第二十八話 少女のお昼
またお肉食べる。ちゃんと野菜も食べてるから大丈夫
「っ……!…!!」
「美味しい?…ふふ、良かった。」
ここ間食べた串焼きより、とろって口の中で蕩けるようなお肉が美味しい。
こんなお肉前世でも食べたことないし、異世界最高……
「凄いわねぇ……人目も気にせず餌付けする殿下も殿下だけど、本当に仲良しなのね。レン。」
「んむ?」
絶賛餌付けされ中の所、目の前で食べてたリムネルが頬に手を当てて此方を見ていた。
リムネルの隣のアヴィリオは何故か此方を凝視してる。
因みに神父様と国王様達は大人の会話があるそうなので離れた所に居る。…リムネルとアヴィリオはナオ達とほぼ初対面なので此方側に。
「食べないの?美味しいよ?」
「食べるが……こいつの隣は落ち着かねぇ。チビ、お前リムネルと代われ。」
口の中の物を飲み込んでからアヴィリオに声を掛ければ……リムネルを顎で指して、来るように言われた。
勿論ナオの隣から離れるのは嫌なのでしょげ、って顔をして拒否を露にしといた。
「なんだその顔は。」
「嫌。ナオの隣がいいの。」
「アタシが隣で嬉しいの間違いでしょうが。…それに、大人の嫉妬は見苦しいわよ?」
「なっ…!嫉妬じゃねぇ!お前の隣が嫌なだけだゴリラ!!!」
「あ”???んだとおい。」
勢いよく立ち上がったアヴィリオの顔に、リムネルの手がめり込む。アイアンクローってやつだ。
突然の野太い声にナオもきょとりと瞳を瞬かせ……何事もなかったかのように餌付けが再開された。
「レンの周りはやっぱり賑やかな人が集まるね。」
「ん……んむ、……む!」
そんなことないと言いたいが、口に物が入ってる時に喋ってはいけませんと言われてるのでお口いっぱいに詰められたお肉をもぎゅもぎゅと頬張る。……美味しい。
ただちょっと詰めすぎってぐらい入れられたから、噛むのが大変。ゆっくり飲み込みつつ、とりあえずアヴィリオに視線を戻す。
「いだだだだだだ!!チビスケ!!見てないで助けろ!!!」
「レンは今喋れないしそちらに行けないよ、口に物が入ってるからね。」
「てめぇ…!謀ったなクソ王子…!!」
失言したのはアヴィリオでは?と思いつつも、とりあえずなんか仲良さそうで良かった。
リムネルは怒り心頭とばかりにどんどんプロレス技を掛けていく……その間接ってそっちに曲がらない筈なんだけどな……
「ん、ん。……顎疲れた。」
「ごめんね?美味しそうに頬張るの何だか可愛くて……ソースついてる。」
くしくしとハンカチで口許を優しく拭われ、綺麗になれば頭を撫でられた。頭を擦り付けてもっと、と強請っていると、足許を何かに突かれた。
「きゅ。」
「フロウ。…おかわり?」
「きゅぅ!」
「おいで。食べさせてあげる。」
自分も食べるのに一段落着いたので、ぽんぽんと膝を示せば軽やかに登ってきた。
フロウには味がついてない焼いただけのお肉を。生肉でもいいんだけど、折角だから火を通したのをあげたかった。
ナオが器用にナイフで一口に切ってくれて…それを掌に乗せて、フロウに差し出す。
反対の手で撫でながら食べさせて居れば、隣からの視線。
「ナオも食べさせたい?」
「いや。僕はいいよ。…君を眺めてる方が好き。」
「むぅ……」
見詰められると照れるから嫌だと言っているんだけど……いつも聞いてくれない。…にこにこと幸せそうだから、許しちゃう自分も大概なのかもしれないけど。
「はぁ、いい運動したわ。動くとお腹空いちゃうわ。」
「まだまだメイド達が持って来てくれるから食べて。…料理長が張り切っちゃってさ。あんまりエルフに腕を振る舞うことがないそうだから、良かったら後で感想言ってきてくれると嬉しい。」
「勿論。……いいわねぇ、貴方達。見ていて此方がにやけてしまうぐらい幸せそう。…まぁ、何処かの馬鹿は初弟子が取られて拗ねてるけど。」
完全に伸びているアヴィリオを横目で見つつ、初弟子ということに首を傾げる。
今まで誰も弟子にしなかったのかもしれない。…なのに弟子にしてくれたのは何だか嬉しい気もする。……弟子を取るのが普通なのかどうか知らないけど。
串焼きを頬張るリムネルも弟子を取ってるのかな?
「アヴィリオもリムネルも、今まで弟子を取らなかったの?」
「ん……そうねぇ、アタシの場合は取ろうとも思わなかったけど……アヴィリオは違うわ。魔術師として若い芽を育てるのを楽しんでる。…けど、アヴィリオってこんな性格でしょ?だから勘違いされたり、衝突したり…弟子入りしたいって言い出した人に必ず試験を課すんだけど、それが難しすぎるって話題でね。
大丈夫?貴方は苛められてない?」
「苛められてない。……でも、ちょっと意外だった。
……アヴィリオは照れると口悪くなるし、すぐ暴力に走るけど、何だかんだ様子見てくれたり、アドバイスくれたり、本当はやさし、痛い!!」
リムネルに力説してたらこつんとそれほど痛くなく、殴られた。
でもやっぱり反射的に痛いって出ちゃうよね。
ナオがくすくすと笑いながら後ろを指差す。……さっきまで伸びてた筈のアヴィリオが顔を赤らめて立っていた。握った拳はさっき頭に落とされたやつだろう。
「チビスケ!ベラベラ余計なこと喋るな!」
「だって本当の事だし、チビスケじゃなくてレン。……お昼だって、先に起きたのにわざわざ待っててくれ、いたっ!」
今度はさっきより力が入った。逃げるようにナオの後ろに隠れ、ふんす、と小さく威嚇する。本当の事を言ってるだけなのに殴るのは酷い。
流石に第二王子に手を上げられる筈もなく、けらけらとお腹を抑えて笑うリムネルにターゲットを移したらしい。……ちゃんと机から離れる辺り、やっぱり優しいし、いい人だ。
「ふふ、彼が気に入ったの?」
「んー……すぐ人を殴るけど……アヴィリオ優しいから好きだよ。リムネルも。」
「そっか。嬉しいけど……ちょっと妬いちゃうなぁ。」
「んふふ、一番好きなのはナオだから大丈夫。」
むにむにと頬を擦り重ね、乱闘騒ぎになった二人を眺める。……ドスの効いた声が聞こえる辺り、きっとアヴィリオが余計なことを言ったんだろう。
うりうりと頬と耳を重ねれば、ふわふわの尻尾が顔を擽って、思わず離れたら抱き締められて膝に確保されてしまった。大人しく腰を落ち着け、格闘戦に発展……というか、一方的にリムネルにぼこぼこにされてるアヴィリオを見る。…避けるのは出来ても、やっぱり反撃がなぁ……
流石に騒ぎすぎたのか、神父様が止めに入るまで、ただ二人でくっついて眺めた。
……フロウは肉を食べ終えたら速攻寝に入ったし、暴れてる音にすら起きない。……すごいなぁ……
オネエは大体近接が強い。




