第六話 白猫親子
名前とキャラ設定をそろそろ用意しないと、誰が誰だか分からなくなりそう。Twitterでまとめたりしておきます。
殆ど好奇心で町外れまで足を運ぶという中々にぶっとんだ国のトップに、ナオの機嫌が急降下していくのは早かった。
それを察したであろう神父様に膝から降ろされれば、数秒もなくナオに抱き付かれてしまった。「もうやだあの二人……」なんて小声で聞こえてきた。そうとう参ってるらしい。
元老院云々と説教されたかと思えば、本人達は興味程度で来るんだもんなぁ、確かに困っちゃう。
あと此方をさっきから鼻息荒く見詰めてくるレーヴェディアが怖い。瞳孔開いてない?……あ、神父様が殴った、痛そう。
「ははっ、お前達も相変わらずだな。ヴォルカーノ。それぐらいにしないとそろそろレーヴェディアの鼻が折れるんじゃないか?」
朗らかに笑う国王陛下。…ちなみにヴォルカーノというのは、神父様の名前だ。勿論貴族ではない。
……というか、神父様と国王陛下も知り合いだったのか…中々に波瀾万丈な人生を送る気がしてきて加護を付けた女神を恨む。…いやまぁ、別に美少女とかにしてないから、多分彼女は関係ないし……ナオの近くに産まれたいと願ったんだから運命といえば運命だ。諦めよう。
「しかし陛下…!!貴方とて王妃様が同じ様に見られればこの気持ちも理解頂けるかと…!!!」
まだいじけモードのナオを撫でながら、話に上がった女王陛下を見上げる。たまたま、此方を見ていたのかぱち、と視線が会えば……優雅に、手を振られてしまった。
ふわふわの髪も、深い瞳も、気品と優しさで満ちていて……何だか照れてしまう。素敵な人だ。
レーヴェディアが女王陛下を見て、もう一度此方を見ると……ぐっ、と親指を立ててきらきらと眩しい笑顔を神父様と国王陛下に向けた。
「確かに女王陛下も麗しく、正直耳を撫で回したり尻尾に顔を埋めたいところですが……子猫ってミルクみたいないい匂いがするんですよ、それに抵抗されても可愛い!」
「よし、ヴォルカーノ。俺も参加するとしよう。」
一人称と雰囲気が変わった。……暗雲を背負ったまま二人してにじり寄る様はホラーだ………彼の首が飛ばないことを祈ろう。きっと大丈夫なんだろうけど。
「全く……子供達の前だというのに困った殿方達ね。…ごめんなさいね?うちの主人と従者が。」
「あ、いえ……レーヴェディアはいつもお菓子をくれたり、町の事を教えてくれるので、いい人…です。」
静かに優しく話し掛けてくれた女王陛下も、きれいなドレスが汚れるというのに膝をついてくれた。両陛下も優しくて暖かくて、王族というのを忘れてしまいそうだ。
「あの人達は放っておいて、少し外でお茶はいかが?レーヴェディアから貴女は甘いものが好きと聞いてるからメイド達に用意して貰ったの。どう?」
「甘いもの……!」
ピン、と尻尾が立てば女王陛下が嬉しそうに笑った。
町に出たことがない私にとって、甘味はとても貴重だ。元々甘いものが好きではあったが…いつでも食べれる訳じゃないこの状況において、甘いもの好きがどうやら加速してしまったらしい。
レーヴェディアがたまに町の警備で立ち寄った時か、ナオが会いに来てくれる時ぐらいしか口にすることはなく……二日続けて甘いものを摂取できるなんて幸せだ。
「………餌付けは卑怯です、母上。」
「ふふ、いいじゃない。私も仲良くしたいもの。」
「母上とて、上げません。レンは僕の。」
ぐりぐりと頬を押し付けてくるナオは珍しく人前でも甘えたモードで……それが何だか嬉しくて、頬を押し付け返す。
「何だか凄くいいものが見れそ……ぐ、っ…ぅ!!ちょ、見えない!!見えないですっ陛下…!!!…って目潰しは流石にまず…!!」
………賑やかだなぁ。
すん、と悟ったような表情を思わずしてしまえば、呆れたように国王陛下達を女王陛下は一瞥し……そっと手を取られた。本当に置いていくらしい。
国のトップにお茶がしたいと言われれば、ノーとは勿論言えるはずがなく……そのまま三人で外へ出ることにした。
「風が心地いいわね。こうして静かに過ごせるのは何年ぶりかしら。」
シートを引いて、その上にティーセットを並べて…メイド達は女王陛下が下げてしまった。
三人だけの空間に、思わず萎縮してしまう。
ナオだって愛し合う仲とはいえ、王族で……そんな二人に挟まれる様に座ってしまった数秒前の自分を殴りたい。お腹がキリキリする。
ナオは漸く機嫌が戻ったのか、悠々と紅茶を飲んでいる。……絵になるなぁ。かっこいい。
「今日はマカロンを用意したの。紅茶にお砂糖は?ミルクはいる?」
「え、あの、えっと。」
ぐい、と顔を寄せられ微笑まれてしまえば、体が硬直する。きらきらと眩しい。王族って距離感が近いものなのかと現実逃避して、答えなければと喉につっかえた言葉を紡ごうと固まってしまった舌を懸命に動かそうとする。
それでも中々うまくいかず、意味のない言葉が滑り落ちていくだけ。
「砂糖はなし、ミルクを少し多め。……それがレンの春先の飲み方。」
「あら、そうなの?ありがとうねナオ。」
見兼ねてか助け船を出してくれたナオに感謝を込めて手をきゅ、きゅ、と握れば、ふわふわの尻尾が自分の尻尾に絡んできた。
「それからレンは慣れてない人に近付かれると固まるし、見られることも苦手。」
「ちょ、ナオっ!だ、大丈夫だから!」
流石に失礼だと止めれば、ふわりと頭に触れた手に逆に止められた。
女王陛下の手だと分かれば色んな意味で固まってしまった。
「いいのよ、子供が隠すことではないわ。……苦手なものは苦手と言ってちょうだい。私が王妃だからといって萎縮しないで……どうかナオの母として、貴女らしくを見てみたいの。」
どこまでも優しく、心にストンと落ちるような音。
女王陛下の心の底からの言葉だからか、妙な緊張が溶け……ゆっくり、血液が末端まで届くような感覚がした。緊張で体中が固まっていたようだ。
ほっと一息ついて、ゆっくり用意して頂いた紅茶を飲む。……程好い温度で心までじんわり温まっていく。
「ナオが貴女を賢い子と評するのも分かるわぁ……他の幼い子とも交流した事があるけれど、こうも優雅に飲む子はあまり居なかったもの。」
自分は普段通り飲んでいたつもりなので、首を傾げてナオを見た。
ナオの方が、それこそ絵になるくらい優雅になると思うけど……どういう事なのかと女王陛下に向けて首を傾げた。
「その……ナオみたいに、カップを片手で持ててませんし……優雅からは、程遠いと思うんですが…」
「この子は教育を受けているもの。…他の子も、貴族の子ばかりだから、周りに劣らぬようにと飲み方一つでさえ教育されるわ。
でも貴女は違う。一気に飲むこともなく、ゆるりとカップを揺らしては……素直に紅茶の匂いを、味を、色を楽しんでいるのが見ていて分かるの。そういう所に性格や優雅さって出るものなの。」
細長く綺麗な指が、優しく頭を撫でる。
褒められた。女王陛下に。……お世辞かもしれない、それでも嬉しくて仕方ない。
にまー、と緩みそうな頬を必死に我慢し、でも撫でてくれる手が嬉しくて頭を擦り付けてしまうのが止まらない。
子供っぽいと、失礼だと怒られてしまうかもしれないのに止まらなくて……ぎゅうう、とナオの手を握って助けを求めれば、ナオも撫でるのに加わった。違う、今はそうじゃない。
「うー……!」
「あれ?違った?僕にも褒めて貰いたかったのかと思ったんだけど。」
にこにこと笑みを浮かべたまま撫で続けるナオ。さては確信犯だな?
ナオと絡ませていた尻尾にもう一尾、ふわふわの大きな尻尾が覆うように絡まって……女王陛下のだと気付けば、一層恥ずかしさで身を縮こまらせた。
こんなに甘やかされると!恥ずかしさと嬉しさで胸がきゅうううってなる!よくない!!!!
叫びたいのを堪え、恨めしげにナオを睨んだ。……それさえ微笑ましげに四つの瞳が見詰めるものだから、両手で顔を覆い隠した。
褒められるともっと褒めて!ってするタイプか、萎縮してしまうタイプに大体別れますよね。自分はもっと褒めろ!!って突撃するタイプのゴリラです。