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まぁ、転生したからといって美少女になりたいとは限らない  作者: ゴリラの華
二章 最強も望まない
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第五十五節 従魔契約4

レンちゃん無双…と見せ掛けてモブが雑魚




アンさんが言ってたよりもお馬鹿さんが多くて正直引いた。……フロウなんてつまらなくなったのかお昼寝してるんだけど。…いや、起きてはいるんだけどね、ふかふかの毛並みになるからあとでぎゅーってしよ。




で、拘束してるこの男。数年前に殴った男の血縁らしい。…こんなのに私の神父様が悪く言われる筋合いはない。ふつふつと怒りが込み上げてくる。



アンさんにはどうやら私がしようとしてる事が分かったらしく、許可を貰えた。……物凄くイイ笑顔だった気もするけど、見なかったことにしよう。


さて、アンさんの気遣いで他の連中は下げて貰ったし、拘束を解除する。…訝しげな視線を向けて来る相手にそれはもう、とびきり優しい顔と声を向けた。





「弱すぎて話にならないもの。魔術なしで試合してあげる。」




基本、魔術師は近接戦は出来ない。


出来る者も居るには居るらしい、というか一人知ってるけど……普通は無理だ。だから魔術師と戦闘する際は接近して喉を潰してしまえばいい。



そんな魔術師から、魔術なしなんて条件を出された相手は……予想通り怒りに顔を歪めている。それもそうだ、舐めプもいいところだと前世なら私も言うだろう。




「貴様っ…!!馬鹿にしてるのか!!!」




「事実を言ってるだけ。…ほら、掛かってきていいよ。フロウなんて飽きて寝ちゃうかもしれないから早くして。……クズの血縁に使う魔力も時間も勿体ないから。」




「お、おい、君っ…!君黒猫族だろう?俺達と違って身体能力は然程人間と変わらないのを知らないのか?!」




私を心配してだろう、クズと同じくらいの男の人が声を上げた。隣に居る女性も心配そうな顔をしてる。




「知ってるけど、問題ない。手は出さないでね、巻き込んだ方が面倒。」




「しかしっ…!」




「大丈夫。あの子の自由にさせてあげて。君らが余計な怪我すると俺が面倒になるから正直もっと下がって欲しいくらいだ。」




アンさんが宥め…というか、本当に嫌そうな顔をしながら下げさせたことでかなり広く場所を使えるようになった。


クズの怪我はまあ組手って事でごり押し出来るけど…ギャラリーに怪我をさせたら色々問い詰められるだろう。主にアンさんが。だから助太刀とか要らないから下がってて欲しい…というか邪魔。




「このっ……!!」




「まだ掛かってこないの?早くして。先手は譲ってるんだからさ。」




「調子に乗りやがって…!!!」




漸く、武器を構えた。



突進してくる相手を見つつ、武器に意識を向ける。そうとう質のいいものなのは見て分かるけど……いや、使い方がお粗末過ぎやしません?

突進をそのまま身体を横にずらして交わし、横腹を蹴る。


少ししか魔力を通してないけど、充分に再び距離が空いた。




「………馬鹿なの?」




「っ……!!死ねっ…!!」




馬鹿は馬鹿でもしかも学習しないタイプの馬鹿らしい。


頭に血が昇ってるからか、一つ覚えのように突進しかしてこない。剣術を習ったことがないのかもしれないな……いや、ならなんで剣なんて持ってるのだろう?身に合わない武器なんて持っても邪魔にしかならないだろうに。



右へ、左へ。時折後方や、相手の背後に跳んで交わす。


心配してくれてたお兄様方は安堵したような、驚いたような顔をしてる…黒猫族が身体能力低いのはどうやら有名らしい。…まぁ、獣人の国だからそうか


一つ避ける度に激昂する相手にそろそろ飽きてきたので、決着をつけるとしよう。



右へ身体を捻って突進を避け…勢いを殺さず、脚を振り上げ無防備な首筋に思いっきり落とす!

魔力は加減したから、衝撃で意識を飛ばすことは許さず、武器を落とし、倒れ伏すその背中を踏む。


頭を踏んでも良かったんだけど、流石にドン引かれる未来が見えたので止めた。…その代わり、落ちていた武器をストン、と顔の真横に落としてあげる。……おっと、うっかり手が滑って頬をちょっと切っちゃった。わざとじゃないよ!




「剣の使い方も知らないのに、持ってる時点でただの鉄の塊にしかならないし。突進しかしてこない時点でその力量も分かる。…つまり馬鹿。あまりにもお馬鹿過ぎて魔術を使う気にもならないし、人間と対して身体能力変わらない黒猫族に破れるなんてどういう気分?

ああ、無駄口は叩かなくていいよ。またうっかり剣が余計なところを切っちゃうかもしれないし……まぁ、“死ね”なんて言うくらいだから自分も死ぬ覚悟があるんだと私は思ってるけど。」





「ひっ……!!お、俺、は……ただ神父にっ…!!」





「煩い小物。喋るな。その口で神父様を呼び捨てにするな。……それとも、二度と喋れない身体をお望み?」




踏みつける力を強めつつ、ぐっ、と剣の柄を傾けて頬を抉る。…これぐらいの怪我なら組手の範囲内だろう。多分。……外野から理不尽とか聞こえた気がするけど…私の神父様を愚弄した時点で正直さくっと殺ってもいいかな、ぐらいには思ってる。


随分殺伐思考になったなぁ、とは思うけど……先祖返りの影響らしいし、諦めた。大丈夫大丈夫、常に殺伐思考じゃないから。ちゃんと本当に不味いときはノーチェがやりすぎだって止めてくれるからね。……今回はお咎めがこないのでよし。…神父様は、ノーチェの事もこっそり信仰してくれてるらしく、今見逃されてるのはお気に入りだから、とかな気もするけど。




未だ何か言おうともがいてる背を思いっきり踏み抜き、動きが止まるまで体重を掛ける。……肺を無理矢理圧迫して、意識を落とさせた。…呼吸が止まってたら誰か人工呼吸してあげてね。私知らない。


殺すのは一応まずいので、仰向けにひっくり返し、呼吸だけ確認する。……うん、上下に動いてるし問題なし。




「そこまで。……レン、殺してない?大丈夫?」




「面倒だからしてない。でも肺を圧迫したから呼吸が気になるようなら誰か付けといて。……でも、この程度の腕しかないなら全員落とした方がいいよ。死んでもいいなら別だけど。」




ギャラリーを見ながら言えば、明らかに怯えた顔をされた。……いやいや、魔物との戦闘とかだったらもっとキツいし、血とか大量に出るからね?

貴族なんて血に馴染みなんてないだろうし……それで失神なんてしたらパーティのお荷物にしかならない。




「………なぁ、俺も手合わせいいか?君から見ての腕前を知りたい。」




「わ、私も…!魔術師として、指導をお願いします!」




声を掛けてきたのは先程心配してくれた人ら。成る程、全員が全員クズと同じ部類というわけでもなさそうだ。こんな小娘に丁寧にしてくれてる時点で信用は出来る。


………けど、




「無理。用がある。あと私まだ教え乞う立場だし……アンさん。」




「まぁ、そうだよな……つってもどうも此方も訓練を辞退する奴が多そうだから俺は事務作業に入らなきゃならないしな……」




本来の目的は、アンさんの訓練の手伝いではなく、ペイルウィングとリュエールとの契約。うるさくされると困るから湖から引いてもらう為にやむを得なく手伝っただけに過ぎない。


だからアンさんに問えば……まぁ、今ので殆どが訓練を止めたそうにしてる。でも何故か彼らは私に師事をお願いしてくるし……うーん…




「…あぁ!良いこと思い付いた!アン、アンタは事務作業に入っていいよ。

んで、訓練続行の残りの奴等はアタシが面倒見るよ。…それで、今回は実際、従魔術師の契約の場面を見してもらうってのはどうだい?勿論レンの邪魔はさせないさ。魔物との戦闘を見学するって言うのも一つの訓練だからねぇ。」




名案とばかりに肩を組んでくるヴェセル。……邪魔しないならまぁ、見られてても問題ないか。




「……勝手に動くけど、いい?」




「勿論。アンタは別に教育係でもなんでもないし…此方が頼んだことだからねぇ。少しだけ待っててもらえるかい?」




アンさんもヴェセルの意見に賛成なのか、既にてきぱきと動いている。…どうやら、辞退する者はアンさんと一度街へ戻るそう。森に居たって邪魔だし危ないからね。



で、ヴェセルはヴェセルで残るものの把握にテントの確認。それから退去者の手続きをアンさんと少しやってるらしく……手持ち無沙汰になってしまった。でも待ってろと言われたしなぁ…


フロウの元に戻り、ふかふかの毛並みを背にして座る。まだまだ陽は高いから時間的には問題ないだろう。…間に合わずとも今回の事を話せば多少許される……はず。




「君、さっきはいきなり申し訳なかった…そういえば君はギルドの人ではなかったんだね。」




「私も、ごめんなさいね。黒猫族って珍しかったからつい…」



ぼんやりしていれば先程の二人が声を掛けてきた。…フロウがちらりと見ただけで威嚇しないってことは敵意も悪意もないのだろう。立たせてるのもあれなのでとりあえず座って貰った。


……貴族に地べたを座らせるのもあれかな?って思ったけど、二人はすんなり座ってくれた。




「俺はフィート…知ってるとは思うけど、今この場に居る全員が貴族だが…家名を名乗らないのは許してほしい。それから畏まるのも……って君はしてないか。」




「必要だったらします?」




「ううん、そのままでいいわ。…私はメリーラ。私達幼馴染みなの。…ごめんなさいね、貴方もギルドの人も不快にさせてしまって…」




「それはあのクズが悪いから気にしないでほしい。…あと、これまでの事は知らないけど。必要だと思うなら私じゃなくてアンさんとかヴェセルに言って。」




まぁ、多分二人の事で嫌な気分になったことは無さそうだけど。……さっき、ヴェセルが遠巻きに此方を見てたけど、特に何もなかった。警戒は必要なしと思われてるなら彼らの振る舞いに問題はなかったのだろう。





「それより、なんで貴族が冒険者ギルドに?」




「俺達貴族の長子以外は…殆どが新しく出来る貴族専門のギルドに入る予定なんだ。一応その為の学校も設立されるらしいけど……その予備訓練だったり、それが嫌で冒険者ギルドの方に流れたり、かな?」



「私達は前者。此方のギルドに直接入るわけではないけど、系列的には一緒らしいから訓練をお願いしたのよ。残ってる人達もそうでしょうね…自ら志願して来てるから、さっきの事に怒ってるみたい。

で、さっきから退去手続きをしてる人達が後者。貴族専門のギルドは主な仕事が護衛だそうだから……討伐依頼の方が簡単だー、なんて言って無理矢理ギルド加入してきた人達。」




ほほう。この二人も貴族専門のギルドに入るのか……思わぬところで人脈が出来てしまった。入ったら驚かせて上げよう。


まぁ今のを聞いた限り、まずギルドより学校に入るだろうから、その時声を掛ければいいか。…数年前に話を聞いたきりだったから、帰ったらアルトゥールに話を聞き直さなきゃな。



それからこれまでの事を簡単に教えてくれた。


何でも昨日から遠征が始まり、一部を除いて全員が野宿にすら反発していたらしい。……冒険者ってそういうものだと思うのだけど…どうにも、今まで何も知らなかったお坊っちゃん達が多いそう。



逆に、貴族専門ギルドへ向けての練習に来た面々は冒険者達へ憧れを抱いたものも多いらしい。…これは冒険者ギルドにも貴族の子が流れるかな?



「一応、俺とか何人かは冒険者ギルドか貴族専門のギルドか…入りたい方にしろって言われたり、そもそもギルドに入らなくともいいって言われた奴も居る。」




「貴族の長子と次子以外はね、基本的には国に使える騎士になったり、他の貴族との繋ぎ役をやったり……そうね、自分達で家名に泥を塗らないようになさいって放り出される事が殆どなのよ。」




「へぇ……貴族って何だか大変そうだね。」




「そんなことないわ。支えられてる以上、当然なの。その家に生まれた以上、私達の身分は民を守るためにあるもの。裕福な暮らしが出来るのも、それを作ってくれる彼らが居てこそ……それを守る王に仕え、支えるのが私達の役目だわ!」




「これが残忍な王とかだったら俺も怠けてたかもしれないけど……気高い獅子の王に、優しい異界の王太子様。あの人達の頑張りを見てるとさ…人間だけど、この国に仕えてて良かったなぁって思うんだよね。


特に王太子様なんか、俺達の名前把握してくれてる上に、元元老院の貴族から守ってくれたんだ。凄いよなぁ、王太子様。」




よし、彼らは味方だ。ナオのことを褒めてくれる人に悪い人なんて居ない。


……じゃなくて、どうやら彼らは善良な方の貴族らしい。家名を名乗らなかったのは私が萎縮しないようにするためだろう…ここまでフランクな貴族も珍しい気もするけど、ナオの影響かな?



是非とも彼らにはナオの臣下となって支えてほしい。……会いたいなぁ。どんな風に成長したんだろ。…いやいや、今は大事な時期だろうから邪魔しちゃ悪い。……いつか遠目でこそっと見るくらいはいいかな…?




「よし!レン準備が出来た。リュエールとペイルウィングの所にまで案内するから頼んだよ!」




「……分かった。巻き込まれるのだけは気を付けてね。」




五人程しか残らなかった面子を見て、アンさんに哀れみの視線を向けてしまったのは仕方ない。


馬鹿の子守りって大変なんだね……街まで頑張ってくださいね。…そんな恨みがましく見られても出来ることはないので、ヴェセルの隣を歩いて逃げた。



さて、漸く目的を果たせそうかな。





次回、ようやく契約!

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