第八十節 悋気狐
ハロウィンイベ、参戦できる事に感涙
「そういえば、なんで私の呼び掛けに答えなかったの。ノーチェ。それに来たとき半泣きだったし…」
「あ、えっと……」
「アーシェがねぇ、ぶちギレてたのよぉ。それを私とノーチェで抑えてたの。」
「………アーシェが?なんで?」
クッションに凭れるノーチェに抱えられる様に腰を落ち着け、シアレスも同様に蛇のような姿に戻ったシャルーに巻き付かれている。…緊張でガチガチになってるのが分かるが、アーシェの事を説明してなかったので首を傾げている。
「アーシェってば、炎の神でしょう?で、炎に連なる系譜に宝玉の神って子が居るのよぅ。
でもって、ジュエライトって魔獣はその子が産み出した眷属の一つで、神の眷属を傷付けるなんて愚か者にアーシェが正しく怒髪天!この空間で暴れるもんだから、宥めて放り出すのが大変だったわぁ。」
「ジュエライトがそんな子だったなんて……知りませんでした。…その、ごめんなさい…うちの国の者が…」
「あら、シアレスが謝ることじゃないのよ?それにこの地に来てくれた…というか、レンがジュエライトを保護したから気付けた事だしねぇ。
今頃大変よう、その奴隷商とやら。私達は確かに人間に干渉できないけど…例えば、精霊を使ってほんのぼや騒ぎとかくらいなら出来るのよねぇ。まぁ、気を付けてれば防げるほんの悪戯程度よぅ。」
「あの子が…そうだったんだ。宝玉の神様とやらに謝っといた方がいい?」
「いえ、シャルーも言いましたが貴女方が謝ることは無いのです。…どうしても気になるようであれば、後でその方へ向けて祈ったらいかがです?本来であれば北の方に駐屯してる神ですが祈りというものはどんな場所からでも届くので。」
「分かった。……ん、そろそろ時間かな。」
ぼんやりとノーチェの温もりが薄れて来たのを感じる。シアレスも同様の感覚を抱いているのか不思議そうな顔をして、けれど私の言葉の意味が分かったようでどこか寂しそうな顔をした。
「だぁいじょうぶ。私はいつも、貴女を見守ってるのよ…これからは少しずつ声も届くわぁ。だから____そんな寂しそうな顔をしちゃだめ。囲ってしまいたくなるのぉ。」
「っシャルー!!!!」
「……んもう。冗談よ、じょ、う、だ、ん!」
…………絶対嘘だぁ。
妖しく輝いた瞳に二人で引っ付いて離れ、ノーチェを盾にしてしまった。シアレスも本能的な恐怖をしっかり感じたようで…顔色が少し悪い。
キッ!と眉を吊り上げるノーチェが珍しく勇ましく感じたところで、視界が眩んだ。
………戻ってこれたらしい。…ノーチェ、ちゃんとシャルーを御して居てね。私のストレスになる。
見事に肉体の方にも疲労が蓄積されていて、……折角回復したばかりだと言うのに、無理矢理向こうの空間で身体強化なんてしたもんだからまた見事にすっからかんである。どれだけ魔力持ってかれたんだ彼処……今後は止めよう。下手したらぶっ倒れる。
「…き、……強烈だったわね、シャルー様…」
「あー、…うん。まぁ。でも神様ってそんなもんじゃない?私達の常識に当て嵌める方が無謀だって。」
「それは、そうだけど……ノーチェ様が居て下さって良かったわ。」
「それは思う。……っと、忘れないうちに。」
無様に二人揃って尻餅を着いて居たけど、もう一度姿勢を正して祈る。…呼び掛けではなく、純粋な祈り。
宝玉の神へ向けて、お宅の子を預かることと必ず返すことを一方的に誓って、眼を開ける。
……届いたかな?…届くといいな。せめてあの子は無事なのだと。
一息着いて時計を見ると、とっくに眠る時間は過ぎていた…神父様たちが呼びに来なかったのはシアレスの事もあったからだろう。そこそこ早い時間に祈った筈なんだけど…どうも時間の感覚が違くて掴めない。ただ、時計を見てしまうと勝手に欠伸が洩れ、それがシアレスに移る。
「……今日はもう休もっか。」
「そうね…また明日から宜しくね。レン。」
くし、と眼を擦りながら部屋を出ると…神父様が待っていた。出てくるまで待っててくれてたんだろう、本が二冊ほど置いてあった。
「どうじゃ?神託スキルは得られたか?」
「いえ、直ぐにというのは無理でした。でも早いうちに会得出来るかと。」
「うん、シアレスもシアレスを加護する神様に気に入られてるからそんなに時間掛かんないと思うし……あとね、眼の使い方を教えてくれるって言うから私も此方にいる間はシアレスと一緒にお祈りするぅ。…魔眼、って言ってたけど、そんな格好いい呼び方するの?」
「ふむ…魔力を保有する眼、という意味でしかないが……確かにそう呼んでいたな。使い方を教えられるのは保有する者だけだが……神様直々にお教え頂けるというのなら存分に学んで来なさい。」
「はぁい……でもシャルー相手だと魔力全部持ってかれそうな気もする……程々に頑張ってくるね。」
くしゃくしゃと撫でる手に甘んじて、一頻り頭を押し付けて別れた。……シアレスが物凄く撫でたそうにしてたが、神父様が一番なので見なかったことにする。もう寝ようね。
部屋は隣り合ってるので特に心配することもなく、見送り…自室に入って……驚いた。
ベットをフロウとジュエライトが占領していた。……寝れないんですけど、それ。…ジュエライトは完全に寝ているが、フロウに関しては起きている。のそ、と顔だけ上げてこちらを見詰めてくる。
本当は、寝れないこともない。…ただだいぶ狭くなったベットよりも空いてる大きめのクッションの方が絶対寝心地は良いわけで……あ、だめ?此方で寝ろ?…君どんだけべったりしたいのさ……
「はいはい、分かったよ……足とか、ぶつかっても怒らないでよね。」
満足そうに鼻を鳴らし、尻尾で包んでくれたフロウを撫でていれば…ジュエライトが目を開けた。寝惚けてるのだろう。瞼が何度もくっつきそうになりながら身を私の方に寄せてきた。…これ、起きて蹴りとか食らったら怖いなぁ。
温もりを求めているのだろうが、人間への警戒心が無くなった訳ではないはず。…まぁ、起きたら考えればいいか。
食事後、改めてシアレスに診てもらい…傷跡も無くなった小さな角を撫でる。
いつか立派な、大きな角になるのだろう。そして近くに生えるこの宝石も。…ジュエライトの棲息する場所に行けば生体も見れるだろうか。この子を返すときに出会えたらいいなぁ。
「……フォウ。」
「なぁに。…あぁ、この子は従魔にしないよ。この子の身内も。…本来出会わなかったんだから、少なくとも今はしない。ちゃんと元居た場所に帰そうね。家族が、心配してる筈。
___そういえば、君もさ、…捨て子だったけど…今なら群れに帰れるんじゃない?…帰りたい?………っていだだだだだだ!!!」
はぁ?みたいな顔をされて、肩をがぶりとやられた。歯形が残るほど酷く。…血が出ないギリギリを攻めてくる辺り本当に力加減は上手いと思うけど、褒めるのは今じゃない。
声を潜めながら傷跡を擦り、何すんだと見詰め返してみると、ごつ、と頭突きされた。
「………ごめん。でもいきなり噛むことなくない?」
曰く。フロウにとっての家族は私達で、帰る場所は此処なのだと。
…嬉しくない訳がないが、でもいきなり噛むことはないと思う。……出てけって意味で勿論問い掛けた訳でもないし、せめてもうちょっと優しく噛むとかさ…
「フォ。」
「…なにそれ、ヤキモチ?君本当に誰にでもヤキモチするねぇ…あぁ、ごめんってば、嫌ってないよ。
言ったでしょう?君は特別な相棒なんだって。そりゃあナオとはどうしても比べられないけど……契約した子が幾ら増えようと。君は一番の相棒なんだってば。」
ジュエライト以外の事でも言いたいことがあったようで、何度も頭を擦り付けては濁流の様に感情を流してくる。
…ここまでスムーズに、はっきりと感情伝達できるのも私達の絆があるからなのだけれど……やはり刷り込みというのは恐ろしい。
べったりと普段離れないフロウにとって、離れていたことも、知らない人が私に気安く触れ合ってるのも不満だったんだそう。何なら自分以外の従魔はいらないでしょ?みたいな顔もしてくる…デューと仲悪いもんね、君。今日も小競り合いしてたのちらっと見たんだからね。
「これからも、きっと従魔は増えてくんだろうけど……君が一番なんだよ。それは揺るがない。叶う限り、君にはずっと側に居て貰うつもりだしね。」
「……フォン。」
「っていうか、冒険者になったら君にいっぱい頼るだろうしね。……もう寝ようね。お休み。」
一先ず満足したのか、私達を包み込むように身体を伏せたフロウ。…従魔にだって人間のように一人一人個性があり、たまたまこの子は独占欲が強かっただけで、煙たがる事も面倒だと思うこともない。
私の大事な家族であり、相棒であり、従魔なのだから。
きっと今後は頼ることも増えるだろう。…何しろ私は防衛戦が苦手なので、攻める時なんかはフロウの速度を借りるだろうし。
……フロウと共に駆ける未来を想像して、私も瞳を伏せる。
そう遠くない未来、フロウと共にナオの隣に立つ。そんな未来を夢見て。
焼き芋がおいしい季節




