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まぁ、転生したからといって美少女になりたいとは限らない  作者: ゴリラの華
一章 美少女は望まない
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閑話休題 美少女の決意

スランプゴリラ、でも次章へ




王宮に呼ばれた数日後、元老院が解体されたという知らせが一気に広がった。


しかも、幼い少女をいたぶり、人身売買に手を染めた者が原因だという。




「ま……そりゃ広まるわな。俺達獣人は…いや、エルフとかもそうだが、人間よりも子を大事にする風習がある。他所の子でも女は我が子のように慈しむし、男は女子供を守るものだっていう本能が根付いてる。

ギルドの大半は子持ちだしなぁ……王族派に一気に傾いたろ。」




「そうなんですか……最近、やたら親切にされると思ったら…」




「ノエルも見ていたからね。逃げずに居たことが好印象だったんじゃない?…いや、知らないけどさ。」




少し温くなったハーブティー。ほんのり檸檬の匂いがして気分を落ち着けてくれるので私は好きなのですけど……ギルド長はあんまり好きじゃないみたいで、いつも珈琲を飲んでいる。


よくギルドに顔を出すようになったけれど、揶揄うような声はあの少女と来たときだけに収まり、寧ろ最近では皆がお菓子をくれる。可愛い、可愛いと愛でてくれるのもなんだか嬉しくて、すっかりギルドに馴染んだような……気もする。ちょっと怖い人も居ますけど。



あれ以来、あの子はどうやらギルドに来てないらしい。…そもそも、あんまり依頼人以外来ないんですけど。




「ノエルの訓練所通いの手続きはいいとして……ギルド長、ほんとに王宮に戻るんですか?サボり魔なのに?」




「王からの命令だ。流石に断れば首が飛ぶ。……いや、アイツはそんなことしないけど周りがうるせぇからな…」




見るからに垂れてしまった耳と尾。アンと顔を合わせて、つい苦笑が滲んでしまう。


アン曰く、ギルド長の手綱を握れるなんてそれだけで信頼できる…らしい。日頃逃げ回られて大変ですものね…

それでも、ギルド長の口振りから、きっと王宮の人達は親しい人達なのだと思う。嫌そうな顔をしてるけど、目が穏やか。




「失礼します…っと、アンも居たのか。ノエル、手続きは終わったかい?」



「姉様!はい!勿論ですっ!」



「ふふっ、それは良かった。ずっと楽しみにしていたし……あぁ、そうだ、ギルド長此方を。至急での配達だったのでお届けに上がりました。なんでも、アルトゥールという宮廷魔術師からだそうです。」




優しく撫でてくれる手に頬が緩んでしまう。アウリル姉様の手は、町の女性と比べて少し硬い。

剣を主に使うと、傷が増えて…段々荒れてくるそう。……それでも、私は姉様の手が好きだし、憧れる。


姉様の手は誰かを守ってきた武人の手。


いつか、私も誰かを守るために剣を取りたい。兄様のようになるのか、姉様のようになるのかまでは決めてないけど……あの日から決心した。


守られるだけではなくて、自分も守れるようになりたいと。




「げっ……早速仕事かよ……あ?……あぁ、なるほどな。」



「どうかなさいました?」




「いや、前々から貴族専門のギルドの建設を打診してたんだが、どうやら受理されたらしい。全寮制、来るのも貴族の跡取り以外の息子娘ばっかだが安全面も完璧。

訓練所の建設やら顧問の確保やらで始動は十年後らしいが……あの少女も組み込むそうだ。ま、ヴォルカーノの奴も復帰するって話だし、問題はないだろ。」




「貴族専門のギルド…?僕、聞いてないんですが?」




アンの声が若干低くなり、姉様と揃って顔を逸らす。ええ、長い付き合いではないですけど、アンのこの声がしたときはお叱りが飛んでくるのは知ってます。飛び火するもの。



でも、




「そりゃあお前の仕事減らすために建てるようなもんだしな。貴族共の仕事を一人でこなすには無理がある。かといってうちの連中にお上品な奴なんて居ない。…だったら手間だろうがなんだろうが一から教育するしかねぇだろ。」




「ぐっ……」




「アン、お前はうちに必要な人間だ。誰がイチャモン言おうと俺が必要なんだ。貴族のクソ共に潰されるなんざ御免だね……ま!そういう訳で作った!上も許可してるし問題ねぇな?」




「貴方は…いつもそうやって勝手に……!!…あーもー!!好きにしたらいいんじゃないですか?!ついでにうちの馬鹿達も教育してほしいくらいですよ!」




珍しく、感情的に声を荒げるアン。…また姉様と顔を見合わせて…今度は笑った。


だって背けた顔、その頬はよく見ずとも分かるくらい染まってるんですもの。アンも可愛いところあったんですね…ふふ。




「ところで、何故あの子も?そもそも彼女が冒険者になる理由も知らなかったんだが…」




「あー……そうだな。俺も口止めされてっからお前らにも言えないことが多いが…まず第一に、元老院の逆怨みからあの子が身を守る術を身に付けるため。


あの子は貴族になることを望む。貴族ってぇのは俺らみたいに何でもかんでも力で解決、って訳には行かねぇんだ。それも女と来れば……階級に沿った礼儀、優雅でなくてはならない各仕草。そして何より…水面下での罵り合いや嫌味、それを交わす術が必要になってくる。ま、一番最後のはもう充分かとは思うがな。」




「ま、待って下さい!そんな…危険と分かってるならば、この国を離れたっていいじゃないですか…!」




「それは無理だ。」




何もこの国に留まる必要はないし、きっと、神父様だってお金に余裕がある。

しかも訓練所も寮制だなんて……そこで何かあったらどうしよう。大人だって、きっと貴族ばっかで…


嫌なことばかりが頭をよぎって、ギルド長の袖を強く引いてしまったけど…返ってきたのは、ぴしゃりとはね除けるような強い声。




「ギルド長。」



「あ~……わりぃ、ノエル、つい感情入っちまった……お前さんがあの子を大切に思ってるのは分かった。……ていうか、なんでそんなに懐いてるのか知らんが、まぁ…そうだな。子供だからと理由を話さないって云うのは違うし、お前も賢い子だからな……アウリルも、サンキュー。」




「いえ、これしき。…珍しいですね、そんな厳しい声出すだなんて。」




困ったような顔をして、でもアウリル姉様よりもずっと大きな手で撫でられた。

姉様も気を抜いたように息を一つ溢して、紅茶を淹れ直してくれた。優しい匂いのするカモミールティー。


ツンっとしてたアンも漸くいつも通りに戻って、ゆっくり紅茶を飲んでいる。




「そうだな、確かに引っ越すのがあの子にとって一番安全だ。元老院の力が及ぶのはこの国限定だしな。


だが、それは無理だ。アイツは……ヴォルカーノはあの教会の守り人だ。姫の死に責任を感じてるからこそ、アイツはあの教会を離れようとしないだろう。

そうすると嬢ちゃんの保護者が居なくなる。

アヴィリオとリムネルはあくまで俺達が派遣した魔術講師だ。保護者じゃねぇ。…だからあの子はこの国を出られないし、本人も出ようとしてない。


つーか、俺も提案したんだが…嬢ちゃんがこの国に居るって宣言したし、喧嘩は買って上等なんて言い出すからあの馬鹿二人もスイッチ入ったし……」




「あ、はは………でも、なんでこの国に執着するんでしょう?…私だったら…やっぱり怖くなって、逃げそうです…」




「ノエルの反応が正しい。一般的だ。…好きな人が、居るんだとよ。誰かまでは言えんが…手紙でそれだけで危険を冒すのか?って聞いたら。

“たった一つあれば、命を張るには充分です。それに毒牙の娘が尻尾を巻いて逃げるなんて…笑い話もいいところではないですか?”だってよ。……大物になるぞ、あの子は。」




ついポカン、と口が開いてしまった。……好きな人のために?それだけで?


死んだら元も子もないのに!


それでも、…いえ、だからこそ。胸に響いた。




「命を張るのに……一つだけ…」



「理由の重さは個人によって違う。…だが揺らがない理由があるなら、それだけで剣も魔術も鋭さを増す。ギルドの全員が何かしら一つは理由を抱えて依頼を受けている…弱い魔物だって、命を落とすなんてざるにある世界でな。


それでも、ノエル。お前は訓練所を上がってここに所属するつもりか?命を張るに値する理由を持ってるのか?」




真っ直ぐに見詰められて、息が詰まった。


私は、姉様や兄様のようになりたい。…でもそれだけだった。

理由じゃなくて、憧れ。

強くなりたい、守れるようになりたいと願うだけの事で…手段として、訓練所があるだけ。


愛する者が居るとか、どうしてもならなくてはいけないなんて理由はない。………私は……命を張るって事を、理解していなかったのかもしれない。




「……ノエル。」




「姉様…?」




「ギルド長が言っただろう?理由の重さは個人で異なる。…ノエルはあの日、帰ってきたら私に教えてくれたじゃないか。それを伝えてごらん。それは立派な理由だ。」




「あ……」




肩を支えてくれる姉様の手。……それより、ずっと小さいあの子の手を、私は見た。


私より小さくて、でもずっとずっと強いあの子。憧れた。でも、それと同時に、



「私は、……私は!あの子のように強くなりたいです!大人に怯まず、凛と立つあの子のように!

…でも、それだけじゃ足りない。…あの子を、守れるようになりたいんです!お節介なのは分かっています、それでも……それでも!手を取ってくれたあの子に恩を返したいんです!」



精一杯、言葉に思いを込めて。半ば叫ぶようにギルド長に伝える。


その程度、と言われるかもしれない。…でも、私はあの子を守りたい。あの小さな手が傷付かないように、…繋いでくれた、あの手が幸せを掴めるように。



ぎゅっと目を瞑って居たら…ギルド長の笑い声が聞こえた。思わず目を開けると、楽しげな顔をして頬杖をついていた。……その横でアンが顔を顰めていますが…私より声大きいですものね。ギルド長。



「あるじゃねぇか!立派な理由が!憧れ、お節介、んなもん上等だ!お前がそう在りたいと願うなら充分ギルドに所属する理由だ!命を張るに値するってのは、他人が決めることじゃねぇ。…ノエル、自分自身で命を張っていいって思えるかどうかだ。」




「うるさ……ノエル。ギルド長の言う通りだよ。っていうか、理由があれば僕は正直なんでも良かった。

理由のない奴に冒険者は続けられない。パーティーでの揉め事。依頼人との揉め事。依頼での不足の事態、命の危機…多大なストレスが掛かるこの仕事で、理由のない常人は耐えられない。


耐えられるのは根っからの命の駆け引きを楽しむ馬鹿か、戦闘狂いの馬鹿か、理由のある馬鹿のどれかだ。……君も理由のある馬鹿の仲間入りだね。」




「ば、馬鹿じゃないですっ!!」




勿論姉様も!と付け加えてもアンは飄々として居る。

受付という仕事をしているからか、アンの人を見る目は皆信頼してると姉様は言っていましたが………私、馬鹿なんでしょうか…



アンの言葉がツボに入ったのか、お腹を抱えて笑ってるギルド長に頬を膨らますと、うっすら涙を浮かべながらなんとか笑いを収めてくれました。…ばしばし机を叩くので、紅茶がちょっと溢れそうでしたんですけど…




「はー…その通り過ぎて腹痛ぇ………ま、ノエルの手続きはもう済ませたし、どっちにしろ訓練所通いにはなるんだがな。


だが、そうだな…理由が理由だし………うし!ノエル、お前貴族専門ギルドの方の訓練所な。」




「「え?」」




「確か片親貴族の血筋だったな?それにあの子の味方が居ないのをヴォルカーノの奴も心配してたし丁度いいだろ。貴族ってーのは血筋がいいだけに強いからな、修行は俺がつけてやる。」




「え……えっ?」




「家名名乗ってもいいか手紙出しとかなきゃならんな。面倒だが仕方ねぇ……って訳で、アン後は頼んだ!午後は昼寝の時間なんでな!」




「はっ?!ちょ……逃げるなぁああああ!!!」





素早く窓から飛び降りて行ったギルド長に、アンの怒声が聞こえたのか聞こえてないのか……追って窓から出ていってしまったアン。…残されてしまった姉様と顔を見合わせて…クスクスと、お互い笑った。




「良かったね、ノエル。ギルド所属が一緒ならパーティーが組める。……彼女を守れるよう、私も手を貸すさ。」




「はいっ!…十年。…十年も時間があるんです、きっと姉様達より強くなって、あの子を守れるようになりますよ!」




「ふふっ、その意気だ。さぁ、帰って報告しようか。私も今日の仕事は終わったんだ。」




「はいっ!姉様!」





私より硬くて、大きな手。


いつかこの手に私もなるのでしょう。…その時には、きっとあの子を守れる程の強さを持てるように。勝手に守りたいと思っているだけだけれど、それでも……私の手を取ってくれた、あの子を、守れるように。




子供の思い込みってめちゃくちゃすごい。置いてかないって約束を片方がずっと重く思ってる姉妹愛とか弱い

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