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まぁ、転生したからといって美少女になりたいとは限らない  作者: ゴリラの華
一章 美少女は望まない
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閑話休題 ヴォルカーノの日記1

初の神父様視点。




普段と変わらぬ平穏、普段と変わらぬ静けさ。


そこに一つ、音が新たに加わったのは唐突なことだった。




未だ若い友人夫婦が亡くなった。


討伐に向かったのは、龍種の中でも特に手強い天空龍。

Aランク以上の冒険者は総じて参加、装備も揃え…万全を期して向かったはずだった。



それでも、残ったのは多く見積もっても四分の一に満たない程度。……討伐は成功したが、惨敗と言っていい結果だった。


そして……討伐に行く前に、もしもがあればと預けられた赤子………この子こそ、今生活を共にするレンだった。





レンは不思議な子だった。



話せる齢になればするすると言葉を覚え、大人顔負けの落ち着きを見せる。

かと思えば、幼子らしい言葉も使うし、彼方此方に興味を示す。



黒猫族として産まれ、尚且つ加護を受けていると知ったとき…あまりに大人しい様子に納得がいった。


加護持ちの者は、殆どが幼少より賢く、神童とまで呼ばれたものが居るくらいだ。

知識の吸収量が多くとも、順を追って処理し…受け入れるのを幼い頃からできている。

………あまり子供を好かない私にとっては面倒の掛からないいい子であった。



私はこの子の親ではないからと……そんな適当な理由をつけて、あまり干渉をしないようにしたその夜から、レンはまるで此方を真似るように必要な時以外に話し掛けてくることはなくなった。



食事を済ませれば入浴、祈りも手早く済ませ……足早に自室に籠ってしまう。

私も仕事があるので一人の時間が作れるのは嬉しいが………これでは亡くなった二人に顔向け出来ず、反省を込めてホットミルクを作ってレンの部屋をノックする。




「……神父様、ご用ですか。」



「ああ、なに……最近あまり話せていないだろう?ホットミルクでも飲みながら少し話さないか?」




じっ、と蜂蜜色の瞳が二つ分のマグカップを見詰める。どちらかといえば、話すときは話すし、静かなときは静かな少女だ。言うこともよく聞くし、中に入れてくれるだろうと思っていれば……



「……熱いの、苦手だし……もう眠いから、寝ます。」



「あ………あぁ、そうか、すまなかった。…ではまた……」




断られた。



目の前で閉まった扉に、二人分のホットミルクをどうしようかと溜め息を溢した。



居間に戻り、時計を見ても……まだ子供が眠るにしても早い時間。自業自得とはいえ完璧に拒絶されたとわかれば……最初に距離をおいた自分を呪った。



子供は変化に敏感だ。


獣人の子ならば尚更分かるのかもしれない。



翌日の朝も、ただ黙々と食事をし…此方から話題を振っても、前なら幾つか返ってきた言葉も、今は俄然言葉は少ない。

完全に己のせいで…祈祷に来た町の人を帳簿につけて溜め息を重ねていく。




そういえば今は何をしてるのだろうか。



一端区切りをつけて部屋をノックしても…応答がない。

なら書庫だろうか?たまに私の書斎や物置となりつつある書庫に入り浸っては熱心に本を読んでいる時がある。

字の練習もしてるみたいで、鉛筆に紙で練習した跡が稀にごみ箱から見付かる。


近くの書庫を覗き、書斎も確かめる。



……居ない。




何処に行ったのかと窓の外を覗き込めば……わりと近くにいた。



裏庭には大きな木がある。

その根元で、どうやら眠っているらしい……本を読んでいたら眠気に負けた、という所だろう。




部屋から毛布を持って裏庭へ降りれば……ある程度近付いた所で、勢いよくレンが飛び起きた。

滅多に感情を出さないその瞳に、警戒の色が見えた。




「あ………神父様。ご用ですか?」



「いや、眠っていた様なのでな………なぁレン、少し話をしよう。」




「………はい。」



渋々、といった具合に頷いたレンに苦笑が浮かぶ。子供とはこんなに気難しいものだったか……いや、私が距離を取ろうとしたせいだろう。



正面に腰掛け、この子と向き合う。




「……お前さんは私が嫌いか?」



「いえ、育てて頂いた恩は感じれど、嫌うだなんてありません。」



淡々と紡がれた言葉には感情の欠片も見出だせず……機械の様に、正しい答えを述べているだけ。

前の方がもっと、この子らしかった。……罪悪感が胸をちくちく刺してくる。


さて、どう伝えるべきか……



「……私は、お前さんの両親からお前さんを託された。」



「はい、神父様から聞かされました。」



「それなのに私は……お前さんにとっては親でも何でもない存在だと決め付け、お前さんからここ数日距離を取ろうとした。」



「………」



やはり感付いて居たのか、口を閉ざしてしまった。

言葉にすれば尚更、なぜこんな幼い子から距離を取ろうとしたのかと胸が痛い。……静かで、大人びて居ようと子供は子供なのに。



「すまなかった。……ちゃんとお前と向き合おうとしなくて…許してくれるなら、少しずつ、歩み寄りたい。」



頭を下げれば、レンが慌てる気配を感じ取った。

意味のない単語だけが口から溢れ、暫く考え込むように唸ると、頭を上げるよう言われた。


言われるまま上げれば、…僅かに頬を染めたレンが。




「……その、………私も、意地を張ってただけで…謝られる様なこと、ないです。」



「それでも私なりのけじめだ。……レンは中々意地っ張りだったんだな。」




初めて知ったと笑えば、栗鼠の如く頬をぱんぱんに膨れさせ……ああ、これがこの子なんだと頭を撫でた。



子供は苦手だ。だがこの子だけは別だ。














「あれ、まだ日記付けてるの?」



「続けていくことが大事だからな。」




ひょこ、と手元を覗き込んできたレンを撫で、擽ったそうに笑う姿に此方も笑みが浮かぶ。


あの日のことを、この子は覚えているだろうか。……いや、覚えていそうだな。



「いつぞやに、お前さんに頭を下げた時があったな。……覚えているか?」




「ん……神父様が距離取ろうとした時でしょ?覚えてるよ?悲しかったから。」




「悲しかった?」




「うん。ついに孤児院か、悪くて人に売られるのかなぁ、なんて思ってて……迷惑かけないように意地張って離れてた。」




そんな風に思われていたとは……額を抑えれば、下からクスクスと鈴を転がすような笑い声が聞こえてきた。



「今は違うよ。神父様は家族だもん。」



珍しくご機嫌なのか、ぎゅうと抱き付いてきた小さな身体を抱き上げ、背中を撫でてやる。

家族。とうに一人となった心に……いつの間にかするりと入ってきて、馴染み………この子を中心として生活するようになった。…よく教会に来る人らからは、以前よりもイキイキしてるとよく言われるようになったのも、この頃からだろう。


正しく猫だと内心で笑ったのは何度目だろうか。



何時か、この子から父と呼ばれたい。……亡き友人夫婦に申し訳なさも感じながら、それでも家族と共に過ごす日溜まりの暖かさを甘受していた。






そして、この国の第二王子がやってくるなど……この子が自分以上に誰かに懐くなど、この時は露にも思わなかった。






初めての子供にほど依存しがち。

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