第十九話 王族再襲来
もう少しで二十話。ぽんぽん読める小説を目指したいところ。
「何この毛玉。」
「毛玉じゃないの、フロウって言うの。私の従魔。」
一緒に御布団に入れて眠っていたら、優しく揺すり起こされ……猫の首を引っ掴むが如く、ぷらんとフロウが持たれていた。
本人はまだ微睡みの中なので鈍いのかそこを持たれると安心するのか……
「従魔ならいいや……レンの事だから、まだ契約しないで寝てるかと思ったのに。」
「一緒に居る条件に、従魔使えるようにならなきゃ駄目って神父様に言われた。」
「成る程。流石神父様……レンは可愛いものに警戒って言葉を無くすからね。普段は警戒しまくるのに。」
「視線とかで分かるもん。可愛いって思ったものは大体安全。」
「そう言って兎に指先咬まれたの誰だっけ?」
「ぐぅ……」
ぐぅの音が出ない、否、出たけど言い返せない。安全ならいいと返されたフロウを抱き締めてぷくぷくと膨れて見せた。
まだまだ夢見心地のフロウも少し目が覚めたようで……大きな赤い瞳をぱちぱちと瞬かせればナオに首を傾げた。
威嚇するかと思ったが、何にでも興味があるみたいでふすふすと鼻を鳴らしては此方を見上げてくる。
「大丈夫だよ。彼はナオって言うの。優しい人だよ。」
「よろしくね、僕の代わりにレンを守ってあげて。」
繋いだ小さな手先とナオの手がゆるゆると左右に揺れれば、ふわふわの尻尾も右へ左へ。満足そうに鳴いたフロウ。喜んでるなら私も嬉しい。
……そういえばやけに静かだけど、ナオ以外は居ないのだろうか。
「ナオが起こしに来てくれたの?」
「うん、もうお昼だから神父様が起こして来いって。……レーベも着いてこようとしたんだけど、うちの荷物の搬入とか、カモフラージュに近くの別荘にメイド達を行かせてるから…その連絡とかで置いてきた。下には居るよ。」
「……お昼?」
カーテンからの光がやたら今日は眩しいと思ったら……窓を開けてみれば、丁度真上に差し掛かるくらいだった。
完全なお昼である。
寝間着のまま降りるのもあれなので、着替えようとしたら……ナオにストップを掛けられた。
「いいよ。そのままで。魔力尽きるまで放出したんだから全身辛いでしょ。」
「……言われてみれば。」
「初めて魔術を使ったなら尚更…少しずつ身体を慣らしていこうね。……あと、その着ぐるみ可愛いし。」
すい、とお姫様だっこしてくれたナオに甘んじて、ふにふにと頬を重ねる。
早速寝間着にしてみたんだけど……前世も着ぐるみやらぬいぐるみが大好きで、ナオにだけは暴露していた。……だって、いい年の大人がぬいぐるみか何かを抱き締めてないと寝れないって相当まずい……笑われるかと思ったけど、お揃いの着ぐるみを着て過ごした時もあったので、やっぱりナオは優しい。
ナオの足場をちょろちょろと走り回るフロウはすっかり元気で、その元気を分けてほしいくらいだ。
……にしても、ナオも鍛えてるんだろうなぁ…腕の筋肉硬い。何だかズルい。いつか私が抱き上げてやるんだから。
「悪巧みしてるでしょ……まぁいいや。母上、神父様、起こしてきましたよ。」
「あら、聞いていた通り可愛い。そういうのが好きなの?」
「はい、何だかこう……包まれてる感じも、好きなんです。可愛いし。」
毛布とかに隠れるように包まれているのも好きだ。何だかほっとする……狭い空間とかもなんか落ち着かない?トイレとか。
なので、広すぎるところは苦手だ……物とか置いてあればマシなんだけど。
「……動きにくいか?」
「ん……言われてから自覚したけど、立てなくはないんだけど…なんかプルプルする。不思議。」
「当たり前だ。寧ろ立てるだけいい方だ。……今後は己の魔力の残りに気を付けるんだぞ。身体の回復も遅くなる。」
「はぁい……」
椅子に座らせて貰いながら応えれば、すぐにフロウが膝の上に乗ってきた。……結構重いね、五キロくらい?
うちの教会は三階建てだ。
三階は寝室に余りの部屋が二つ。それから倉庫。
二階に神父様の寝室と居間の様な部屋とお風呂。
一階は勿論お祈りをする、皆が想像するような教会になっている。……各階にお手洗いもあるし、これで小さい方なのである。他は大聖堂レベルなのかな。
今は二階の居間に皆で揃ってるけど……王妃様とナオしか、来客が居ない。他のメイドさん達は居ないのかな。
……因みに、女王陛下と国王陛下から、堅苦しいと怒られたので、今後からは王妃様と王様と呼ぶことにした、ここは譲らない。
「他の者なら居らんぞ、あまり多くの者が出入りしては目立つしな…馬鹿弟子ならばそのうち来るだろうが。」
「え……護衛とか、大丈夫なんですか…?」
「えぇ。貴女達を警戒する必要もないし……賊に襲われてもヴォルカーノもレーヴェティアも居るもの。人目を避けるから、帰るときは裏口から出るけど……別荘は近いから大丈夫よ。
ただ心配事があるとしたら……レーヴェティアとナオは置いていくから、あまりはしゃぎすぎないかが心配だわ。」
「君の隣の部屋に寝泊まりするんだ。……母上、僕だってレンの年齢ぐらい考えてますし、はしゃぎませんよ。レーべじゃあるまいし。」
とんとんと進んでいく会話に……思考が止まる。
ナオが泊まる。一緒の部屋ではないけど眠るまで傍に居られる……それもきっと、暫くは。
それが分かった途端……勝手ににまにまと頬が緩んで仕方なくなる。ぽぉ、と喜色で染まるのを自覚していても……止まらない。
一緒に居られる。それが胸をきゅ、きゅ、と甘く締め付けてきて……愛しさが溢れて止まらなくなる。そんなことを考えてるのが恥ずかしくてまた頬が色付きを濃くしてしまう。
なんという悪循環だとフロウの毛並みに顔を突っ込んで隠すも……ふわふわの尻尾が自分の尻尾に絡んできて、そーっと目だけ覗かせれば……嬉しそうな顔のナオが居て、フロウの毛の中で唸った。
擽ったいのか掛かった息が熱かったのか、じたばたするフロウに申し訳なさを感じつつも……色が落ちるまで、顔を出せなかった。
ぬいぐるみとかを抱いてないと眠れない。(実話)




