第七十四話 シアレス1
先日成人を迎えたゴリラ、髪ばっさり切ったらオベロンヘアになりました。詳しくはwebで
シアレスを連れて、ぐるっと教会の中を回る。勿論アヴィリオ達の部屋の扉は開かなかった。いい子だからね。
ただ、神父様しか教会に居ないみたい。フロウ達も揃って教会から離れた位置に居る。…訓練してるのか、あるいは遊んでるのか。まぁ、夜には帰ってくるだろうしいっか。
「なんていうか…前世を思い出すわ。もう少し狭いけど、こんな間取りで…お父様の血筋がね、騎士だから…神父様もお祖父様に似てたように感じるの。」
「神父様は騎士じゃないけど…うん、使えるよ。大剣とか。というか拳の方が強いんだけどね。」
「私の世界の神父様と違うのね…」
武闘派の神父様の方が普通はありえないけど…感心してるようなので口にするのは止めておこう。
言われた通り教会の案内は終わったし、シアレスの部屋を共に片付けることにした。何かあってもいいように私の部屋とは隣り合っている。本人も叶うならそうしてほしいと言っていたし。
空き部屋の殆どは書物やアヴィリオの調薬道具で満たされてる。書物は兎も角、調薬道具に関しては本人に片して貰うしかないので触れそうなものは一部に避け、重要そうなものは手を着けず、ということでざっくり片付けていく。最終的には魔術で浮いた誇りを風で飛ばすので大掃除は案外楽だったりする。…ちなみに、威力を間違えると家具ごと吹っ飛ばしかねないので注意が居る。
「一先ず、こんなもんかな。あとはアヴィリオに引き取って貰うとして…おやつ時少し過ぎたけど、休憩しようか。冷蔵庫にケーキあるよ。」
「貴女さっき串焼き食べたばかりよね…?」
「え?要らないならシアレスの分食べるけど。」
「ちょっと、誰も食べないなんて言ってないじゃない。…お腹周り、気にならないのってこと。」
「常日頃動き回ってるし、魔力量多いからお腹空くんだよね。…シアレスは魔力量自体はそこまで多くないからマシなんだと思うよ。生産される魔力が多ければ多いほど、お腹空く。勝手に大気に散るから苦しくなるほど溜め込んだりとかしない限りは弊害とかないけど。…勿論どうやって魔力の大きさを測ってるかも後日教えてあげる。」
飾り気のない机は少々寂しいので、自室からクロスを持ってきて飾る。そしてキッチンからケーキと紅茶を手にして部屋へ戻った。フィルターとかの開発は未だ達成されておらず、逐一淹れなきゃいけないけど…まぁ、淹れたて美味しいしね。この森、蜂蜜と果実はよく採れるから色んな味わい作れるし。…私が用意できるのは果実だけで、茶葉と蜂蜜は神父様が用意してくれてるけど。
因みにお茶淹れのテクニックは神父様お墨付きにまで練習したので完璧である。シアレスも美味しそうに紅茶を飲んで居る。
「本当、貴女って凄いのね…何でも出来ちゃうじゃない。」
「何でもは無理だよ。…というか、アルトゥールの方がヤバい。私より何でも出来る。あと怒ると物凄く怖い。」
「そうね、ブランシュナ陛下も恐ろしく思えたけど、アルトゥール様の方がよっぽど怖く見えたわ。」
「国王さまは恐くないよ。いい人。」
「初見で分かるわけないじゃない…それに、あれは貴女が居たから私も優しくして貰えたのだと思うわ。そういう雰囲気を感じたもの。……それより、貴女本当に何者?ナオ殿下と仲良いみたいな事いってたけど…」
すっかり説明を忘れてたので転生に至るまでから貴族位を目指して修行してることもざっくり話した…ノーチェが言ってたことは保留にして口にはしてない。夜に確認取れたら話そうかな。
シアレスは驚いたような、けれど納得したような顔をして唇に指先を添えている。…美人って何しても画になるよね。
「成る程ね…貴女、何も苦労してないように見えるのに沢山努力してるのね。…私も負けてられないわ。」
「私の場合は保護者が多いからね。シアレスの方がよっぽどだよ……」
案外負けん気が強いのか笑って見せるシアレス。強がってるのかと思ったけど本心からの笑顔で…やはり元々強い子なのだと認識した。
妬むでもなく、落ち込むでもなく、前を向ける人は珍しい。…理不尽な目に遭ってるからこそ私が恨まれる可能性もあるにはあったんだけど…うん。問題なさそう。
と、そこへ。
「ピロロロ!」
「あれ……あぁ、お帰り、スィーン。一人だけ?」
「あらまぁ!綺麗な子ね!」
窓をこつこつ叩く音と美しい囀りが聞こえたので視線を向ければスィーンが開けて欲しいと嘴で突いていた。
シアレスも綺麗綺麗とはしゃいでいる。知ってるとも、うちの子だからね。
窓を開ければするりと風に乗って戻ってきて、頭上を旋回すると肩へ落ち着いた。…ふわふわな毛がちょっとぼわついてる。ちょいちょいと指先で直していればスィーンからの情報が頭に流されてきた。
……どうやら別の群れと争ってる、というか一方的に難癖を付けられてるらしい。スィーン達の群れにはクォーツが居るから能力値的に他の群れより頭一つ分飛び抜けている。
だから果物とかだけでなく弱い魔物も狩れる…筈。いや実際のところは見てないから分からないけど。
で、なぜ別の群れと争ってるかというと…別の群れのリーダーはどうやらクォーツとどうやら兄弟らしい。クォーツは変異で産まれた希少種なのが判明した。…それはさておき、争いの理由はクォーツの縄張りを他の群れが侵してるからなんだそう。渡り鳥とはいえどその時期の縄張りは決めてるらしい。
「うーん……うん。まぁ、撃退していいんじゃないかな。君達にとってはそれが自然の摂理でしょう?和解できるのが一番なんだけど、無理そうだったら、どうするかはクォーツに任せるよ。」
「ピロロロ!!!」
スィーンはのほほんとしてるが群れの中で一番速いから私の元へやって来たのだろう。部屋の中で風が吹いたし、追い風にして飛翔してるのかな?聞こうにも既に小粒ほどに離れてしまったので帰ってきたら調べようと思う。
「今のって?」
「ああ…えっとね、従魔術師と従魔って感覚を共有できたり感情伝達とか出来るの。あの子がうちの子の一人でペイルウィングのスィーンって言うの。またあとで紹介するね。」
「へぇ…あんな子ばかりなら私と欲しいわ。」
「ペットじゃないんだよ、従魔って。
従魔術師は他の魔術適性をもたない事もあるし、どちらかといえば相棒って感じ。そもそも従魔術も適性があるのが珍しいし、適性あっても人によってはスライムしか無理な人とかも居る。」
「そう………」
物凄く残念そうな顔をしたシアレス。動物好きなのかもしれない。…まぁ、此方にいる間はクォーツ達がいいなら触らせて上げればいっか。
ついでだからシアレスのステータスも確認しよう。
「シアレス、折角だから今ステータス確認してみよっか。」
「いいの?!」
「うん。まぁ、頑張るのはシアレスだからね。最初は石板とかに転写するんだけど…私達の場合、加護持ちなのがバレるからなるべくなら石板は避けて。隠すやり方も教えるから。」
「わかったわ。」
「ん。じゃあまずは…自分の魔力を感じとる所から。皮膚の下、血が巡るのと同じように魔力も循環してるの。瞳を閉じて、意識してみて。」
言われるまま、席を立って瞳を閉じたシアレス。私にはシアレスの魔力の大きさももう分かってるけど…本人が自覚しないとどんな魔術も始まらない。魔力の保有量なんて感覚でしか分かんないしね。
魔力量が多ければ多いほど、存在感は増す。感知できる範囲と精度がぐんと上がるので保有量が自分より多い人は遠目でも判断できる。
あとは精神に作用するものなんかには反抗しやすくなったりと多いに越したことはない。……まぁ、その分狙われ易かったりとか魔力配分間違えて魔術が暴発したりとかが無い訳じゃないけど。
「………うー…………ん…??」
「掴めなさそう?」
「言ってることは分かるのよ。こう、ぴりぴりしたのを感じ取れはするから。…でも、流れって言われると途端に分からなくなって…断続的に分かる感じ…?」
「ほんと?…じゃあ…一応、ちょっとシアレスが辛くなるけど、すぐ分かる方法もあるけど…試す?私はもう少し粘ってからの方がいいと思うけど。」
「…そうね、もう暫く試してみて、駄目そうならお願いしてもいい?」
頷いて返事を返し、再び瞳を閉ざしたシアレスを眺める。
流石に他人の体内の魔力の流れまでは見えないけど、そわそわ落ち着かず、擦ってる場所が魔力が溜まりやすい位置なのだろう。
身体強化の時とかにどこに溜まりやすいのかとか、防ぐ癖とか言われたなぁ……
そのまま暫く、時間にして約15分程。一人で格闘してたようだが…不意に目を開けると困ったように笑われて見詰められた。どうやら掴めなかったらしい。
小さい頃に教えて貰うのと、大人になってから教えて貰うのとでは呑み込みの速度がやはり違う。子供は柔軟性に富んでるから吸収するのもあっという間。大人は固定概念やら常識とかに囚われて難しい人は難しい。…だから子供のうちに適性を見て、ゆっくり育てるのがいいのだと熱弁してたのはアルトゥールである。
鉢で花を育てるようにじっくり、ゆっくり。成熟して実を結ぶほどになるまで丹念に愛情を込めて育てるのがいいのだとかなんとか。
…言わんとしてることは分かるし、共感できる所もあるんだけど………ちょっと引いたよね。
まぁ、そんなことは置いといて、シアレスを手招く。
片手同士を繋いで…魔力の回路を探るように私の魔力を流す。因みにこれ、麻痺を自分に掛けてる時に教わった。
本来は相手の魔力を暴走させたり、許容量以上を叩き込んで行動不能にさせたりとかに使うんだけど、お医者様が身体の異常とかを調べるときにもこうやって微少の魔力を循環させるんだって。
「ひゃっ?!」
「ん、魔力の流れが緩い……というか、扱い辛い性質なのかな。結界と治癒は与えられた力だから不便はないけど、大掛かりな魔術は多分無理。適性もちゃんと見ないとね。…で、なんとなく分かった?」
「え、えぇ…ぞわってしたけど、はっきりと。」
「なら大丈夫。そしたら、魔力を手へ溜めて、放出しながら『ステータス』って唱えて。
…こんな感じ。イメージとしてはこれをそのまま思い浮かべたらいいよ。」
こくこくと頷いて集中し出したシアレスを横見に紅茶を一口。……少し時間が掛かりそうだと時計を見る。…あまりにも長引きそうだったら切り上げて夕食の支度をしよう。ご飯の美味しさを教えねばならないからね!
酒に溺れてたので暫くはファンタとジンジャーエールでいい




