閑話休題 女性事情1
女の子ならば毎月お世話になるアレの話。すっ飛ばしても可
それはある日の事。いつもの日常……の筈が、朝目覚めて正直飛び上がり掛けた。
布団が、真っ赤。
まず傍で寝てたフロウの体を触って調べ、怪我をしてないか探る。…フロウも起きてうろうろと私の周りを忙しなく回るのでどうやらフロウではないらしい。
で、あれば。私も痛いところはないが…前世のことから思い当たる節が一つ。そして思い当たった瞬間懐かしい鈍痛に襲われ……とりあえずお手洗いへダッシュ。
この世界のトイレ、前世程画期的じゃないがそこまで汚くもない。
汲み取り式でありながら洋式のように座れるし、汲み取り槽は堆肥を餌にする森の魔物が勝手に綺麗にしてくれる。掃除も魔術で出来るし、魔術が込められた掃除道具とてある。
週一で汲み取り槽に繋がる戸を開けると、魔物達がやって来て汚物を食べ終えると帰っていく。魔物達も開ける曜日や時間帯が分かってるのかたまに列を作って待ってるのは可愛らしいし、襲ってこない。
殆どが植物系の魔物で、たまにスライムも混ざってる。スライム雑食だしね。…お腹一杯で中々出てこなくて、掃除が出来なかったときは普通に持ち上げて退かした。水信玄餅みたいな見た目で…汚れてるかな?と思ったのに何処も清潔で吃驚した。自浄スキルでもあるのかもしれない。
因みにそのスライム、契約はしてないけどよく教会の中で転がってる。敵意がない魔物は入れるし、奥様方にもそこそこ人気。共存できる環境は素晴らしい。
……話が逸れたし、そんなこと考えてる場合じゃない。
急いで下を全部脱いで便器に座る。……いやもう、確信しては居たけど真っ赤に汚れた下着を見てげんなりした。
生理。しかも初潮。……ファンタジーな世界ならないと思ってたし、小説とかアニメとかだとそんな話も匂わす場面も無かったからもう無いと思ってた…
都合上カットされてるだけかもしれないけど、私は無いと思ってた。無くていいと思ってる。
とりあえずずっと座ってる訳にも行かないし、フロウに遠隔で神父様を呼んでくるよう伝えた。……本当なら母親に教えてもらうべきことだけど、残念ながら居ないし、神父様は神職者だ。…ようは保護者枠の中でも知られてマシな人。
「レン!どうした?!」
「神父様ぁ~……開けないで聞いて、………血が、」
「待て、…分かった。月のモノか。」
血で分かったのか何処と無くソワソワした感じで返答が帰ってきた。…うん、まぁ男の人もこの話を振られても困るよね。特に娘と思ってくれてるのなら尚更。
少し待ってろ、と言われたので大人しく待機。……服と布団、血抜きで落ちるかな…いっそ魔術も試す?
鈍く痛むお腹を抑えて待つこと体感で数分。
「フロウに必要なものを持たせた、中に入れてやれ。」
と言われたのでフロウを中に入れる…トイレ狭いからフロウ入るとぎゅうぎゅうになっちゃうけど仕方ない。
神父様はトイレの横にでも居るのだろうか、服の裾が一瞬見えた。……とりあえずフロウの加えてた紙袋を開けると、これまた懐かしいナプキンと専用ショーツ、それから着替えでハーフパンツもある。
香水のようなものもあって不思議に思ったが…説明書も入ってたので先に目を通しておく。
……これ、多分書いたの神父様だな。字に見覚えある。
書いてあったのは生理の仕組みについて。…まぁ、普通は急に出血になったらパニック起こすか。
元の世界でもあったって後で伝えておこう…で、後に書いてあったのはナプキンとか生理用品の使い方と恥じることではないということ。香水は匂い消しらしい。便利で最高。
今年で13になる初潮が来るにしては前世なら少し早いくらいだが、此方の世界でもそうらしい。
だから余計生理についての話とかなかったから……付け足しで書いてあった部分は慌てて書かれたのが分かる。乱れててなお美しいのは凄いと思うけど。
血を拭き取り、綺麗にしてから持ってきてくれたものに着替え…汚れた服を持って外に出る。朝からトイレを占拠してちょっと申し訳なかった…まぁ、一階にもあるし、そっちを使ってくれただろう。
「レン、汚れた服は処分して構わん…布団も取り替えはある。」
「ん、ん、…ありがとう、神父様。前世でも生理あったから大丈夫だよ。パニックになってないし仕組みと役割も分かってる。ざっと説明見た感じ、前世と変わりない部分だと思う。」
ほっと息を吐いた神父様…一応、とばかりに生理とそれに纏わる性の話も軽く説明されたが、やはりそこは前世と相違ない。
けれど一応ちゃんと話をするのは必要とのことで今日の予定は急遽変更。朝ご飯の後は座学になるそう。
朝からドタバタしたものの、ようやく寝間着から着替え__その際に布団と汚した服は袋に纏めた。可燃ごみ行き__皆で揃って席につく。…わりと煩くした覚えはあるけど、二人にはバレてないよね?
「そういえばレン、初潮が来たそうね?おめでとう!」
「っげほ!!!」
盛大に噎せた。見事にジュースが気管に入って咳が止まんない……暴露したことに恨ましげにリムネルを睨むも、きょとりとされてしまった。
「え?来たのよね?」
「…来た……けど…食事中に話題にするもん?というか、もしかしてそんなに避けられてない話題なの?」
「?そりゃ子供が成長した証だぞ?当たり前だろ。」
おや、どうも前世と認識が違うらしい。
念のため神父様にも確認を取る……だってこのエルフ達、たまに常識違うからね。無詠唱も獣人すっごく少ないの多分頭から抜けてるし。
「ふむ……二人の言うように、日常会話で出てくることは当たり前だ。特にこの国は女性を敬う傾向が強いからなぁ…レンの元居た世界では違うのか?」
「生理の話なんて同性でもタブー。周期を知ってるのなんて自分だけって人の方が多いはず…話して家族程度。そもそも性の話自体授業で教わりはするけど、逆に言えば授業でしか知り得ないし…実際と教本とで違う方が当たり前。
女性特有のものだから、痛みも女性にしか理解できないし…個人で痛みが違う分、休んじゃいけないって風潮もあったなぁ。…女性同士のマウントの時もあれば、職場が男性陣しか居なくて、とかね。」
「何よその世界…随分女性が生き辛そうね?」
「女性だけじゃないよ。リムネルみたいな人もだし、同性愛者もかな?
立場や力関係で弱者な程搾取されるし、輪から外れた行動をすればそれだけ悪目立ちする。……好きな人がたまたまその性別ってだけなのにねぇ。」
夜道、一人で歩いていれば声を掛けられる事は少なくなかったし、夏場はどうしても薄着になるからそういう手の人が増える。
勿論場所と節度を守った格好だったし、自分の為に自分の好きな可愛い服を着てるのであって…毎度の如く、見せ付けてるだの、そっちが悪いだの言ってくる人にはこの言葉を贈りたい。というか本音。
“好きな服を着てるだけだし、見せたい相手も別にお前じゃない”
と。…勘違いすんなって話だよね。そもそも際どい格好してようがしてまいが、男だろうが女だろうが危害を加えていい訳ないし。
狙われ安いのがおしとやかそうな女の子、が何となく体感多い。何故か。…反抗されないから一択なんだろうな、きっと。怒鳴り、威圧して言うこと聞くと思うなよ。可愛い女の子ほど内面気高い獅子の可能性あるから。
で、そんなことを話すと三者三様。でも嫌悪があからさまに浮かんでいた。
「信っじられない!!なによそれ!女性を馬鹿にするにも程があるわ!!!」
「同意見だ。そもそも性別関わらず人の嫌がる事はするなと教育されなかったのか?」
「この世界でもそういうことがあるにはあるが……この国は比較的少なかろう。女に敵うものなし。それが根底にあるし…そも、互いを尊重しあってる国だからな。安心するといい。」
「性を絡めるとややこしくなるんだよねぇ……普通に考えて、誰にでもやっちゃいけませんって事なのに、そのターゲットが女だからとか子供だからとか……勿論、論争もいっぱい合ったし、人が多ければ意見も違ってくるし…
何よりね、昔はもっと酷かったし、その考えが抜けない人も居る。
皆仲良く、が理想論なのは分かってるけどさ…相手を思いやるくらい、誰にだって出来ると思うのに…」
比べたがるし、人を落として自身を保つ人とて居る。
誰もが皆心が強い訳じゃないし、そのくらいで、と思うときもあるのは分かってるし体験した。……でも、自分が味わわないだけで、“そのくらい”じゃないのかもしれないし、見えないところで何かを抱えてるのかもしれない。
便利になれば複雑になってくのが世の常。流されたままなのが良くないのは分かってる。でも初めの少数の声は何時だって大多数の声に揉まれて聞こえなくなる。…聞こえるようになるまで何年、何十年掛かってることか。
………頭痛くなってきた。
「……知恵熱、出そう。」
「レンは思考し始めると長いからなぁ…どれ、勉強は後日にして今日は……アヴィリオの所で休め。私は仕事があるから後で顔を出そう。」
「アタシは休んでる間に新しい服、仕上げとくわね。今の服も可愛いけど、ちょっとお腹締め付けるの嫌でしょう?」
「うん。……アヴィリオ、いいの?何時もならちょっと嫌がるじゃん。」
「嫌がってる訳じゃ………エルフには来ないが、知識としてなら俺らもあるし、情緒が安定しなくなるんだろ?…そんな時くらい好きに甘えろ。」
エルフ、来ないんだぁ……羨ましい。人間とは全然体の仕組みが違うのかな。
でも今日はデレデレのアヴィリオが見れる予感。
いつもの半量で朝食を終え、汚してない毛布とぬいぐるみを持ってアヴィリオの部屋へ直行…馴染みある毛布って何だか手放しがたいよね。安心する。
勿論、一番安心するのはフロウの毛並みなんだけどね。
腹痛だけで収まる人もいれば立ち上がれない人も居るので頼むから来ないでくれ




