第三十話 少女と師匠
ゲームだから出来ることってリアルで出来ないことばっか、だから憧れる
とりあえず訓練再開。お腹も満たしたし魔力も……万全とは言えないけど、充分整ってる。
傷の薬も飲んだし、フロウも魔術が当たらない場所の方で大人しくして貰ってる。
「とりあえず、午前の成果見てやるから適当に撃ってみろ。」
「ん。………“風よ。集いて刃となれ”。」
手の前で空気が収縮、言葉通り刃の様に鋭さを帯びて的に当たる。
しかしそれで木が倒れる事はなく……表面とほんの少し内部を削ったぐらいだ。連発したら折れそうではあるけども。
「ほー……命中するにはするのか。筋がいいな。」
「うん……でも、威力を上げようとすると今度はコントロールがあやふやになったり、制御できなくてぶつかる前に溶けちゃう。」
「それはお前が魔術に慣れてないからだろうな。…コントロールがぶれるのは魔力を回そうと意識のし過ぎ。制御できなくて溶けるのはその逆だ。……一つ一つを気に掛けすぎなんだお前は。」
髪をぐしゃぐしゃになるほど撫で回され、師匠らしく一つ一つを改めて教えてもらった。
見た感じだと、やはり威力が足りなさすぎるらしい。……まぁ、やっぱりどの世界でも魔術師って求められるのって火力だよね……前衛に壁になってもらいつつ、魔術師の火力でごり押し、なんて脳筋戦法よく使ってた覚えあるもん。
でもこの世界……実際生きてる自分達にとって、魔術師の誤射が一番恐ろしい。骨まで焼き尽くすような炎を、魂まで凍てつくような氷を、自分のパーティーの誰かに当てたなんてなったら……後悔なんて話じゃない。人殺しと同義なんだから。
「コントロールだけは、丁寧にしなきゃ。……誰かが傷付くのは嫌だもん。…魔術師の射線に入らないのが鉄則だとしても…吹き飛ばされたとか、やむを得ずの時だってある。…だから、咄嗟でも方向を変えられるようになりたいなぁ。」
「いい心掛けだ。……そうだな、咄嗟に変えるとなるともっと技術がいるから今のお前じゃ無理だ。……ま、卒業試験にでもしてやるから、今は早く初歩を出来るようになるんだな。」
「分かった……頑張る、お師様。」
「………は?」
ふんすふんすと意気込んで、もう一度的に向き直す。あまり調子に乗って威力を上げようとすると絶対ぶれるから、まずそのギリギリのラインを見極めて……
「ちょ、ちょっと待て。ストップ。」
「何?」
「いやお前、……何、は此方の台詞だチビ。…なんだお前、唐突にお師様なんて言い出して」
中途半端に集めた魔力を散らして、そんなことかと見上げる。……というか、本人も散々師匠かアヴィリオ様と呼べなんて言ってたのになんで照れてるんだろうか。
実は最初から師匠と呼んでも良かったけど……師匠らしい事してなかったから今まで呼ばなかっただけ。
というか、前世で師匠なんて呼んだこと無かったから、一回は呼んでみたかったって下心もあった。
でも師匠って呼ぶのも何だか今更な気がしてきて……それでたどり着いたのが“お師様”である。
「師匠って呼べって言い出したのはアヴィリオ。」
「散々名前で呼んどいて今更かよ……」
複雑そうな顔をしながらも、色付いた頬が隠せてない。
じーっと見詰めていたからか、掌で顔をがっしり掴まれた。手が大きい。あと照れてるのちらっと見えてる。
「リムネルから聞いた。私初めて弟子になれたんだって。…だから修行してる時はちゃんとお師様って慕う。」
「あんっのカマ野郎…!余計な事溢しやがって…!!………ああもう!そんなだらしない顔してんじゃねぇ!!とっとと再開しろ!」
尖った耳の先まで赤くなるほど恥ずかしかったのか。……なんだかアヴィリオを揶揄うのは面白いな。今度こっそりリムネルに教えてあげよう。
腹が膨れたから寝る、なんて分かりやすい誤魔化しを入れて離れていったアヴィリオを微笑ましく見てから、的に向き直る。
ふて寝した様に見えて、まだ耳が赤いから起きてるんだろうなぁ。
さっきよりも気が抜けて、最初の時のような変な緊張感が落ちていく。
心構えって大事だなぁ。…暴発してもアヴィリオが何とかしてくれる、そんな余裕があるからか、全身を巡る魔力はぎこちなかった歯車に、油を差したかの如くスムーズに巡りだし……撃った魔術は格段に威力を増していた。……それでもコントロールが直るわけではない。
目標の的を掠めるだけ掠め……別の木にあたって、霧散した。
当たった木はすぱっと綺麗に伐られたように倒れ、風の魔術も当たった直後に消えていった。
中々、やっぱりコントロールって難しいなぁ。
一度でいいから空をとんでみたい。レッツバンジー




