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まぁ、転生したからといって美少女になりたいとは限らない  作者: ゴリラの華
一章 美少女は望まない
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第四十二話 報復

書き納め




いつの間にか眠ってしまった翌日、知らない兵士さんがやって来て神父様に書簡を渡していた。



正式な呼び出しは三日後…関係者と保護者を同伴で連れてくるようにと。




そこでまだマナーに関する話が有ったならば、多少は怒りを鎮めたが……兵士さんは元老院の手先なのか、悪態をついてきたので笑顔を返しといた。

失態は全部上に返してあげるから安心して!名前もちゃぁんと聞いたからね!!所属も言ってくれるなんて優しい兵士さんだなぁ!




にこにこと笑顔が止まらない。……はて。何時もだったら感情的になったら涙が出るんだけどなぁ……なんて思っていたら、神父様に母親そっくりと言われた。

容姿だけじゃなくて…性格も此方の両親の影響を受けてるみたいだ。器の年齢が低いから、精神も少しずつ器に引き摺られてるのもあり得る。



それはともかく、三日後の喧嘩に向けて私はひたすら書庫の本を漁った。神父様も元貴族というだけあってレッスンをしてくれるし……意外にも、アヴィリオも手伝ってくれた。


なんでもエルフは幼少に必ず礼儀を叩き込まれるらしい。逆に礼儀知らずは話しても貰えないんだとか。



そしてリムネルは…ありとあらゆる美容ケアをしてくれて、ドレスまで作ってくれている。わざわざ町に調達しに行ってくれたらしい。


おかげで髪も肌も艶々。髪も丁寧に揃えられ…耳や尻尾の毛先まで手触りは完璧。



そして……




「これで完璧っ!誰が見ても立派な令嬢だわ!!」



「わ~っ!!」




落ち着いた緑の布に繊細なエルフの刺繍。白い花がふんわりとした裾側に咲き、たっぷりとしたレースも淑やかな作り。少女らしさを出すためか、腰を白で縛って彩り…もみあげに紅いリボンを通して纏める。このリボンはアヴィリオが用意してくれたものだ。




気合いの入れようが凄まじかった。…いや、一番殺気だってたのがリムネルと自分らしかったので仕方無い。


高笑いしてるリムネルに拍手を送れば滅茶苦茶いい笑顔が返ってきた。




「さぁ!蹴散らしに行くわよ!子供を殴るなんて屑の極みですもの!!」



「うん、任せて。納得のいく結果を出すから。」




固い握手を交わしていれば横から呆れたような溜め息が聞こえた。




「なんでわざわざ令嬢みたいな格好してんだよ…バレてんだろ?あのジジイには孤児って。」



「うん、知ってるだろうね。…でも他の人は知らないし、孤児って舐めてるからこそ最初のインパクトが必要なの。」




アヴィリオもリムネルも、勿論保護者枠で参加。多数の意見があった方がいいし…何より彼らは元々はギルドからの依頼で来てくれた人達だ。


此方が嘘をついていたならば庇ったところで損害しかない立場だからこそ、彼らの証言に価値がある。…しかもギルド長とギルドの何人かは立ち合うことになってるらしい。




「さて、そろそろ出ねば約束の時間に遅れるだろう……ディグラートが用意してくれたからいいものの…迎えも寄越さぬとは馬鹿なのか?」



「馬鹿なんだよ?期待しちゃ駄目だよ神父様。」




ゆったりとした神父としての装衣じゃなくて…漫画で見るような、明らかに貴族って感じの服を着た神父様と手を繋ぐ。

神父様は次世代に繋ぐため、名を返したと云えど……元、公爵家という肩書きは強い。知っている者も居るだろうし…何より、国王様もナオも居る場だ。ちゃんと神父様の噂も否定しておきたいところ。




フロウは残念ながらお留守番。目立つことこの上ないし……何よりうっかり普通の魔物だと思って殺してしまった、なんて嫌がらせをやられかねないのでお昼寝してて貰う。

教会をお願いね、と伝えたらお留守番が不満そうだったフロウは、役目を貰えたと示すように喜んでいた……ちょろくて可愛い子だ。帰ってきたらおやつあげるからね。




四人で待たせてた馬車に乗り…御者さんもギルドの人なので乗る際に心配と応援をされた。アンさんが手配したそうで…シンプルながらに美しい馬車は普段ギルドが使うものではなく、ギルド長として公の場に顔を出すときに使う…云わば特別製の馬車だ。そんなものを貸りるなんて……ちょっと腰が引けた。




それでも、後には引けないし引くつもりもない。




「…大丈夫だ。何があっても守ってやる。」



ぽす、と頭に置かれたアヴィリオの手に何度か擦り寄り…細く、鋭く息を吐き出す。



「大丈夫……勝つのは私。後ろめたい事が一個もない中で負けるなんて愚の骨頂。……見てて。俯く事なんてしないから。」












ーーーーーーーーーーーーーー













「集まってもらったのは他でもない……元老院のカルケ伯爵とその息子が町中で起こした事件についてだ。

国の中枢たる貴族が民を襲うなどあってはならぬ事態……ならばこそ、我々はすべてを見極めねばならぬ。ここに集う者は皆が証人、当事者の発言した言葉は全て記録される。」




ザワザワと当事者が居ない玉座の間に、詰められた数多の貴族と平民が騒ぐ中……漸く此方の言葉で僅かに静まる。

王も、王妃も、王子も、王女も……王族全員が揃い、かつては後宮に居た女共もちらほらと見掛ける。機会があれば、あわよくば俺に取り付こうとしているのだろうが…そんな場ではないのを理解したのか、つまらなさそうに親と話している。


貴族としては結婚適齢期を過ぎたいい年齢だろうに。あぁ、才がないから貰い手が居ないのか。




「陛下。あまり退屈そうにしてはいけませんよ。ただでさえ元老院の方はピリついてるんですから。」




「あぁ…分かってる。分かっては居るが……不毛だろ、この場。明らかに証拠もあるし、あの子に非はないし…」




「まぁまぁ、いいんじゃない?俺らは件の子見たいし。」




「可愛い妹になる予定の子に、早く顔を見せて欲しかったんですもの…私達は感謝しか無いわ。ナオは微塵も教えてくれないし、お母様とお父様だけズルい!」




ナオより五つ上の兄イクスと、一つ下の妹ユアが愉しげに訴えてくる。どちらも俺に似た容姿な上に、イクスは性格も俺に似てる。

ユアだけが癒しだった……よくフィオの性格を継いでくれたと天を仰いだのは数知れず。…イクスもナオも賢いのはいいんだが………うん…両方性格に難あり。



ユアはフィオとナオの姿を見て来たからか、才女として真っ当に勉学に励んでいる。フィオによくついて回っては指導される事を素直に受け止めているそうだ。

賢くとも、まだまだ幼く…たまに感情で突っ走るところも愛らしい。



イクスは……こいつは本当に勉強なんかしなくても才能があるから質が悪い。ただ努力するものを馬鹿にしたりはしないが……信用してない臣下をチクチク弄るのは止めてあげろ。気持ちは分からんでもないが悪手になるかもしれん。




「そりゃあ僕のだもん。二人に見せびらかすのはまだ早い……って思ってたんだけどね…ほんと、余計なことしてくれた。」




「そう睨むな。…ほれ、元老院の者がちらちら見てるぞ。」




珍しく不機嫌さを全面に出してる息子に注意してやれば、すぐに人当たりのいい笑顔を浮かべる。そんな様子に溜め息を溢しながらも……あの愛らしい少女を思い浮かべた。


先王の時の事がないようにと…こっそりレーヴェディアに監視させてたが…まぁ、ヴォルカーノのところの娘だから大して警戒はしていなかった。

同じ夜の神の加護を持つもの同士、惹かれ合った…だけでは理由が足りないところもあったが、それでいい。

運命というものは、そういうものなのだから。




「カルケ伯爵をお連れしました!」



城の兵に両脇を固められ、憎々しげに兵士を睨む男…血走った目は殺意さえ宿しているようだ。

言葉にするならば『この私にこんな無礼を…!!』辺りだろうか。

対して息子の方は……顔面蒼白、唇を噛んでいるが明らかに親より状況を理解してる。



さて、役者はあと一人だが……呼び出しはカルケ伯爵婦人が手配したと言っていたが、…あの女狐、本当に呼んだのか?夫の少し窶れた姿を見て泣き出しながらも……扇の奥、隠した口許は笑っている。

これでレンが来なければレンが不敬罪に当たり…コイツを罪に問えなくなる。


呼んでないのだと確信すれば、苛立ちでつい舌打ちを溢してしまった……幸い、誰にも聞こえなかったらしいが……両隣の視線が痛い。



「あなた?聞こえたらどうするおつもりですか?ただでさえ我々獣人は耳がいいんですよ?」




「父上。父上はレンを不利にさせたいの?」




「…す、すまん。」




似た笑顔を浮かべ、じりじりと責められてしまえば小さくなるしかなく……ナオは本当にこういうところフィオに似て産まれたな…




だが本当にまずい……そう思ったとき、部屋にノックが響いた。

ざわめいてた水面が一斉に静まり……扉が開く。



「お返事も待たず失礼致します。お呼び出しに応じました…案内をしてくださる方がいらっしゃらず、けれど時間に遅れるなど無礼と思い、上がったのですが……間違いで在られたら申し訳ありません。」




扉を開け、優雅に裾を摘まんで頭を下げるレンに呆気を取られた。続く男たちは随分と服に気合いが入っていて…令嬢達から吐息が溢れた。


にやけそうなのを我慢し、王としての責務を果たす。



「合っているとも。呼び立てて悪いな。」




「いえ、王命とあらば何処へでも。…寧ろこんな私めに正しさを訴える機会を下さり感謝申し上げます国王陛下。」




好奇の視線を諸ともせず優雅に、淑やかに歩み寄って頭を垂れる姿に瞑目する。

どちらかと言えば喋ると幼く、愛らしい印象を持ったが……そんな姿を微塵も感じ取れない。


猫人族は成長に波があるというし…彼女の事を知らなければ自分も年齢を誤認しただろう。5歳だと知ってるイクスとユアも驚いている。



ただ…両隣が喧しい。


大人になると感情を御し、勝手に動く尾さえコントロール出来るのだが……フィオの周りには小さな花が舞い、ナオは尾を無理矢理押さえ込んでいるが自慢するように視線を送ってくる。

…確かあの布、フィオがこっそりリムネルに預けたんじゃなかったか?




「良い、面をあげよ。…懐かしい顔にも合えたな。」




「はい…お久し振りです、国王陛下。此処を離れて幾時流れましたかな…それでも、私のもとまで陛下のお噂は流れてきましたよ。数々の武勇を修めてきたのだと。貴方の師としてこれ以上の誉れはありますまい。」





話を振られると思ってなかったのか、一瞬目を見開いたヴォルカーノに内心笑いながら視線を交わす。

口許に笑みを浮かべるも、その目は明らかに笑ってない。…視界の端でレーヴェディアが腕を擦ったのが見えた。ああ、あの目をしてる時は容赦なくボコられたものな。



「呼んだのは他でもない…そこの者らについてだ。」



「はい、存じ上げて居ります。簡潔に皆様に申し上げますと……双方からは暴力を、そして我が身を売れと言われました。」




「へ、陛下っ!!!その者は嘘を…!!!」




「黙れ。伯爵…誰がお前の発言を許した。…それに数多くの目撃者も居るようだが?」




未だもがく伯爵を見る周囲の目は冷たい…特に目撃者、関係者としてギルドマスターとギルドの何名か…更に伯爵を捉えたという非番の兵も事の成り行きを見ている。

最初から彼女の勝ちは決まっているというのに……それも分からぬとはなんと愚かな。そんな奴が中枢に居るなど…合ってはならぬ。



時間の無駄だと処罰を言い渡そうかと頬杖を付けば、物言いたげにレンが見詰めてくる。

ゆらゆらと儚く揺れる琥珀の奥底は見抜けず…声を掛けようとすれば横からちょん、と袖を引かれた。



「駄目だよ。レンの邪魔しちゃ。…当事者の好きにさせて上げて。」



「しかしなぁ…」



「大丈夫…あの子がどうしたいかは何となく分かるから。」




注目がレンに注がれてるうちにこそこそと話し…咳払いを一つ。




「だが、私も事の全容は知らぬ……当事者達の話を聞こう。聞いた上での処罰なら…納得いかぬ者も居るまい?…解放せよ。」




ざわめきが一気に広がり、腕を抑えていた兵はおずおずと離れていく。

レンへ殺意を向ける伯爵に対し、本人はどこ吹く風。…寧ろ大人三人は当事者じゃないからと下げてしまった。


それには流石に焦った。大人に守られていると思ったから解放を許したんだが??




「さて、では何からお話ししたら宜しいですかね……貴方が教会に何度も執拗に手紙を送ってきたこと?殴り、蹴り飛ばしたこと?それとも…私を娘のようだと思ってくださる神父様に、私を売れと迫ったこと?」




「そ、そんなことはしてない!!」




「そんなこと、とは?」




「全部に決まっているだろう!!!王の前で嘯くとは…!!反逆者め!!!!!」




怒鳴り、喚き、己より遥かに小さな少女に詰め寄る姿のなんと情けないこと。ただ淡々と言葉を紡ぐレンとの温度差が凄いが……発言を聞いて、彼女の唇が弧を描く。


獲物を前にした獰猛な猫の瞳。狩られる側と狩る側とが明確に線引きされた瞬間だった。



鈴を転がすような愛らしい笑い声が室内に満ちる。




「あら、私は平民ですからそのことは知らなかったのですけれど……成る程、嘘をつくと反逆になると……では貴方は反逆者ですね?」




「黙れ!!!!そんなことはしていない!!!!」




「まぁ…そう叫ばれては自ら後ろめたい事があると暴露してるようなものですよ?…遊びにもなりませんね。では、貴方の御子息に聞きましょうか。」




つまらないと溜め息を溢すのに物腰は低く、けれど明らかに遊んでいる。

普段は見れないその一面に周りの貴族と同様に興味が湧いて仕方ない。たった5歳とは思えぬほど、口から艶やかな毒が溢れていく。



視線を伯爵からその息子に移すと…項垂れる顔を覗き込むようにしゃがみ、ふわりと裾が床に広がる。




「………」




「……貴方は、あの人のように暴れはしないの?」




「……事実……だからな…」




「ふぅん……」





どのような結末を作るのか……暫しレンの可愛らしいお遊びに付き合うとしようか。










ーーーーーーーーーーーーーー














国王様に手を出さないでと念を込めた視線を送ったら、どうやら届いたらしい。


止めないということは遊んでも怒られないということ。なんて素晴らしい。気分は玩具を与えられた子供。わくわくが止まらない。


ただ、一つだけ残念なのが……殺気剥き出しで睨んでくるこの男。

貴族だから言葉遊びを楽しめるかと思えば、感情剥き出しで喚き、優雅さの欠片もない。

ほら、離れてる神父様も呆れてる。



だからその息子の方で遊ぼうかと思ったら……親とは真逆に、静かにしている。


覗き込んでみれば…顔色は悪く、瞳には強い後悔が浮かんでいる。唇も…噛みすぎて血が僅かに滲んでいる。

まぁ、彼は実の親に大勢の前で売られたから…プライドも貴族としての立場も、何もかも失ったに等しいだろう。




「……謝って、済むことではないのは…叔父からもきつく言われた。…それでも………済まなかった。」




「なっ…!!!そんな者に謝る事などない!!!止めんか!!!!」




「うるさい、ちょっと黙ってて。」




深く、深く頭を下げる姿にこの間見た傲慢さは見られない。

彼の叔父さんはどうやら有能らしい。

少なくとも、未だ睨み付けてくる男と……その奥さんだろうか、人混みの中で鋭い視線をびしばし送ってくる人が居る。


でも、そんなことはどうでもいい。

どうせ両方ともあとで報復するとして……彼はどうしようか。




「な……!!なんだと…!!小娘が…!!!!」




「………国王陛下、少々騒がしくしても宜しいですか?」




ガッ、と激昂した男に前を掴まれ、踵が浮く。それでも焦ることはない。否、焦る必要はない。

若干浮いたまま国王様に首を傾げて見せれば、頬が引き攣った。周囲も同等の反応を見せる。……まぁ、そりゃそうだろうな。5歳の子供が冷静過ぎたか。




「あ…ああ、構わん。」



「すぐ終わりますので。」




捩るように上体を仰け反って、せーの。




____ガンッ!!!





「っ…!!!!」




「貴方…!!」




「罪の自覚がないから、反省の色もないのでしょう……私はなんの力もない平民、しかも子供……ですから陛下?私がされたことをこの者にしても宜しいですか?個人的な報復であるならば、責任は私にありますので。」




「う、うむ……自業自得であろうな。他の者も、構わんな?」




「えぇ、大丈夫でしょう?だってされたことの証拠ならば目撃者が居るんですもの。異を唱える方は……その証拠さえ覆す、何かをお持ちなのでしょう。そうでなければ、共犯者だと思われてしまいますもの。」



暗に関係ないやつはすっこんでろと示せば、誰もが視線を逸らす。

唯一、まだ視線を向けてくる彼女は後で遊んであげよう。



「では……ここからは私が説明を引き継ぎましょうぞ。」



















「まぁ……これぐらいでしょうな。あぁ、怪我の様子はレーヴェディアが見てますし、何より騒ぎの様子もギルドの者が見ております……此処に、ギルドマスターの名もあります。…レン、それくらいにしておきなさい。話せなくなってはいけないだろう?」




「ん……それは困るね。ごめんなさい神父様。」




神父様に止められるまま紅くなった手を振り下ろすのを止める。

床を少々汚してしまったけど、まぁそれくらい許してくれるよね!




「な、なんて事を……!!」



「うん?やり返して何が悪いの?私もされたんだよ?…無抵抗のまま、暴力を振るわれる気分ってどう?…ああ、貴方も、この人と同類だよね。私を呼び出すという王命を無視したんだから。」




最後に蹴りあげ、漸く口を挟んできた女性に言葉を返す。

周りの人は明らかに引いていた。もう、ドン引きだった。貴族となると血なんて見ないだろうから余計にだろう。顔色の悪い令嬢がちらほら居るのは申し訳ない。


敵意剥き出しだった男も女も、懇願する表情になっている。…息子の方は怯えてるが視線を逸らさない。誠意ってものを見せてるのだろう。



「わ、私はそんなつもりは…!」




「“そんなつもりはなかった”、“知らなかった”なんて言葉じゃ済まないよ。…貴方達は貴族なんだから。そんな人達の気分一つで私達の首は飛ぶ……私が此処に来なかったらこの人は不問。私は処刑…貴方の望む結末だろうね?王命を無視してでも私を殺したかったんでしょう?」




「ち、違う…!!殺そうとだなんて…!!」




「…ふぅん?それくらい貴方は王命を軽いものだと思ってたんだね。…元老院を支持する人達にとっては悲しいことだなぁ…この国にとって絶対は国王陛下だし、国をよくする所か、自分勝手な感情で市民を虐げるなんて!!」




いい歳の大人が、知らなかったで済むわけないだろう。何年貴族やってるんだか。

王の前で、彼らは貴方の命令を軽く見てたし無視してましたよ~と遠回しにアピールすれば両者の顔色がどんどん悪くなる。


元老院の方々だろうおじ様達の視線も…私から目の前の男に移った。同属の者達から非難する眼差ししかない事に気付いた男は、涙や血で汚れた顔を向け、国王様に縋る。



「お、お許しを……!!!わ、私はこの国を思って…!!」




「許しを乞う相手を間違ってるんじゃない?…それに、君が今までしてきた悪行の証拠は抑えてあるけど。」




国王様…ではなく、ナオが口を挟む。その手には何かの書類が握られていた。……なんの書類かな。




「で、殿下…!!!」




「まぁ、()()については後で問うからいいや。……それより、乞う相手が違うと僕は言ったのだけど?」




何処か冷たい雰囲気のナオは格好いい……が、今は我慢だ。我慢。此処で余計な事をすると人目が多すぎてまずい…王家と繋がりがあるのは神父様だけで私は関係ないのだと思ってくれるのが一番なんだから。



ちょっとぴりぴりする手を抑えていれば…足許に縋り付く様に男が這い寄る。





「ゆ、ゆるしてくれ!!」




「……くれ?」




「い、いや……許して下さい…!!お願いします…!!」




折角作って貰った服が汚れそうで、軽く裾を払って距離を取る。

話すときは目線を合わせて、という事を思い出したのでしゃがんで男と視線を合わせる。



にこりと微笑めば許されると思ったのか、安堵の表情を浮かべたが……そんなわけない。




「 い や 。 」




「っ……!!」




「なんで私を、私の大事な友人と師匠を傷付けた人を許さなくてはいけないの?それに……“弱肉強食”なんでしょう?貴方が言ったんですもの。言葉に責任を取らなくちゃ。

大丈夫よ。私…命を取ることは好まないから、貴方も、貴方の奥さんも殺さないでって陛下にお願いするから。」




殺されない事にまた安堵の表情を浮かべた二人に高笑いしそうになって、笑い声を噛み殺す。

許す、だなんて言ってないのに単純な人達だ。それから自分に悪役の才能があったことにちょっと驚いた。


神父様は私がしたいことに心当たりがあるのか、呆れたような、でも満足そうな視線を向けてくる。



神父様に予め聞いていて良かった。……貴族として、もっとも恐ろしいものは何かを。


一層笑みを深めては、出来るだけ優しい声を繕う。




「殺すなんて生温い。…貴方達は自分がしてきたことの責任を取らなくちゃ。

ずっとずっと貴方達に付きまとう噂と共に、ね?王に逆らった貴族として責を背負ったまま生きていくの。…居るといいね?貴方達を助けてくれる家が。貴族の位についてお勉強してきたんだけど、伯爵家って大抵がもっとも上の位の人に援助されたりして統治の手伝いとかしてるんでしょう?

…それが断ち切れても生きていけるといいね。この国で。きっと民衆にも広がるだろうし…商人さんは相手にしてくれるかな?売ってくれない、なんて事がおきないといいね!」




あくまで可能性の脱しない話ばかりだが、絶望に落とすには充分。とことん絶望しろ。それが狙いなんだから。


私が出来る報復なんて限られてる……だからこそ、シンプルに絶望を与えることにした。気分が一番スッキリするしね。





「おや……君はそれでいいのかい?私達は事態を重く見てるから死刑でも良かったんだよ?」




「王子殿下……いいえ。これでいいんですよ。命を取ったらそれでお仕舞いじゃないですか。なんで苦を味わわせず殺してしまうんですか?」




「成る程ね。……では息子の方はどうするの?」




「彼は……出来るなら、彼を叱ってくれた叔父様の所へ送ってほしいのです。」




発言に息を呑む音が聞こえた。……きっと、この場に居る彼の叔父様だろう。


意外、という表情をした陛下が先を促すように片眉を上げた。…項垂れていた少年も、此方を見詰めている。




「…親がこうなら、子が同じように育つのは無理ありません。彼が反省の色も無ければ、同じ事を望んだでしょう。

けれど、彼は叔父様の叱責を受けて己がしたことの意味を知りました。…私だって、神父様に育てて頂かなければどうなっていたか分かりません。…尊敬できる人が身近に居るということは、それだけ影響を与えるんです。


だから、彼の罰は親元を離れ、尊敬できる人の近くで貴族というものを学ぶこと。…若い芽はいずれ国の役に立つと聞きました。ですから、私は彼の罰を……いいえ、更正を望みます。」




子は親を見て育つ。…勿論一概に全部が親のようになるとは言えないし、親が駄目だからまともに育ったのが前世の我が家だから、子供の自覚に左右される部分はある。

それでも……暴力を振るわず、たっぷりと甘やかされて育てば、殆どの子供は彼のようになるだろう。

自業自得とも言えるし、親のせいとも言える。……だからこそ、彼にはチャンスが必要だ。



というか、ぶっちゃけ、あんまり子供を苛めたくはない。見た目は同じ子供といえど中身はとうに成人越してる。大人げないにも程があるし罪悪感が凄い。





「成る程……お前をよく見て育ったようだな?ヴォルカーノ。」




「身に余る光栄です、陛下。…毒牙として、貴方と共に城を立て直した時が懐かしいですなぁ。」




「ははっ、確かにな……ああ、古くから居たものは知らないだろうが、ヴォルカーノこそ、俺の師匠であり……この国を立て直した一人である。国に不要なゴミどもを静粛した俺の牙だ。」





どよめきが一斉に広がる。…顔色を悪くする者、尊敬の眼差しを向ける者、好奇心を覗かせる者…反応は様々だが、明らかに私に向いた視線の色は変わった。



きっと神父様の娘、…毒牙の娘という認識をし、やりすぎだという非難の視線も毒牙の娘なら当然、みたいな感じに変わった。


……いや、毒牙の娘なら当然っていうのもおかしいけど…何やったんですかね、神父様は。




「い、いいのか…?!俺にとっては……そんなの無罪と何も…!!」




「くどい。いいの。私が言ったんだから。」




「で、でも!父上や母上には重い罰があるのに……!!」




家族思い……というよりは、罰せられない事に自分が許せないのだろう。息子だけ無罪ということに憎々しげに自分の息子を睨む両親からよくこんなまともな子が産まれたものだ。

良くも悪くも素直なのだろう。



両親の方には報復は済んだので兵士さんに渡したし…ただ座り込む少年は罰してくれとばかりに見上げてくる。



ふむ、欲されたならば仕方無い。




ツカツカと近寄って、手を振り上げる。




パシン!と思いっきり頬に紅葉を咲かせて上げた。顔はそこそこいい方だったのだ。もっとイケメンになったね!





「はい、これで手打ち。…これは個人的な報復なんだよ?正式な罰は国王陛下に伺って。」




そう。忘れてはいけない。これは個人的な報復でしかあらず、国王様は私の報復でお仕舞いだなんて言ってない。


つまり、きっと国王様なら私の言ったことにプラスして罰を加えてくれると信じてるだけ。正式な罰は個人で出来るものじゃないしね。…国王様も許す、なんて言ってないもん。




「ああ、そうだな……貴族としての立場を忘れ、愚かな真似をすればこの様になる。我が息子も言ったように、今回の事は重く罰さなくてはならず…故に個人的な報復を見逃した。

民は貴族の道具でなく、民は国の宝なのだ。…この場に居るもの全員が心に刻むのだ。


証拠はこの場が設けられる前に集まっていた。…だからこそ、この少女の行動を王族の者も、兵も、誰も止めなかった。

それほどまでに、彼奴は罪を犯したのだ。…それを暴き、罰しなければ王として民に示しがつかぬ!」





立ち上がり、咆哮のような言葉がびりびりと圧を掛けてくる。


国王様が怒っているのだと誰もが理解したのだろう…緊張感が部屋中を包み、呼吸一つさえ全部周りに聞こえそうな程の静寂が訪れる。



どんな結果を迎えるのか。身体を強張らせていれば…




「だが……幼い少女には酷だろう。レーヴェディア。彼女を別室へ。…ユア、フィオ。着いていてあげなさい。」




「はっ。」




「「仰せのままに。」」





ガッ、と唐突にやってきた浮遊感に言葉を発する暇もなく、どんどん皆が遠くなる。

……ナオが笑ってた。ただし、目は全然笑ってなかった。



冷や汗が止まらなくなるのを感じながら、離れてく扉がゆっくりと閉まるのを見た。





結局、進言だけで止まり、結果がどうなったのか分からない。



………でも、個人的報復を出来たのでヨシ。







書き納めだもの、長くなっても仕方無い。書き初めも長くなりそう

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