第七十五節 シアレス2
連勤が続くゴリラ、へろへろになって死んでるので更新ペース崩れるぞい
結論から言うと、シアレスはステータスの確認は出来た。…空中に投影するのは難しかったそうで、教会にある石板に投影する方法に切り替えた。…20分程は掛かったが、無事確認出来て良かった。
幼い頃にステータスを確認するのは魔術というものに慣れさせるため、という意味合いもあったそうで…シアレスは前世も魔術があったらしいからこそ、あの時間で済んだのだと思う。それよりも私の世界、その手の娯楽に富み過ぎてて本当にこういう世界で皆有能になれると思う。特別な力など与えられなくても工夫次第で幾らでも成り上がれそう…
で、シアレスについて。
驚いたことに魔術スキルはどれも無かった。どうやら前世で扱ってたものは此方の世界で発現させてないのでスキルとしてカウントされてない模様。いくら前世で無双した魔術師や剣士であっても転生したらリセット…まぁ、経験値としては蓄積されてるので発現さえ出来れば元の強さに戻るだろう。
生活魔術も無かったのはシアレスの居た村は井戸で水を組んだり、魔術を基本扱わない生活だったからだそう。
そして気になったのは“織り師”というスキル。
機織り全般の経験値のことの様で、シアレスも自分で見て驚いていた。スキルレベルは8と中々に高いと思う。本人も得意だったって言ってるし。
あとは勿論加護。
“シャルー”というのが彼女を守護する神様らしい。
「シャルー様の声を聞けたのは転生したときと村から移動した時だけ…今思えば移動した時、すごく焦ってたように感じるの。」
「ふぅん。…まぁ、神託スキルがない以上、基本的に関与出来ないからね。夜に教えてあげるよ……っと、シアレス、焦げる。」
「あら?……おかしいわね、貴女と同じ手順で作ってるのに…」
「火力高くし過ぎ。時間をゆっくり掛けて料理を作るのも大事だよ。」
早々に修行モドキを切り上げ、夕飯の支度を開始している。今日はアヴィリオの日だけどシアレスとの交友も含めて勝手に交代した。
今日はお米様の美味しさを知ってもらうために丼ものでいく。あまり料理は得意でないと言っていたシアレスにも簡単だし……と思ったのだけど、お肉を焼くのにも一悶着。強火で焼けばいいってもんじゃありません。
「…お城の料理人さんって皆凄いのね…芸術品みたいにキラキラしたのしか見たこと無いわ。」
「そりゃ王族の口に入るものなんだよ?下手したら首が飛ぶって。……はい、あーん。」
「私もそのうち王族になるのですけれど……んっ!美味しい!」
「この教会に居る間はただのシアレスですぅ。次期王妃とか知りません。」
そんな軽口を交じえて、普段よりもゆっくり夕飯を作る。…どうせ二人が帰ってくるのも時間掛かるしね。
そして何より……ちょっと懐かしくて何回か手が止まってしまった。
私には兄も姉も居た。顔も声ももう朧気で、きっと幸せに生きてるのだろう大切な兄妹。
特に姉とは一番長く一緒に居た。…こうして料理を一緒に作ることもあった。…まぁ、姉の方がずっとずっと上手で、私が付きまとってるような感じであったのだけど。
「こんな感じだったなぁ…」
「?何が?」
「…あ、ごめん。声に出てた?
ちょっと姉の事を思い返してた。前世のね。年子でさ、一つしか変わらないのに私よりずっとずっと料理上手だったんだよ。……凝り性なだけだし、菓子類は壊滅的だったけど。…あんまり顔も声も、思い返せなくなっちゃったんだけどね。」
「そう……大好きだったのね。」
「まぁね。兄も居たけど片親が違くてね、年も離れてたから距離感がよくお互い分かってなかったのもあったし…こうして、シアレスと話してるみたいに小突きあって狭い台所に立ったりとかよくしてた。
小さい頃、二人で夜中にこっそり夜食作ったりなんかしてね。」
「ふふ、夜中の空腹って、何倍にもご飯を美味しくさせるのよね。」
そう、こうして。肩をぶつけ合って、他愛の無い事でケラケラ笑って。沢山揉めたこともあるけど、それ以上に嫌いになれる分けなくて……
不意に、頬が熱くなった。
…泣いてるのに気付くのに数秒掛かった。
「…ノスタルジーな想い、って言うんだっけ。もう帰れないのにね。」
「……それでも、家族を想って泣けるのは悪いことじゃないわ。…例え少しずつ忘れていってしまっても…その想いは確かじゃない。」
「選んだのは自分なのにね。酷く矛盾してる。……シアレスもでしょう?」
「…えぇ。私も、自分で世界を捨てたのにたまに思い返すの。母は、父は、他の家族や友は。…捨てたくせに後悔を重ねて、でも生きるにはそれしかなくて……そうして意味の無い涙を流すの。」
「同じだね。私達は。…ううん。この世界を選んだ人はきっと皆。望郷の念を抱きながら、どこかで冷静な自分が嘲笑ってる。」
「そうね……矛盾してたって仕方ないじゃない、それが人間なんですもの。」
肩を寄せあって、涙を流しながら手を動かす。
悲しいのかと言われればそうでもなく、悔しいのかと言われればやはりそれも違く。
__大切だったものを忘れていくくせに涙を流す自分が汚ならしいものに思えてくる。
けれどそれをシアレスは仕方ないと言って笑うから、そうなのだと思った。私達は同じだ。元の世界を、家族を自らの手で捨てた。
落としたものは二度と掬えぬと分かっているのに捨てたのだから、それで涙するなんて烏滸がましい。
それでも、その矛盾こそが人間なのだという。……きっと、そうなのだろう。
「……ちょっとしょっぱいかな?」
「いいえ、丁度いいくらいよ。」
「そっか。」
だから、共に泣くことはしない。慰めることもしない。
私達は選んだもの。慰めなんて意味がない。
「んー、そうか?少ししょっぱい気がするが。」
「っ…アヴィリオ、いつの間に。おかえり。」
「おう、ただいま。今日の夕飯当番だったからな。先に切り上げて帰ってきたんだが……しょっぱいぜ。これ。」
「アヴィリオは薄味派だからね。よそうときに薄くしたの上げるよ。」
「そうしろ。……で?アンタは?」
「あ……えっと、シアレス、です。なんて言ったらいいのかしら……レンに巻き込まれてきました…?」
「酷く語弊がある。」
突然、手を勝手に動かされ、箸で摘まんでたお肉が何者かに食べられたと思ったら…動きやすい服を着たアヴィリオが後ろから覗き込んでいた。
後頭部を胸元にぶつけてしまったのはご愛敬だし、ふんわり汗と香水か何かのいい匂いを嗅いでしまったのも事故だ。色っぽい匂いだったと此処に報告します。キャラのグッズが出るならこの匂いの香水がいい。キャラデザTシャツとかじゃなくて概念的なグッズが。
そんなことよりシアレスの言葉が問題だ。そしてアヴィリオのまたか、みたいな視線も問題だ。レンちゃんそこまで大事起こしたこと…………無いこともないけど、普段からはしてないよ!
「こちらシアレス。サルバルフ国の第一王子の婚約者で転生者です。暫く私管轄で修行モドキとマナー講座をやるので泊まるから宜しくね。王様からの命令なので苦情はディグラートさん経由でお願い。
あと、可能なら少し面倒も。私が預かった以上、基本的には私が関わるけど…気になることがあったら教えてほしい。」
「ほー……これで俺にぶん投げて来たらどうしてやろうかと思ってたが、よくわかってんじゃねぇか。」
「王様からの命令は“私が護り抜くこと”。アヴィリオ達は間接的に関わっただけにしないと、色々貴族にせっつかれるでしょう?次期公爵令嬢なら多少誤魔化せるからこその王様の命令。…ナオの手助けにもなるし、頑張っちゃう。」
上出来だ、と撫でてくれる手に甘んじ、頷く。
ただ教えるだけならアヴィリオやアルトゥールで足りるのに、私を巻き込んだということは彼らじゃ乗り越えられない壁があるということ。
大体は身分のことなので今回もそれに該当する。
……シアレスが小物を見ていたときにディグラートさんにこっそり教えて貰ったとかではない。
「それにシアレスはギルドに所属したりするわけじゃないからね。適任は私だと思う。」
「ならいい。俺達も日程は調節するから後で声掛けろ。……俺はアヴィリオだ、こいつの師匠をギルドからの依頼で請け負ってる。もう一人リムネルってやつも居るが……まぁ、会ったら分かる。そのうち来るから適当に寛いでてくれ。話し方もレンに話すとき見たいでいい。変に畏まられると面倒だしな。」
「よろしくお願いします…いえ、お願いするわ。知らないことも多いだろうし、沢山聞いてしまうけどご容赦を。」
「大丈夫、アヴィリオ女性と子供には優しいし、頼られるの何だかんだで好きなツンデレだか…いたたたた!!」
「だぁれがツンデレだ!」
後ろに立ってるのを良いことに蟀谷をぐりぐりされた。あんまり力は入ってないけど、意外に響くんだなそれが。
驚いた顔をしたシアレスも、くすくすと笑い出してさっきまでの空気は消えた。
……あのタイミングで声を掛けたのはわざとだろうと思いつつも、何処から聞いてたかなんて野暮なことは聞かなかった。
痛くて泣いたふりをして、こっそり目元を拭う。鼻で笑ったアヴィリオには尻尾で反撃して、試食途中だったお肉を今度こそ口にする。
……今度はしょっぱくないと思えた。
あとそれはそれとしてゲームしてました、DOMANチャレンジやります




