第二十話 少女の従魔
可愛いは正義。ただし危険なときもあり。
名目はナオの訓練ってことで来てるそうなので、ナオは王妃様に連れられて森の方へ行った。
何でも癒術の他に、魔術もそれなりに練習しているらしい。
「……いいなぁ、楽しそう。」
「訓練を楽しそうとはまた……辛いことも多いぞ?」
「うん。でもどうせ冒険者になったらもっと辛いことはあるだろうし……何より出来ることが増えるのって楽しいもん。」
初めて魔術を使ったあとの高揚感は心地よかったし……なにより、折角異世界に来たならかっこよく決めたいところ。
外でフロウにボールを軽く投げながら神父様と話せば……何やら思案げに顎に指先を当てている。
因みに、ある程度回復はしたので着替えた。流石に鮫のまま外に出て……誰かに見付かったら恥ずかしい。
「ふむ……ならお前さんもするか?」
「………いいの?」
「あぁ。だが私は魔術は得意ではないからな……少し待ってろ、ギルドに人材を派遣させる。」
まさかお許しが出るとは思わなくて、びっくりした。
訓練所に通うまで待てとか言われるかと思った。……やっぱり神父様は優しい。
「にまにまして、可愛いなぁ……ご機嫌か?お嬢さん。」
「……レーヴェディア。」
「そんな急に真顔に戻らなくても……」
いつの間に、と思ったけど嬉しくて気を抜いてたから分からなかった。僅かに聞こえてたような気もしたけど……にやついた顔を見られたのは屈辱だ。
フロウがボールを咥えたまま、初めて見たレーヴェティアに興味を示している。……王妃様に特攻するんじゃないかと思ったが、此方を心配してくれてたのもあって落ち着いてくれてた。いい子だ。
そんなフロウを見て、レーヴェディアがぎょっと目を見開いた。…何でだろう。可愛いからかな?
「アースフォクス……!お嬢、離れな!」
腰にあった剣を抜いたレーヴェディアに此方がぎょっとした。
「ま、待って!私の従魔!」
向けられた敵意にフロウも威嚇を見せ……それを隠すように抱き締めた。
どっちが怪我をするのも見たくないし、この子は家族だ。
「なっ……お嬢。嘘はなしだ。……従魔術のレベルは?」
「……1。」
鋭く、普段の顔付きと全く違うレーヴェティア。素直に怖いと感じた。でも守らなきゃと強く、強く、フロウを抱き締める。
レベルを答えた途端、余計に目付きが鋭くなった。逃げ出したいくらい怖い。
「アースフォクスを、子供とて従魔にするには最低でも5以上は要る。何てったって育てば上位の魔物だからな。……知らなかったか?だからお嬢には従魔に出来る筈がないんだ。危ないから此方に来るんだ。」
「嫌。レーヴェディアが何て言おうと、この子は私の従魔だし家族。」
「最後の通告だ、無理矢理引き剥がされたくなかったら大人しく引け、お嬢。」
「嫌ったら嫌!」
剣の切っ先が向いた。逃げたって追い付かれるし、フロウを守らなきゃ。
閉じ込めるように全身で包み込んで、無理矢理引き剥がされないように、強く、強く、自分の腕を抱き締める。
フロウが苦しいかもしれない、それでも死ぬよりマシ。
ゆっくりと近付いてくる重い足音はレーヴェディアのモノで……全身がカタカタと震える。
フロウを差し出せば済むのかもしれない、それでも家族を売ることも見捨てることも……出来るわけ無かった。
肩を捕まれた感覚に、冷たい水で全身を包まれたように急速に温度を無くしていく。
強く力が入ったのを感じとる。…引き剥がされるっ……
「____うちの子らに何をしている馬鹿者っ!!!!」
「ぶっ!!!!!」
と、突然手が離れた。代わりに暖かいものに抱き上げられた……神父様だ。
殴ったのだろうか、書簡を持ってるのに思いっきり握り締めてるから書簡がぐちゃぐちゃだ。
神父様が居るなら、もう大丈夫。そう思った途端、ぽろぽろと勝手に涙が出てきて……フロウの毛並みを濡らす。
大人しくしててくれたフロウ。少し腕を緩めると顔を覗かせ…涙を拭うように舐め取ってくれる。それが愛らしくて愛しくて……涙が止まらなくなる。
「怖かったな、痛いところはないか?」
「だ、だいじょ…ぶ、…」
優しい声で、そう聞く神父様。ぼやける視界の中、神父様に身を寄せれば……レーヴェディアを見詰める神父様の顔が恐ろしいものに変わった。
「………それで?うちの子らに剣を向けるとは何事だ?」
「いってぇなクソジジイ……!……お嬢さんの中に居るのはアースフォクスだ。民の命に関わる危険因子を排除するのも俺らの仕事だ。」
「このアースフォクスはレンの従魔だ。そう言われんかったか?」
「子供だろうとアースフォクスを従えるにはお嬢さんの従魔術のレベルが足りてなさすぎる!」
「……レンよ、まだ回復しきってないところすまんが…フロウに少し魔力を分けてやれ。フロウに向けて放出すればいい。」
こくこくと頷いて、まだ少ない魔力を放出する。……昨日と同じところにまた模様が浮かんだ。フロウは嬉しそうに瞳を細めていて……これでいいのかと神父様を見上げる。
「見えたか。」
「なっ……まじだったのかよ…………あー……お嬢さん?そのちっこいのに剣を向けて悪かった。」
何で急に謝ったのか分からないが、とりあえずフロウは安全だと認識してくれたらしい。
……が、
「……レーヴェディアなんか、嫌い!」
子供の身体と心は素直かつ連動してる。怖い思いをすればそれだけで一気に好感度も何もかもが下がる。
きっ、と睨んで吼える。うちの子の方が大事だ。神父様の肩に額を押し付けてとりあえず涙を落ち着けようと目を閉ざした。
レーベの好感度激落ち。




