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まぁ、転生したからといって美少女になりたいとは限らない  作者: ゴリラの華
二章 最強も望まない
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第七十八節 黒猫の決意

一気に寒くなって肥えてきたゴリラ、あと酒ぐううまい




食後。食器洗いは神父様に任せ、お風呂の準備の合間に従魔を紹介することにした。



「では、改めて。シアレスの目の前で漂ってるのがソニード・リュエールのデュー。

そしてクリスタルペイルウィングのクォーツに、右から順にペイルウィングのウーノ、ドース、トゥーレ、クーア、スィーンです。間違えないでね!」




「…中々難しいこと言うわね……装飾品とか付けてたらまだ分かるのに…」




「私は分かるんだけど……装飾品、確かにいいかもね。皆でお揃いのスカーフとか付ける?個体で分かるように花の刺繍とか付けてさ。」



尾羽の長さ云々と確かに素人に言っても仕方ないのは事実。


それに私の従魔、と分かるし装飾品はいい考えかもしれない。


皆嫌がる素振りもなく、クーアとクォーツに至っては乗り気だった。両頬を羽根でもふもふするんじゃありません。溺れるでしょう。



「レン~準備出来たわよ~、入ってらっしゃい。」



「分かったぁ…じゃあ、シアレス。来て。洗ってあげる。皆は今日はリムネルに洗ってもらってね。」



「え?!私も?!」



「痛んだのを手入れするんだから当然!ほら、着替えもっていくよ!」



私は既に自室からお手入れ道具一式とシアレスに合いそうなのも持ってきてるので問題なし。暫く唸ってたシアレスも大人しく服を取りに行き、二人で脱衣所に入る。お風呂大きいって素晴らしい。のびのびと過ごせるし、お湯もどうやら森を流れる綺麗な水を使ってるからか凄く体調が良くなる。


腰痛でひいひいしてた社畜時代が懐かしい。…まぁ、狭いお風呂も好きだったんだけどね。



「……貴女、脱ぐのに躊躇いが無さすぎませんこと…?」



「同性でしょう?まぁ、シアレスほどの美人と入れるのは確かに浮かれるけどね。…服で隠れてるけど意外にあるねぇ。」



「貴女に言われたくないわよ!…というか、なんでそんなにたっぷりしてるのよ………なんですの?これ。ふわふわし過ぎじゃない…?」



タオルで隠すシアレス。隠すのは当然の反応ながら人の胸をつつく時点で同類だと思う。下から持ち上げられると少し楽だったりするので何も言わないけど。


何度も見比べるシアレスを宥めながらなんとか浴室に行き、髪を濡らす。桶とかじゃなくてシャワーは普及してるので本当に快適だ。



「なんだかホッとするわ。…城に居た頃はお風呂も急かされたし、お湯は熱かったり逆に冷たかったりしたし……髪を酷く掴むように洗われたりしたから…」



「同じことし返しちゃえばいいのに。…シアレスの髪って綺麗な色だよね。前世も一緒?」



「いいえ、前世は……藍色だったの、私。名前もシアレスじゃなくて、ソアレ。…でもシアレスの方が気に入ってるのよ。

此方のお父さんとお母さんがね、昔村一番の美人の名前を付けてくださったの。その人はアレス。…シアレスは、私の村の古い訛りの言葉で《誰よりも美しく優しい人》という意味なんですって。不思議よね、たった四文字でそんな意味を詰め込むなんて。」




「大丈夫、私の前世の昔の言葉なんかもっと意味分からない。あはれ、って言葉で意味が《しみじみとした、感慨深い》なんてある。本当に言葉って難しい……いとをかしで《とても趣が深い》ってどういうことよ…」



「少なくとも私の世界には無かった言葉ね……世界って幾つもあるのね。今でも不思議。」



いったいどれ程の世界があるのか。…確かにそれは物凄く気になるが……考えるだけ不毛というもの。


選択肢をほんの一つ違えただけで、今の私とは別の私が出来上がる。神父様を警戒し続けて居たら、あの日教会で掃除を手伝って居なければ、フロウと出会って居なければ……どこの世界にも“今”の私は居ないだろう。



大樹の枝分かれしたほんの一つの世界だと思っていた方がいい。無駄に頭を消費すると甘いものが食べたくなるし。



一旦思考を放棄してわしゃわしゃとシアレスの髪を洗い、整える。ふわりと立ち込める爽やかな花の匂いと石鹸の匂い。

それだけでだいぶシアレスもリラックス出来たのか無駄な力が抜けた…ついでに頭皮マッサージもプレゼント。




「……お風呂ってこんなにリラックス出来るものなのね…寝ちゃいそうだわ。」



「城ほどではないけど、お布団もふかふかにしてあるからぐっすり寝れるはずだよ。…はい、流すよ。」



目に入らぬように丁寧に泡を落とし、内側から整える薬剤を全体に、そして毛先には重点的に付けて少し揉む。これは身体を流すときに一緒に流せばいいだろう。


流石に同性といえど身体を洗われるのは嫌がるだろうから使い方を教え、私も自分の髪を流した。勿論シアレスとは別のものなので香りが少し違う。

髪質に合わせて調合してあるので、シアレスに使ったものを私に使うと唯でさえ量の多いこの髪が爆発する。


頭の泡を流す頃、ちょうど身体を洗い終えたようなので白緑の髪をもう一度濯ぐ。…うん、一日だけでもだいぶ良くなったと思う。手触りが全然違う。あとは髪を乾かすときに保湿しておけば大丈夫だろう。

洗い終えた本人も何度も自分の髪を触っては嬉しそうにしてる。…身体冷えちゃうから先に湯船にご案内して、私も一通り洗って合流する。二人入っても全然身体をゆったり伸ばせる…おうちのお風呂っていうより浴場だよね。これ。

五人くらいなら手足を伸ばしても余裕があるくらいだし…汚れた水はトイレに利用されたり、魔術道具で清潔にされて森に循環したりと資源が無駄になることもない。


入浴剤も既に入っていて、薔薇の花びらがお風呂に浮かび、赤く透明なお湯は上品な匂いがする。…シアレスを歓迎してるリムネルからの贈り物だろう。薔薇の花なんてこの森にないから…仕入れたのをわざわざ使ってくれたのかな。




「さいっこう…」



「気に入った?」



「気に入らないわけないじゃない!そりゃあ王城は王族が住むのだから食材や設備も一級なのだけれど……私、こっちの方が好きだわ。コメも美味しいって知れたし…こう、皆がもてなしてくれてるのが凄く嬉しい。

……私、何をお返しできるかしら…」



「見返りを求めてやってるんじゃないよ。それに結果的に見返りは後々あるし。…ただ皆、シアレスのこと気に入ったからだと思うよ。勿論私が連れてきたからっていうのも最初は会っただろうけど…それぞれとお喋りしてどうだった?楽しかったでしょ。


リムネルもアヴィリオもね、本当は厳しい人なんだって。私も感じたことないけど…エルフは厳格な一族だから。」



「全然そんな風に思わなかったわ。二人とも凄く物知りで、聞けば聞く度に疑問が湧いて尽きなかったのを丁寧に教えてくれたし……ああでも、二人ともレンの事を教えてくれたわ。」



「げっ……なんか余計なこと言ってた?」



「そんな顔しないの。


二人曰く《大人しそうに見えて破天荒だけど、いい子。》《よく無茶をするし突発的な行動もあるから気を付けてやってほしい。》ですって。


ガルシア様に怒鳴ったことを見てた私としては物凄く的確な言葉だと思うわ。私を受け入れてくれた事やジュエライトの事含めて、ね。」




大きく身体を上へ伸ばしたシアレスの動きに合わせ、ちゃぷんと赤い水面が揺れる。

散々な言われような気がするけど、自覚してる部分もあるので言い返せない。


此方に来てからか、前世では絶対しないようなことをしてしまうことはわりとある。それこそ王族に吼えるとか、下手をすると首が飛ぶ。…まぁ、完全にガルシアが悪かったので躊躇いは然程なかったけど。…それでも、本来であれば異常だろう。



「……獣人の、先祖返りの影響だと思いたい…反省してなくもないんだけど……こう、我慢出来なくなったというか…」



「怒ってる訳じゃないのよ?ただ貴女は無茶をしがちって思われてるってこと。」



「……気を付ける。」



気を付けたところでどうの、という話でもない気はするが…何も心構えがないよりかはずっとずっとマシだろう。


くすくすと笑ったシアレスに抱き締められ、程好く温まった体温に甘える。



「私、貴女に出会えて本当によかった。…此方を選んだのは私なのに、連れてきてくれた神様にさえ恨みを抱いてしまいそうだったわ。

ありがとう、レン。私を救ってくれて。」



「なにもしてないよ。巻き込んだだけ。…でも、どういたしまして。シアレス。」



ずっとずっと辛い生き方をしてきたのに、同じ立場で在りながらのうのうと暮らす私を恨むでもなく、心からの感謝。


腐ることも廃れることもない、シアレスの…ソアレという人物の在り方。強い輝きのようなその在り方にアヴィリオ達も気を許したんだろう。


最初に聞いた、幼い子供のような泣き声は、辛かった、というのもあったけど……漸く気付いてくれた、という意味合いの方が強かったんだと思う。一人で、誰にも言えず、勘違いされながらそれでも懸命に日々を生きて声を上げ続けた彼女。



……これ以上、彼女の安寧を奪わせる訳にはいかない。



「シアレス、私は今この時をもって、この国を離れるまで貴女を全霊をもって御守りする。貴女に幸福が訪れるように、貴女の努力が実を結ぶように。」



「急にどうしたの。……ふふ、でも、騎士さまみたい。お願いね、可愛い騎士さん。」




この人は守るに値する人だ。


守られなければいけない人だ。…依頼とかを抜きにしてただそう思う。


騎士が抱く忠誠心とはまた少し違うけど、初めて過ごす女友達が日々笑えるように私は守ろう。




それはきっと、ナオの役にも立つし、私自身のためでもあるのだから。





ただし三%一本で酔うクソザコ

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