションこの先△△△m先と書かれてあるのが目に付いた。もう撤去し始めているのだろうか。そう言えば今年は、というかここ数年クリスマスっぽさを感じる物をあまり見ていない気がした。ふと、時計に目をやる。イルミネーションを見に行ってその足でスーパーに行っても時間はまだ十二分にある。行ってみるか。ピコーンという音と共に信号が青になる。ナイスタイミングだ。そのままゆっくり歩き出した。
昨日の今日ということもありまだ、イルミネーションは撤去されていなかった。昨日までは賑わっていたであろうイルミネーション周辺は今日は全く人が立ち止まっておらず皆年末に向けてせっせと忙しなく通り過ぎて行っているだけだった。ハーッと白い息が口からでていく。行くにしても夜だっただろうに真っ昼間にきても全く意味ないじゃないか。到着してから気づいた。こういうのはどこに行くかよりも誰と行くかだ。友人の言葉が脳裏によぎった。あれは皆で旅行をした時のことだ。確か大雨でホテルから全く外に出れなかった時だ。トランプをしたりUNOをしたりしてそれはそれでいい思い出になったな…まぁ今はご覧の通り1人で来ているのだが。もう二度と皆で集まってご飯を食べに行ったり、旅行をしたりすることはないんだろうな…ゆったり、ゆったりと昔のことを思い出しながら輝きのないイルミネーションを歩いていく。何だか喉が乾いてきた。
ピッ、ドゴン、ガガゴンと自販機から勢いよく缶缶のホットココアが落ちてくる。カチッと蓋をあける音と共に熱気とココアの甘ったるい香りが口周りを温める。美味しい。昔はよく背伸びをしてコーヒーを買っていた。あの苦さはずっと飲んでいたら慣れると思っていたけれど結局慣れる前にお腹の方が先にノックアウトしたので飲むのを止めた。缶の中身はまだ少し残っているので手袋ごしに持ちながら歩く。こうやって歩くと時間が過ぎるのは早いものでもう少しで折り返し地点だ。明日からはまた朝から出勤しなければいけないし、何より今から夕飯の食材も買わなければいけないし、残っている掃除もしなければいけない。やることは山積みだ。でも、これさえやればスッキリとした気持ちで新年を迎えることができるはず。なのに、なんだかまだ何かやり残しているものがある気がした。いや、やり残しているものがあるのだ。考える。それが一体何かを。けれど何も思いつかない。もう一度、まるで計算ミスを探している時のようにじっくり、ゆっくりと考える。けれども何も思いつかない。でも答えは2つあるはずなのに1つしか答えが出せなかった時のようにモヤモヤする。「…」「…」「…」「…」「…」まぁ別にいいか。大した悩みでも忘れ物でもないだろうし。こういうことに限ってどうでもいい時に頭の淵からフッとでてくることもあるし。1歩1歩踏み出し折り返し地点に近づく。こういう考え方は間違っているのかもしれない。けど、自分はこれでいいんだ。大丈夫。なんとかなる。あの写真の中の自分みたいに。恐いものなんかなくって毎日が幸せだったあの頃のように。きっときっと大丈夫なのだ。そうやって繰り返していけば気づけば爺さんになっているのだ。そう信じたい。いつの間にか握っていたココアは風の冷たさに煽られて冷めきっていた。今日の夜は焼き鳥にしよう。あと、ビールも飲もう。「クリスマスに乾杯。」そう1人呟いて冷たいココアを飲みながら今来た道を折り返した。