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まぁ、転生したからといって美少女になりたいとは限らない  作者: ゴリラの華
二章 最強も望まない
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閑話休題 女性事情2

月一ぽんぽんペインはまじでキツい




レンが部屋にやって来たのでまず最初に知識の擦り合わせを行った。


前世の知識がある分、此方との相違がさっきの話で分かったし…まぁ、殆どが差別やら軽視の話だったが。



獣人に限らず、エルフやドワーフ…特に長く生きた者らは顕著に女を大事にする。


俺達は人間よりも繁殖力が弱く、この国のように特定の種族が集まる国や地域以外だったら人間の方が倍くらい数が違う。

そもそも長い時間のなかで焦って繁殖する必要がないから。


だから、それでも種として繁栄の為、そして己の子を産む可能性がある女性達を敬い、労り…そして尽くす傾向にある。



親父もそうだったな。近所からよく言われてたのは…「あんな堅物を絵に描いたような人が奥さんにはデレデレになるなんて。」だったか。…身内のそういうのはあまり見たくないが、母が幸せそうなのは嬉しかった。




「これ、痛み止め代わりに紅茶だ。少し飲んどけ。」



「ありがとぅ…」



生理の症状は腹痛、腰痛、倦怠感、眠気……それこそレン曰く、人によってどの症状が出るかも、痛みの重さも日や、月で変わると言うのだから大変だろう。


神秘だと思うし、何より痛みを月一必ず体験する女性は強いと思う。……俺だったらキレてるだろう。理不尽にも程がある。


だから、俺達男は出来うる全てで女性をサポートするし、番ならば滅多に離れなくなる種族も居るらしい。

勿論エルフの女性陣も体験はしないが、女性同士支え合い、分かち合えない痛みの代わりに不安を取り除いたりしてるらしい。


……何人かのエルフは「子供の時から苦しむなんて…!!!」と涙し、生理について解き明かそうとしたり製品を作ったりしてるらしいが。




「…大丈夫だとは思うけど、ソファ汚したらごめんね。」



「いい。気にすんな。…ソファで大丈夫か?此方でもいいぞ?」



「大丈夫ぅ……アヴィリオがひたすら素直なの気持ち悪いぃ…」



「んだとクソ餓鬼……!」




普段より間延びした口調。


ちびちび飲んでいた紅茶を置き、縮こまるようにソファに座ってる姿は……少々痛ましい。フロウも血の臭いが気になるのかレンに引っ付いて離れようとしない。いや元からだが。…まぁ、口はだいぶ元気そうだ。


ただ、レンに普段の明るさがないからか、レンの周りを漂う精霊も何処と無く元気がなさそうに見え…読んでいた本を置いて、ベットから立つ。


今日の俺の仕事はレンを見守ること。


リムネルは服の仕立てがあるし、神父は普通に仕事があるし…手が空いてるのが俺、というのもあるが、俺の部屋は薬品が多い。何かあったときにすぐ対処できるというのもある。


……一応兄貴に、連絡しておこう。明日来るらしいし。




「?…どうかした?アヴィリオ。」



「何でもねぇ…ほれ、お前は此方だ。」



精霊に伝言を頼み、レンを持ち上げる。抵抗もなく素直に抱き上げられたのを見るに本当に調子が悪いようだ。いつもなら何が何でも逃げ回るしな…軽いって言ってるのに聞きやしねぇ。そもそも女の体重なんて気にしてないし病気にならないなら別にいいだろうに。見た目よりも中身だ。


ともかく、そのままベットに戻って、一緒に横になる。……レンは特に体温調整が出来なくなるらしい。顔の色は血を失ってる分だけ白く、紅茶を渡す際に触れた指先は冷たかった。…様子見で居ようと思ったんだが、あまりにも縮こまるのでもしやと思ったんだが…素直に寒いとすら言えないのか。


備え付けの毛布でもう一枚包み、だいぶ大きくなったフロウも招いてやる。…秋か冬仕様だが、暑くはなさそうだ。




「これで更に二日目、三日目は重くなるって……やっぱり凄いな。女性ってのは。」



「うーん、そこまで労られて、褒められると逆にびっくり……狭くない?」



「元々広いしな。…眠いんだろ?寝てていいぞ。昼前くらいに一度声掛ける。」




「うん………あのね、……あのね。ちょっとだけでいいから、お手手繋いで。」



出会いたての頃のような口調に戻ったレン。心なしか瞳に薄い膜が張って見え…フロウごと、抱き締めてやる。


情緒不安定。


神父が一番恐れていたのがこの症状。…レンは滅多に泣かないが、泣かないからこそ溜まってる言葉は聞いてる方が悲しくなる響きを持っていて…以前のときはリムネルは貰い泣きするし、神父はどうしていいのかと手を付けられなくなるしで、俺が選ばれたのはある。




「抱き締めててやるから、安心しろ…大丈夫だ。言いたいことは聞いてやるから、ゆっくりでいい。」



「うん……あのね、…なおに、会いたい。…無理なの分かってるの、でも、会いたい。…一人はいや、…悲しく、なるの…」



こんなときぐらい、普通の子のように理屈も何もをすっ飛ばして「会いたい!」とただ泣きじゃくってくれた方がどんなに楽か。

無理だと分かってるからこそ、言葉にする無意味さをよく分かってるのがレン。……今も、悔しそうに唇を噛み締めている。


レンが歩む道は、己自身で選んだものだ。だからこそ弱音を吐いても仕方ない。

むしろ吐く資格もないとか思ってそうだが……13なんて漸くはしゃいだのが落ち着き、先を選び出す一歩目を始めた頃だろう。……俺達の種族でいったら赤子にも等しいが。


レンの精神はとっくに成人を越してるのは知っているが……本人も前に少し言っていたが、どうにも成人を越してる筈なのに器に引っ張られ、年相応……年寄りも賢い程度に落ち着いている。


だが、本来のレンを知ってるのはナオだけ。……1人は嫌。か………俺たちじゃ埋められない溝だな。



「いい、好きなだけ泣いとけ。誰かが恋しくて泣くのを恥じる事は無い。泣いた分だけ、思ってる事の裏返しだろう。」



だが、だからといって放置するなどあり得ない。


グズグズと鼻を鳴らし、肩を濡らすレンの頭を撫でる。……保有する魔力の影響か、些かちまいコイツは、更に身を縮こまらせてる分、余計庇護欲に駆られる。

子を持つ親とはこんな気分か。……いや、あくまで予想に過ぎないけど。



ただ、師弟も親子のようなもの。……そうなると父親ばかりになるので、兄とかでもいいか。



めいっぱい泣いて落ち着いたのか……いや、泣き疲れたな。そのまま寝息を立て出すレンを起こさぬようにベットから降り、頭痛薬の調合に手を付ける。……こいつが寝落ちるほど泣いた後、必ず酷い頭痛に襲われるのくらい知っている。…せめて夢見が悪くならぬよう、道具を傍に寄せてベットに座り……片手を繋いで、調合を開始した。





























「あら、すっかり寝ちゃったのね。」



「あぁ。……ヴォルカーノ神父の心配した通り情緒がちょっと落ち着かない。泣き疲れて寝ちまった。」




眠りについてから程無くして、リムネルが部屋を訪ねてきた。レンの傍にはフロウも寝そべっているし……少しだけ、手を離す。けれど何かを探すように動いた手を見て大人しく繋いでる事にした。




「ちょっとだけでいいから手を繋いでくれってさ。」



「可愛いお強請りじゃないの。……この子、確か前世は末娘って言ってたし、甘えん坊なんじゃない?」



「どうだろうな。……親に必要とされなかった、っていうのは俺達が想像するより壮絶なのかもしれないぞ。…だから愛する者を執着する。」



「……そうかもね。ナオ殿下への感情は執着と依存。…勿論お互いがね。」




面と向かって座り、リムネルとレンの寝顔を眺める。

あまりにも平然と言うものだから混乱したが、レンにとっては…レンの居た世界にとっては、あまり特別ではなかったらしい。



ただ、それでも俺達にとっては可愛い妹分で。


必要とされず、期待されず。日常的に暴力を振るわれれば親といえど溝はできる。


レンの場合、変に拗らせてるのもあるか。



「いつか、二人きりで何処かに消えてしまいそうよね。」



「ありえそうだな。…ま、当分先のことだろうが。」



淹れ直した紅茶に手を着け、出来上がった頭痛薬をしまう。って言うかこいつ何しに来たんだ?


視線で問えば持ってきた袋をそのまま俺に預けてきた。



「これ、替えの下着とナプキン。それから新しい寝巻きね。下着は生理の日専用のを神父様があらかじめ幾つか買ってみたいなの。…覗くんじゃないわよ。」



「当たり前だっての……」



何処に弟子の下着に興味を持つ変態が居るか。洗濯も俺らとは別だし、女っていうのは繊細だ。


ドスの聞いた声で脅されずとも最初から覗く気はない。つかレンを性の対象として見る方が無理だ。可愛い妹分だし子供だ。



……いや、出るところは出てるから最近変質者が増えては居るが…




「何よアンタ、急に険しい顔をして。」




「いや……変質者が増えてきてたのを思い出しただけだ。この間は追い詰められてたしな…」




「……あ”?」




「俺を威圧すんな!

…レンのやつ、反抗すると怪我させかねないからって我慢してたらしいが…知らん男に壁際に迫られ、両腕を壁に押さえ付けられたらしい。人が居なかったから襲われたそうだが…まぁ、レンのヘルプを聞き付けたフロウが思いっきり吹っ飛ばしてたのに遭遇したが。」



なぜ子供に欲情するのか理解に苦しむが、レンをそういう目で見る人間は多い。


獣人もたまに居るが……殆どは娘を見るような目で見ている。


レンならば不審者程度返り討ちに出来るが、相手に怪我をさせたくないのかあまり反撃はしない。


手を出されたら流石に反撃するか、例えば不躾に見てくるとか、変なことを言ってくるとかだけならガン無視を決め込むらしい。




「まぁ、殆どが神父か…兄貴に凄まれて来なくなるがな。」



「あの二人の圧に耐えきれる方が稀でしょう……あ、でもレンがボコボコにしたときもあるのよ?」



「…初耳なんだが。」



「まぁ、怒った原因が原因だったもの。…聞きたい?」



困ったような笑い方をこいつがするのは珍しく、先を急かす。



「知っても大声出すんじゃないわよ?…アタシ達の関係ってなにも知らない端から見ると少女にえらく執心なエルフって見えるらしいのよ。でもま、見た目が見た目でしょう?それで今度はレンがアタシ達を手玉に取ってるだのって話になって……で、最初は事情を知らない女性陣が押し掛けてきて…まぁ、そこはこの子が普通に説明して、神父様も加勢して事なきを得たんだけど…


あるときね、何を勘違いしたのか、レンは慰み者としてアタシ達が囲ってるって言い出した男が居るのよ。」




「……あ?」




「さっきの言葉アンタにまるっきり返してあげる。…最後まで聞きなさい。


勿論最初の方はレンもイライラしながらも説明しようとしてたんだけど…レンが言いなりにならないからか、救ってあげるとか意味の分からないことを言って追い詰めて、更にこう言ったのよ。


『あのアヴィリオとかいう男が雇い主なんだろ?下劣さが透けて見えるぜ!』ってね。


まぁ、次の瞬間にはあの子に吹き飛ばされてたわよ。拳で。」



「へぇ……?」



男に憤りを感じたが、それよりもレンの珍しい行動が気になった。…いや、理由は分かってるから…本当は少し嬉しさを感じてるのだが。


レンは撃退するときは魔術を使う。勿論フロウが突進したりの方が多いが…どうしてもの時は使っている。それは拳での威力よりも制御が簡単だから。


それが最初から手心なしの拳ときた。…ま、レンの数少ない地雷を踏み抜いた男が悪い。




「バカよねぇ。あの男。久しぶりに底冷えするこの子の声聞いたわぁ…拳も、前より重く強くなってるし!他にも…」



「まてまて…その時レンは何て?」




リムネルは拳で語り合う事こそ至高と考える変人…というか変態なので話を遮る。そのまま延々と肉体美について語られる方は堪ったもんじゃない。




「『黙れ、お前如きが私の師匠を汚すな』ですって。


アンタが人を奴隷にすると思われたのが許せなかったんでしょうね?吹っ飛んだ後も追い討ち掛けたりとかしてたけど……えぇ。レンはご覧の通りピンピンしてるし、男ももう立ち寄ってないわ。」




「レンの拳を受けたら並の兵士ですら気絶するだろうよ…」




体術の師は俺の兄貴なのだから、一般人が喰らったら下手したら死ぬが……まぁ、レンの事だ。手加減は出来てたのだろう。でなければ大騒動だしな。



呆れてしまうが……それよりも、嬉しいと思う。自然に上がる口角、リムネルだって笑ってるのだから仕方のないことだ。


こいつの本心は中々表に出てこない。


そして更に表情も読みづらい。大きい瞳のせいか勝ち気なように見える顔立ちだが、猫人族には珍しく、若干垂れ目なのが程好くそれを緩和してて無表情ながらに穏やかに見える。

ただ内面はどちらかと言えば苛烈だし、知恵者の代名詞たる魔術師にあるまじき脳筋気質も少々。


…元々脳筋気質はあったが、正直兄貴との訓練で開花させた疑惑はある。何せ痛覚麻痺を獲得したのは兄貴との訓練でなのだから。



いや、そんなことは置いといて…兎も角、レンは思ってることが分かり辛いのだ。



この間なんて急に涙を流し出すから何事かと思ったら徹夜したのを隠して眠気を堪えてただけだった。



勿論即座に説教コースだ。慈悲などない。



レンの手綱を取れるのは今のところ神父だけなので…見ていれば特別なのはわかる。


ただ、俺達とて少なくない時間を共にしてるのだから…同列までにはいかずとも、それなりにレンの心を占めているのだと思って居る…そうで在りたかった。


師弟関係は限定的なもので、レンが訓練所へ通えば俺達との繋がりは断ち切れるだろう。そういう依頼だから。…なんとなしに受けたものだが、こうも他人と長く共に過ごすことは無かったし…俺もリムネルも、きっと兄貴も、この関係が心地良く、手放し難い。



「レンの中で誰よりも優先なのがナオ殿下だとして…次点で神父様とフロウ。その次にアタシ達かしらね。…この子、案外移ろいやすいから数年後にはアタシ達の事なんて忘れてるかも?…アタシ達は抱えて生きるけど。」




「種族的に、な。…忘れた方が長く生きる者にとっては苦痛にならないって親父たちは言うが…忘れる方が無理だろ。」




「そうね、可愛い妹が増えた気分だわ。」




今だ繋がってる手を見て、そう思う。


長く生きた者ほど口を揃えて辛い別れは忘れてしまえ、だのと言う。……ただ、それが本心じゃないのを皆分かってて年長者を立てている。

誰一人として、本当に忘れた者など居ないのだろう。じい様らは形見を持っていたり、毎日祈りを捧げたり、何度も何度も子供に語ってばかりだ。辛い思いをさせたくない一心で言ってるのだろうけど……無理に笑ってる姿の方がずっと痛々しいと思いながら眺めていた。




「忘れるもんかよ。レンも、神父も、ついでにナオも。忘れそうになったら夢に出てきそうだしな。」



「そうね……三人で楽しく過ごしてるのを自慢してきそうだわ。


でも夢に見るのもいいけど……早く、この子が本当に殿下の隣に立てる日をアタシは想ってるのよ。…意地っ張りでちょっと頑固。寂しくて枕を濡らしたのも少なくないのよ?フロウ情報だから間違いないわ。」




「……そんな素振り、神父にすら見せてないだろ…見せないようにしてるのか。」





今日は初耳が多い。怒るべきか……いや、違うな。


恋人を想って泣くことを誰が咎められるというのか。


眉を僅かに寄せて眠るレン。額に掛かった髪を払ってリムネルと視線を交わし、頷いたのを確認してから額へ口付けを落とす。


せめて夢の中では悩みなど無いように。




あとその週はポンコツに磨きが掛かるから仕事を割り振るなゴリゴリ音頭すんぞ

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