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まぁ、転生したからといって美少女になりたいとは限らない  作者: ゴリラの華
二章 最強も望まない
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第八十.五話 その頃の片割れ2

くそねむな日が続いてるので頼むから気圧安定してくれ




夕食を終え、もう休もうかと部屋に戻った筈なのに、父上からの呼び出しで寝間着から再び執務の為の服を着直す事になった。


前世からは想像もできないほど、纏う一糸にすら莫大な金銭が掛かり、更にはそこへ身を守るための魔石のアクセサリー類が付くのだから堪らない。一つ一つ単価は違えど、安いやつですら家を買える。それだけ貴重ということだというのに4つも5つも身に付けなくてはならないのだから息苦しくて仕方ない。


勿論装飾を整えるというのは無駄に民の税を使ってるというわけではなく。


国の代表が相応しい装飾を身に付けるということはその国の財を現す。華美であればいいというわけではないけれど、質素すぎてもいけない。ただでさえ僕は他国にナメられがちなのだから振る舞いと服装にはそれなりに気を使わないといけないのだ。




「王太子殿下。」



「あぁ。今行く。」



呼びに来た召し使いの後を追い、父上の執務室へ足を運ぶ。…既に誰かが居るようで、声を荒げているのが分かった。

…父上が声を荒げるなんて珍しい。扉越しでもその威圧感はひしひしと伝わり…戦く召し使いが可哀想だったので下げ、扉を開ける。




「っ…ぶね……!」



顔面に何かが当たりかけ、片手で捉える。


………クッションだった。豪速球ではあったが。



「っ…悪い、ナオ、…怪我はないな?」



「まぁ。


___それで?何でクッションが僕に向かって飛んできたんですか?まさかとは思いますが、一国の王とも在ろうお方が扉に向かって八つ当たりすべく放り投げた…なんてことはないでしょうね?」



「………悪かった。」



完全に逆立っていた尾の毛がゆっくりと萎れていくのを確認して、中に入る。


部屋のなかには既にガルシアとレーベが居た。レーベは兎も角、なぜ他国の王子であるガルシアが居るのだろうか。客人扱いなので僕達とは生活区を分けてあるから…此処まで呼び出すのもこの時間には無礼になるだろう。


……いや、だから護衛が居ないのか。内密で来るほどの用事ってなんだろう?




「ちょっとナオ!入り口で留まってないで、入れないじゃない!」



「あぁユア、君も呼ばれたんだ。」




「もうっ、寝る時間だっていうのに…お肌が荒れちゃうじゃない………あら?ガルシア殿下、ごきげんよう。」




「ごきげんよう、ユア嬢。申し訳ない、こんな時間に淑女を呼び出してしまって。」




「いえ、陛下の命ですから。…ところで、なんで貴方はクッションなんて握り締めてるのよ。」




「まぁ、色々ね。…呼び出されたのは僕とユアだけですか?」




「あぁ、イクスはアルトゥールと共に別件で動いているからな、後にする。…二人とも、とりあえず座ってくれ。」




僕達が問答してるうちに落ち着いてきたのか、顔を片手で覆った父上が手招く。


ソファの一つに腰を落ち着け、隣にユアが座ったと同時にレーベから目の前に紅茶を置かれた。……レーベの紅茶、まずくはないんだけど美味しくもないんだよなぁ…手をつけるのは止めておこう。


漂う甘い香りの中、深い溜め息が父上から洩れ…申し訳なさそうにガルシアが縮こまっている。何かやらかしたのだろうか。




「…二人とも、ジュエライトという魔獣は知ってるか?」



「いえ、僕は知りません。」



「えっと…確か北の国にしかほぼ生息しない魔獣で、採れる宝石は高品質な魔石になり、王家が生息地を管理してる魔獣のことよね?」



「あぁ。ユア嬢の言う通り、ジュエライトという魔獣は国が保護し共生している魔獣だ。採れる石の量は極僅かで、俺の国はそれを加工して流通させて一割程財を確保してる。生息する山は他国も条約で侵入は許されず、うちの国でジュエライトを従魔に出来るのは条件を呑み、認可した優秀な従魔術師に限られている。」



「ジュエライトの魔石は俺達の装飾にも使われているし、ジュエライトも他の場所にも僅かに生息はしてるが…何せ、北の厳しい寒さでしか生えない薬草を食べて過ごすジュエライトの宝石は他を圧倒する。まぁ、ブランドみたいなもんだ。」




ユアは北の国に嫁ぐからどうやら知ってたらしく、二人の説明に頷いていた。

国交の履歴を見たことはあるけど、そういえばそんな名前の魔獣の魔石もあった気がする。…勉強不足を恥じながら、そもそもなぜそんな魔獣の話になったのか先を促す。



北の国に生息してる魔獣が、父上が激昂する理由と関連があるのだろうか。…別に父上は従魔術師でもないし、僕らも違う。ならば何だというのだろうか。




「……ナオ。」



「何?ガルシア。」




僕とガルシアは幼少から幾度か会ったこともあり、また身内に苦労させられてたガルシアが不憫でこっそり文通なんかする仲なのでわりと気安い。…父上とガルシアの父がそうであるように、見えぬ所で北と南は仲が良かったりする。


ユアの嫁ぎ先がガルシアの弟の一人…アレフとか言ったあの王子になったとき、ガルシアに全力で止められた。なので王家の血を継いでる公爵家にしたんだけど…今となってはガルシアの判断を抱き締めて感謝したいくらいだった。ユアもガルシアに感謝していたし、僕ら兄弟はガルシアとは仲が良い。


それにユアと公爵家の少年も相性が良かったし、何より今日、僕の後にユアとアレフ殿下は話したらしいが…夕食で鬼のような顔をしていたユアを見て、何かあったのは察した。




「…重ね重ね、お前の婚約…はそう言えばしてないのか。…お前の愛すべき者に苦労を掛けて申し訳ない。」




「…何?レンに何かしたの?あの聖女とかいう子?」




「いや、シアレス嬢は全く問題ない。すっかりあの家に馴染んでるし、あの子を可愛がってるらしい…じゃなくてな?」




「ちょっと、ナオ。尻尾うざいわ。」



スーっと感情が一気に冷めていく感覚。


また僕の愛しい子が何かされたんだろうか?ブン、と勝手に動いてしまった尾をユアが鬱陶しそうに手で払うのも気にならず、ガルシアを睨む。


ただ父上の言葉に睨むのは直ぐに止め、ただ先を急かした。…というか馴染んでるって、レンは人をたらすのが上手いな。…あの、天性の末っ子気質はどうやら今世でも健在らしい。嬉しいやら狡いやら。



「うちの国の奴隷商がジュエライトを捕縛、この国で売り物にしようとしたんだろう。ただ、あの娘の住む森で魔獣に襲われたらしく、運よく逃れたジュエライトをあの娘が保護したようなんだ。」




「奴隷商……あぁ、だから父上怒ってたんだ。」




「制度としては納得できるが、違法かつ、俺の国で好き勝手しようとしてたんだ……悪い、カッとなった。」




父上の奴隷や人身売買に対する異常なほどの怒りは皆納得している。だが王として父上もその制度の有用制は理解してるようで…この国では許されずとも、他国の制度にまでは一切口にしない。


内政干渉というのもあるが、不平不満を一切口にしないのは素直にすごいと思う。…身内が犠牲になれば誰もが何でも撤廃しろ、と声を上げてた前世とはやはりこの世界は違う。


何かを天秤にしなくては、国は立ち行かない。


民の声を全て聞いていたら何も上手くいかず、身内の事ですら割り切る事が出来なければ王で在れず。


ユアだって、王家として生まれなければ年相応の恋愛を今頃して、下町の娘のように毎日バカ笑いしてたんだろう。……王族に生まれたならば、僕らは何かしらを犠牲にしなくてはいけない。…そう産まれるよう願った僕はなおのこと。



「ヴォルカーノの奴曰く、奴隷商の生き残りが森に潜伏してる可能性も高く、何よりジュエライトの保護をどうするか打診があったんだ。


あの子にもどうやら懐いてるらしいが……従魔には断固としてしないんだと。」



「…あぁ、多分ジュエライトが人間に虐げられたうえ、本来この土地に生息してる訳じゃないからだろうね。レンからしたら絶対親元に返してあげなきゃいけない保護対象って見てるんだろうね、価値とか全部無視して。」




「流石だな…その通りだ。それで、うちで預かるのかそのまま教会に預けるのか決めたいんだ。」




「……?それならガルシアとお父様がお決めになったら良かったのでは?私達は従魔術師でもないし、なぜお呼びに?」



確かに。


レンのことではあるけど、僕はまだ北の国に関わりがないし、父上とガルシアが内密で決めたって問題のない事だろう。




「ジュエライトは特別な魔獣なんだ。国として保護してるのを民間が代理で保護してる以上それなりの筋を通さなきゃ色々せっつかれる。


特に奴隷商なんて大問題だ。まず奴隷商を招いた馬鹿を炙り出し、そして生き延びた奴らも捕縛。…と、なるとだ。一番に疑われるのは…」



「俺達だろう。北の国のジュエライトという時点で、此方の貴族が手引きした可能性が高い。だから保護する人材も捕縛する人材も手配ができない。」




「成る程。では私達が指揮を取れって事ですね。」



「じゃあ僕があの子の元に行っても構わないよね?」



「はぁ?駄目に決まってるじゃない!行くのは私!」



「なんでユアがしゃしゃり出てくるわけ?王太子は僕なんだし、国交に役立てられるなら僕が行くべきでしょう。」




横から突っ掛かってきたユアを睨み付ければ、金の瞳で睨み返される。


ここでイクスが居たら僕達は纏めて丸め込まれてただろうが…本当に居なくて助かった。イクスを行かせるのだけは何よりも避けたい。あの腹黒、レンに発破を掛けて自分は楽をしかねない。



「まぁ、待て。…俺としてはどちらが行っても小さな問題がある。


ナオ、お前あの子と一つ屋根の下、一切手を出さない確証は?


ユア、お前はまだ他の二人に比べて武力が劣る。魔力も少なすぎるくらいだが…もし奴隷商が来たらお前は足手まといになるんじゃないか?」




「「それは……」」




言い淀み、口を塞ぐ。


ユアにいたっては悔しそうに手を強く握り締めている。…余程足手まといになると言われたのが堪えてるのだろう。


…ユアが別に弱い訳じゃない。護衛騎士の新人なら幾らでも相手取れるだろうが僕達と比べると……弱い。


僕らは獣王の子。雌も雄も関係なく、強く在らねばならない。…勿論彼女には彼女の強みがあるが、単純な武力の話になると事情が変わってくる。


ユアは父上と母上の力を平等に継いだからこそ()()()()()()()()()。僕からしたら父上の様な胆力は羨ましい限りだけど…イクスには劣り、治癒の力も僕には劣る。



…本人は中途半端な存在だって苦悩してたっけな。




「……分かった。ユアに今回は譲るよ。…っていうか初めからそのつもりだったんでしょ?父上。」



「はは、まぁな…だがお前が納得せずにユアを送り出したら、お前、勝手に抜け出すだろう?」



「そりゃあね。そもそも、一番に会うべきは本来僕だと思うんだけど。」



「俺も事情は聞いているが……何か会えない理由でもあるのか?」



「いや、隣国の王子に聞かせる事でも……んん”っ!兎も角、ユア、お前にジュエライトの保護は任せる。ダンテリアを連れていけ。」



「仰せのままに。…ところで、それってジュエライトに関する決定権は全て私に移行って事でいいのですか?」



「ん?あぁ。お前の判断に全て委ねる。ただし宿泊は許さんからな。あの場には既にシアレス嬢が居る。俺も好き好んで負担を一ヶ所に集めたくはないし、遊びに行くわけではないからな。

多少羽目を外すのは許すが、あくまで、第一王女として振る舞うように。」



「……残念。」




珍しくユアにしっかり釘を刺した父上をちょっと見直した。


父上は特にユアに甘く、ちょっと……いや、だいぶ何でも許してきた。本人が嫌がってたのが幸いして我が儘姫にならなかったのだけは良かった。前世、流行りかけてた悪役令嬢なるものにユアをさせたくはないし……いや、確か悪役令嬢が救われる話だったっけ?忘れちゃった。


そんなどうでも良いことを考えていたら、ガルシアが深いため息を溢した。



「どうかした?」



「あぁ、いや…すまない。つい気が抜けてな……


シアレスのこと、本当に感謝している。あの娘が居なくては俺は大事なものを取り零すところだった。…上手くいってた、筈だったんだ俺の中では。シアレスが俺の考えを理解してくれてるものだと…勘違いしていた。


言葉にしなくては伝わらない。


…当たり前のことなのにすっかり忘れていた。」




「僕達は物言われずとも察しなくてはいけない立場だからね。…彼女も、運が悪かったとしか言いようがない。苦痛を耐えられてしまったからガルシアも気付けず…侍女もあんなのだから誰も彼女を見なかった。


レンは感情の起伏に過敏だし、無礼を働かれた怒りとは別で冷静な思考も出来るいい子だから…シアレス嬢の怯えに気付けた。」




「ああも吼えられたのは初めてだった…随分、勇ましい子だな?」




「あの子、昔から破天荒な事ばっかりよねぇ……拳が駄目になるほど人を殴ったり、なのに息子の方は許したりとか。」




「あぁ。レンは反省が見えたら怒らないからね。…よくまぁ、反省してると見抜けるなあと日々思ってたよ…」




レンの怒りには明確な基準がある。


大抵のことならあの子は受け流すが、その分地雷を踏み抜くと恐ろしい目に合う。というか、魚雷レベルであの子が痛い目に合わせるべく突っ込んでくる。



その地雷も、案外多い。



まず一番は僕の事。そしてフロウやヴォルカーノ神父、アヴィリオ達も現在そうだ。

身内を貶されれば誰しも怒りを覚えるが、あの子はそれが尋常ではない。…あの子の家庭が歪めてしまったあの子の性質の一部。


あの子は誰よりも何よりも執着心が強い。ただ束縛したいとかではなく、己の手にしたものが他者に汚されるのを酷く嫌う。…確か姉とは仲が良かったそうで、姉妹同士で何だかんだ依存しあってたのも覚えている。


幼少の頃、あの子とあの子のお姉さんだけでずっと家で居たそう。友達と遊びたい盛りに、だ。


外で遊ぶこともなく、流行りの玩具で遊ぶこともなく。ただ延々と二人だけで同じ遊びを何度も、何度も。


そりゃあお互い依存し合うというものだ。だって二人でしか退屈を凌げなかったんだから。


せめて、もう少し興味を拡散できていれば良かったのだろうが…ただ、あの子の執着心は心地いい。




「レンってさ、何よりも自分が大事にしようと思った人には一気に忠犬になるんだよね。最初はすん、って見向きもしないくせに、一度懐に入れてしまうと警戒心が何処かに消えちゃうんだ。」



「……あの娘が、か?信じられんな…」



「そりゃあ身内判定するまでの道程は長いからね。…僕だって、一度フラれてるんだよ?」




「「………え?」」




「…あ、ごめん。言い方を間違えた。フラれたんじゃなくて…揺すられた、って言うべきか。…いや、それもちょっと違うかな………ああ。情緒不安定になった彼女を泣かせてしまった、が正しいかな。」




カシャン!とユアの手から落ちたカップ。レーベですら声を発し固まったのを見て言葉を間違えたのだと悟る。

まぁ、あのときのショックはフラれたといっても過言ではないが…


レーベに手を振って落ちたカップを片して貰い、新しいカップに口を着けながら眼を輝かせてこちらを見てくるユアにため息を吐く。…ガルシアと父上も、そんな前のめりになるほど気になるんですか。



「泣かせてしまった、というのは…?」



「僕ら、一緒に暮らすまでは何年か遠距離恋愛だったんだ。会えて月1、会えないのが何ヵ月も続くことも多かった。


一度僕達の縁は途切れてる。それでも大人になって再会して…僕と付き合う迄に色んな悪い男に引っ掛かったみたいでね?…あの子、賢いように見えて恋をするとほんっと、一途でおバカさんになるからさ……何度も、何度も、何度も。傷つけられて浮気されて、あの子の献身に誰一人応えなかった。


それで、まぁ、そりゃあ僕と付き合うのだって怯えてたさ。臆病になるのは当然だと思うし、時間を掛けて彼女を手離さないと分かって貰おうと思ってたから。


でも、ある日、ね。……連絡を避けるようになって…問い詰めたら《会いたくても会えなくて苦しいのに、好きだなんて言わないで》って泣かれちゃってさ_____ほんと、おバカで愛しくてどうしようかと思った。」




レンの意地っ張りは愛情の裏返し。本当は会いたくて堪らなくて、話したくて仕方なくて、それでもしつこくして僕に嫌われたくないって感情と彼女のなけなしのプライドがせめぎあった答えがあれなのだから…愛しい以外のなんだというのか。




「へぇ…意外だな、あの子がそんな事言うのなんて想像つかないが……離れてても自分の!ってやるタイプだろ、あの子は。」



「父上の言う通り、普段はそっちですよ。でもどうしようもなく気分が落ち着かない日って誰にでもあるでしょう?…あの子が距離を置こうとするのは僕に嫌われないため。

しつこくしないように、酷いことを言わないように。……睡眠薬まで使って、無理矢理休みを潰してたのとか、可愛すぎるでしょ。」



「……なんというか………似た者同士だな、お前たちは…」




どこか疲れたガルシアの言葉に二人が頷いた。


レンと僕は似てないと思うけどなぁ。僕の方が、何倍も執着してるんだから。




ネコちゃんの獣人は基本そっぽ向くのは標準装備

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