閑話休題 従者一号と王子
猫派な従者、レーべがナオに仕える話。本編より前、まだ二人が出会ってない頃の話。
貴族名を賜って数年。仕える主人に新たな赤子が誕生したと知らせを受けたのは、未だ、ちらちらと白雪が空を舞い、草花は芽吹きの支度をしている季節だった。
産まれた赤子は、それはそれは美しい…それこそ、降り注ぐ白雪の如く澄んだ色合いを持っていた。
王妃の面影をまんま写したかのような出で立ちかと思えば、ぱち、と開いた金色の瞳は正しく主人の遺伝子だろう。
招かれた者はほんの僅かな王の自室で、それが殿下との初めての出会いだった。
「殿下、……殿下!先日も申し上げた通り、一人で外に出られてはなりません!」
ふわ、と風を切って進む尻尾が今日もまたなんと柔らかそうで………じゃない。
人の話も聞かず、辺りを見回しながら進む殿下の後ろを早足で追い掛ける。その度に尻尾が目の前をちらつくが……これしき、我慢だ、がまん。
ベスティード王国の第二王子として産まれ、俺が仕えることとなったナオ・ベスティード様は些か、不思議な人であった。
暇さえあればずっと何かを探しているように辺りを見回し、城下へ赴くことも数回ってものではない。いかに安心な国と云えど、王族が、しかもよりによって生まれてほんの数年しか経って居ないような餓鬼が一人ブラつくのは危険だ。
殿下は聡明であられるから理解はしているようで…本当に危険な路地裏や人が少ない場所には決して近寄らない。……なのに、だ。
何度も何度も伝えても、この殿下は外へ抜け出すのを止めない。なんなら兵士たちの見張りを抜けて気付いた時にはもう居ない、なんて事がざるにある。
陛下や女王陛下に伝えても、「元気があってよろしい。」と微笑まれるくらいだし……ちょっと奔放過ぎやしないか?ああでも、獣人だしそれくらいなのかもしれないし………少なくとも、護衛として出来るのは仕事をこなすだけ。ちょろちょろと逃げ回る猫を捕獲することだけだ。
息を深く吸い込み、今にも視界から消えようとする殿下へ向けて言葉を紡ぐ。
「殿下!言っときますが、怒られるのは俺なんですからね!」
気の優しい殿下に告げれば……予想通り、ぴたりと静止した。
観念したように肩を落とす殿下へ近付き、膝をつく。何かを探しているのならば、人手があった方がいいし………見付かるまでこうも逃げ出されては俺の首がいつか胴体とお別れしてしまう。
「レーべ……」
「全く……それで、殿下はどうしてこうも城下へ?せめて理由をお聞かせください。探し物であれば人手があるに越したことはありませんから。」
「……だめだ。僕じゃなきゃわからない。…それに………」
悲しげに首を降った殿下は城下のある方向へ顔を向けた。
大きな門がここからでも見える。…白い門は北門。それを凝視している。
「殿下しかわからない、というのは?見た目の話でしょうか?」
「それもそうだけど……どこに居るのか、わからない。」
「………居る?………探し物ではなく、探し人で?」
てっきり何かを落としてそれを探してるのだと思ったが……探し人ときた。瞳を瞬かせてしまったが、人ならばそれこそ人相で探させられそうだが…まだ幼いから、忘れてしまったのかもしれない。だが匂いや声で判別はできる……ということだろう、多分。
一人で考え込んでいれば、また殿下が駆け出そうとしていく見えたので止めた。本当に首が跳ねられないからとりあえず王宮へ戻ってほしい。
「殿下、探し人なら他の者にさせますから…」
「だめ!!!!」
だから帰りましょう、そう言い終わる前に拒絶を露にされた。……殿下が声を荒げるなんて初めてで、思わず動きが止まる。
泣きそうな、悔しそうな顔をして……殿下は再び北門を…北門の向こうへ、視線を向けた。
「僕じゃなきゃ、だめなんだ。宛がなくても、ただこの胸騒ぎを見付けるために……だから、北門の向こうへ行く。…向こうに居る気がするんだ。」
強く、強く。噛み締めるように紡ぐ殿下に圧され……ため息を一つ。これは向こうを確認しないことには帰る、なんて思考は生まれないだろう。……北門の先にはあまり顔を出したくないのだが……仕方ない。
「………分かりました、護衛として殿下を北門の先までご案内します。」
俺の言葉を聞いて、ふわりと嬉しそうに揺れた尻尾がなんとも可愛らしかった。
本編を書きながらちょこちょこ隙間に入れていきたい、ちなみにレーべは人間なので子供といえど獣人に本気で逃げられると捕まえるのが難しいのを知っている。本気になられないように言いくるめるのも時には大事。