第五十三節 従魔契約2
ゴリラ生きてる
フロウに乗って、湖に逃げてきてしまった。…いやまあ、契約しに来たから逃げたとは言えないかもだけど、逃げてきてしまった。
アヴィリオもリムネルもアルトゥールも、みんな揃って過保護が過ぎる。肉体年齢と精神年齢が合わないという弊害は中々キツい…まぁ、肉体に精神が引っ張られてる節はあるから、そこまで気にしてないけどね。
「っていうか……どんな魔物か聞かずに出てきちゃった…」
走る速度を落としてくれたフロウの背を撫でつつ、ため息を一つ。……まぁ、鑑定使えば魔物の名前くらい分かるし、いっか。とりあえず森を抜けよう。
お昼寝に良さそうな木漏れ日を浴びつつ、時折小鳥が頭上を舞うのを眺めて約数分。…きらきらと大きな鏡みたいな湖についた。正直、思ってた湖より3倍くらい大きくてびっくりしてる。軽い海かなんかかな?
「フォン。」
「ありがとうね、フロウ……さて、じゃあまずは…ペイルウィングから契約しようか。そっちが目的だしね。」
降りやすいようにしゃがんでくれたフロウを撫で、とりあえず頭の中で計画をたてる。
ペイルウィング…ペイル、かぁ。綺麗だって言ってたから、多分あってるだろう。具体的な姿は創造できないけど……とりあえず、探してみよう。
『ペイルウィングをお探しですか?』
何処からともなく頭に響くのは…ノーチェの声。私もスキルが上がったのでよくお喋りできる……が、頭に響く感覚が苦手だし、ノーチェは夜の神なので滅多にこんな風な会話はしない。普通に会ってお喋りした方が楽しいし、彼女も随時私を見てるわけではないらしいので色々会話が弾むのだ。
兎も角、彼女が自分から話し掛けてくるなんて珍しい。もしかして知ってるのだろうか。
『勿論!ペイルウィングは私達夜の神達が昔作った一種ですからね!常闇でも飛べる瞳を、暗雲にさえ負けぬ丈夫な翼を……と、言ってもそれは一番初めのペイルウィングの話ですので…だいぶ血が薄まったり、環境の変化が起きたりでそこまで強くはないですが。』
ふぅん……というか、神様が魔物とか作ったりもあるのか。もしかしたらフロウも……アースフォクスも、どこかの神が作ったのかもしれない。
この世界の神の立ち位置は正直よく分からない。私のような異分子を入れたり、魔物を作ったり…人類滅ぼしたいのかと思ったけど、それも違うらしい。…此方に来るときにちゃんと聞いておけば良かったな、とりあえず寿命まで生きろとしか言われてないしなぁ……
『ペイルウィングは私の加護を持ってる貴女なら契約しやすい筈ですけど…可能なら、複数契約しておくといいですよ。ペイルウィングに関わらず、鳥型の魔物は策敵や連絡用に重宝しますからね!健闘を祈ります。』
フロウを休ませつつ、ノーチェの言葉に耳を傾ける。…確かに、今後を考えると策敵は必須だろうし、伝達にも使えるか。多ければ多いほど契約は大変だろうし……多くて5羽くらいにしておこう。
フロウ以来の契約だから、魔力の配分も考えて……夕暮れまでには帰ろう。無理して倒れなんてしたら過保護が加速する。
「よし……行こうか。」
湖沿いにとりあえず歩く。見渡す限りではこの場にはペイルウィングらしき魔物は居ないけど……それでも湖が綺麗だから歩くのは苦にならない。他の魔物にも気を付けなくてはいけないけど、森側はフロウが警戒しててくれるから問題なし。
きらきら眩しい水面は、澄みきっていて鏡のように己を映す。中の魚達は見たことがあるものばかり…上流からここまでどこかで繋がってるのかもしれない。
「……!…け……!!」
「…?」
何やら先の方が騒がしい。少し歩を速めてみれば……何やら大勢の鳥に襲われてる御一行が。鳥達のターゲットは湖に入って動けなくなってる一人の男性で……耳を抑えている。喧しい囀りはここまで聞こえてくるので、もしかしたら音による攻撃かもしれない。
鳥達は一定の距離を御一行と保って、錯乱したように剣を振り回す一人から逃れている。…あんな仲間の近くで剣振り回したら怪我人出るぞ、馬鹿なのかな。…錯乱してるから仕方ないのかもしれないか。
兎も角、このままにしておくのもまずい。
「フロウ。」
「ガゥ!!」
幸い、魔術の射程内なので鳥達の声を防ぐように土壁を作り上げ、フロウに声を掛ける。言わずともやるべきことが分かってるのか、土壁の前に立ち、本来の大きさに立って鳥達を威嚇した。……フロウ、狐なのにたまに狼みたいな声でるよね。とくに大きくなると。
走り寄りながら様子を伺えば、フロウを恐れたのか鳥達は散り散りに飛んでいった。……フロウ大きいもんね、飛んでようが食らい付きそうだったもんね…
土壁を瓦解して、御一行に近付く。……実は助けたのは理由がある。いやまぁ、理由なくても助けはしたんだけどね。死体なんか見たくないし。
突如現れた土壁、しかも急に壊れたし、目の前に巨大な狐が居て何人か尻餅ついてるのを視界に収めつつ…向こうも私に気付いたらしく、少し目を見開いてるのを確認した。
「お久し振りです、アンさん。」
「驚いた……まさかここで会うとは思わなかったよ。今の魔術、君のだろう?礼を言う。久しぶりだね。」
記憶にある姿とほぼ変わらないその姿。私が伸びたからか、寧ろ幼く見えるのが心底不思議だけど…差し出された手を取って、挨拶を交わす。
「アンさんこそ。ギルドの受付の仕事は変わったんですか?」
「いや、基本はそっち。今日はうちの新人の教育。……本来は上級者のパーティに一人ずつ入れたりとかして戦闘に慣れさせていくんだけど……少し事情があってね。足りてないんだ。まぁ、結果はさっき見た通りだけど………だから言ったろう、お前達。魔物の特性、特徴、弱点を知らなきゃいい武器を持ってようが意味がないと。」
後半は湖の中で尻餅ついてる彼らへの言葉だ。……フロウに怯えて後ずさってる彼らがギルドの新人のようだ。
……フロウも揶揄わないの。戻ってきなさい。
「で、ですが…!!」
「口応えはいい。特に君、君が特攻しなければ彼らは攻撃してこなかったんだ。そういう種族だからね。……パーティを危険に晒す分子を、我々のギルドは許さない。この子が居なきゃ、今ごろ切り裂かれてただろうね…ペイルウィングは温厚だけど弱い魔物じゃないから。……分かったら全員テントへ戻れ。俺も後から合流する。」
「……はい。」
萎れて戻っていく御一行……一人からは物凄く睨まれた。解せぬ。
大きさを戻し、唸るフロウを宥めていればアンさんが疲れたように目頭を抑え、何やら深い溜め息も出てる。
新人教育って大変だろうなぁ、前世苦労したもん。年齢が己より上の人に教えるのと、聞き分けない馬鹿に教えるの本当に心労が絶えない。何でだめなのかを教えても我を通そうとしてくるから面倒だし。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、助かったお嬢ちゃん…って歳でもないか。レン、だったか。……君は何しにここに?」
「ペイルウィングとリュエールと契約しに。」
「リュエールか……なら暫く俺に付き合ってほしい。リュエールは騒がしいと出てこないし、俺達も訓練はしなきゃいけない。とっとと訓練終わらせるためにも協力を頼みたい。」
頼む、と頭を下げてくれたアンさん。…ちゃっかり、名前も呼んで貰ってしまった。昔お嬢ちゃんって呼んでたのは年齢のせいだったか……!
兎も角、リュエールと契約するには彼らに退去して貰わなきゃいけないし……時間もまだある。協力しても問題ないだろう。
二つ返事で承諾し、アンさんに着いていく。
曰く、魔術師も足りてなければ従魔術師も足りてなくて訓練が滞ってるらしい。リムネル達を呼んでくるかと聞いたら、どうやら今年の新人はエルフを軽視してるお馬鹿さんらしくて手を焼いてるし、不快にさせたくないそうだ。
ギルドとしても、正直そんな人材は要らない。調和を乱す輩は必要ないが……どうやら彼らの親が中々に裕福らしく、それを後ろ楯に無理矢理入団したそう。
「一応、実力不足なら返すって契約したから、今回の遠征は見極めも兼ねてるんだ。全員が全員役立たずって訳でもないし。」
「成る程……あれ、じゃあさっきの上級パーティ云々って言うのは…」
「半分は本当。でも人が足りてない訳じゃないし、協力を買って出てくれたパーティもある。…だけど、彼らを危険に晒す訳にはいかない。うちの筆頭稼ぎ頭だからね。受付の俺に実力不足って認識されたら仕事は回さないし……見極めにはもってこいなんだ。受付の仕事は他に頼んだし。」
ほほう……中々にギルドも荒れてる様子…そういえばアヴィリオが世界が荒れてる、なんて言ってたな…その影響かな。
「それで、私は何をしたらいいの?」
「性根を叩き潰してほしい。」
「………はい?」
「お前より歳上の奴らばっかだからな、纏めて精神をズタボロにしてやってくれ。加減はしなくていいぞ、年下に、しかも女に負けるなんてプライドだけは高い奴等は耐えられないだろうしな……!!」
物凄く悪い顔をしてるアンさんにドン引く。…あれ、この人こんな感じの人だっけ…?……………いや、こんな感じの人だけど、なんか色々悪化してない…??
そんなことを話ながら歩いていたら、少し開けた場所に出た。教会の反対側くらいかな…いくつかのテントがあり、さっきの御一行は逞しい女性の前に座って説教されてるみたいだ。
「ヴェセル、今戻った。」
「あぁ、お疲れさん!お前たち、訓練に戻りな。……おや?そっちの子は誰だい?」
「レン、です……一応アンさんの知り合い…?」
「なんで疑問系なの。……まぁいいや。この子はレン。見た通り黒猫族だし、従魔術も使える。協力を要請したんだ。
で、こっちがヴェセル。主に基礎訓練の教官をお願いしてる。」
さっぱりとした感じのお姉さん……少し潮の匂いがする。船乗りさんか何かかな。
私に、次いでフロウに視線を移して、もう一度私に戻ってくる。訝しむような視線を受けること数秒、何かを納得したかのような顔をした。…なんだろう。
「成る程、アンタが神父の娘か。噂に違わず可愛いねぇ!黒猫族なんてアタシ久しく見たよ!アタシはヴェルセルトリア!気軽にヴェセルって呼びな、ギルドの船を管理してる者さ!」
「わっ、…ん、宜しくヴェセル。…っていうか噂って?私あまり街に降りないから知らない…」
硬く、少しカサついた手に撫でられた。船乗りの手は潮風やロープなんかで皮膚が硬くなるとかなんかの本で見たなぁ…
去っていった御一行が座ってた場所に皆で座って、落ち着いて話を始める。フロウも隣を陣取って……辺りを警戒してる。知らない人多いもんね。離れてるとはいえ、やはり視線は多い。…訓練しながらこっち見るって器用だね?
「神父の娘…つまりアンタの事はギルドの尽きない話題だからねぇ。…あぁ、アヴィリオとリムネルは元気かい?アイツら、付き合い悪くなったと思ったら一人の幼女に付きっきりになってるなんて聞いた時は……そりゃ腹抱えて笑うしかないだろ!
あの!エルフ達がだろ?!面白いったらありゃしない!しかも自分の意思でと来た!」
「…あのエルフ?」
「アヴィもリムも、親しい者以外には手厳しいんだ。アヴィは特にね。……懐かない野良猫かなんかだと思ってたらいいよ、一部には懐きまくってるけど。」
大笑いしてるヴェセルに、口許が緩んでるアンさん。……アヴィリオもリムネルも親しみやすかったけどなぁ…性格から誤解されがちなのかな…
「はー、笑った笑った……それだけじゃない。アンタ、昔貴族言い負かしたし、張った押したんだって?その度胸も頭もギルドにとっちゃ最高の人材さ。…ギルドの連中はアンタの事を娘か妹かなんかだと思ってる連中が居てねぇ……だからアンタは可愛い猫ちゃんって話題が絶えないのさ。滅多に街に降りないんだろう?成長したアンタを期待してる輩が多いって話さ。……アンもその一人だろう?」
そんな噂聞いてない。ばっ!っとアンさんを見れば私と同じ方向を見て逃れようとしてる。袖を掴んで逃がさんとアピール……よしよし、フロウもそのまま靴抑えててね。
というか、ギルドに入るの取り止めたのになんで……引き抜くつもりでもあるのかな…ありなのかな、それ……
「……俺も、王宮の場に居たからね。ギルドに優秀なものが増えるのは喜ばしいし、正直優秀な人材は欲しい。アヴィリオ達にも説得しろって言ってはあるけど……無理って毎回返ってくるんだ。まぁ、君が通う訓練所や後のギルドもうちの系列にあたりはするんだけどね。」
「なる…ほ……ど…?」
「まぁ、君の選んだ道に口出しはしないよ。それより今の事だ。……君にしてほしいのは、さっきも言った通り訓練生の精神をズタボロにしてもらうこと。
なに、少し実践演習をして貰えればいいさ。…アヴィ達から一応報告受けてるけど、対人戦は訓練以外君も初めてだろう?」
知らぬところで評価が上がってたことに狼狽えつつ、アンさんの問いに頷く。組手ならするけど、アヴィリオ達以外との訓練はしたことがない。
頷いた途端物凄~く悪い笑顔を浮かべるアンさんに身体を引きながら、次いで出てきた言葉に更に頬が引き攣った。
「じゃあ丁度いいや。君、さっきの彼らと組手。癒術を使えるものも、回復薬もあるから殺さない程度なら何してもいいよ。すぐやるから。」
私、契約しに来たんだよね……?
更新はまったりペースだけど更新してくゾ




