第十四話 神父様と串焼き
寒くて布団から出られない日々が続く今日この頃。おでんがたべたい。
町行く人は、皆活気に満ちていて、前世の都会とは比べ物にならなかった。忙しさとストレスで死んだような顔の人なんて誰一人居なくて、ただキラキラして見える。
子供の視点ゆえか、全部が大きく見えて、あれもこれもと興味が尽きない。……ただし、
「……音が…」
繋いでいた手を離して、ぴとりと両手で耳を押さえつける。足音も声も、馬車の中に比べてものすごく聞こえる。…色んな話し声が聞こえて、情報の多さに頭が痛くなりそうだ。
「普段静かなところに居るからな……過剰反応になってるな。……どれ、少し聞こえにくくしておこう。」
ぽう、と淡い光が神父様の手から自分の体に溶け込む。癒術の時とはまた違った心地。
すっかり体に馴染むと……音が、静かになった。普通の人と同レベルか、少し優れてる程度ぐらいにまで収まって…ぱちぱちと瞳を瞬かせた。
きっと神父様の魔術だ。こんな使い方もあるのかと耳を離して手を繋ぎ直す。中々に奥が深そうだ。
「幼いうちは獣人は感覚が過敏になりがちだ。お前は特にな。……だがいずれ慣れたり、感覚を鋭くしたり戻したりと出来るようになる。」
「そうなんだ……神父様は博識、スゴいなぁ。」
浮き足立つ町並みのせいか、なんだか此方も楽しい気分になる。勝手に頬が緩んで、ぽかぽかの日差しが気持ちよくて……ぎゅう、と神父様に抱き付いた。
そのままスイ、と抱き上げられ、一気に視点が高くなる。遠くまで見えて、気付かなかった美味しそうな匂いが鼻腔を擽る。
「ははっ……楽しいか、レン。」
「うん。あっちも、こっちも、楽しそう。美味しい匂いもするね。」
こくこくと何度も頷いて、内緒話のように顔を寄せて話していると……お腹がくぅうう、と鳴いた。仕方ない、食べてないんだもん。
「昼時だしな。食欲があるのはいいことだ。健やかに成長してる証だ。」
そのまま歩くと、屋台のようなお店で足を止めた神父様。振動も僅かしかなくて、気を使ってくれてるのだと嬉しかった。
ジュージューと音を立てて串焼きにされてるよくわからないお肉。タレがたっぷりと滴ってて覗き込むと煙に匂いが混じってお腹がまた鳴った気がした。
「二つ頼む。」
「おうよ!二本で銅貨二枚だ!」
この世界のお金は、十円に匹敵する小銅貨。百円に匹敵する銅貨。
五百円に匹敵する小銀貨。千円に匹敵する銀貨。
一万円に匹敵する小金貨。五万円に匹敵する金貨。
それ以上は小切手か何かを使うらしいが……物価が安いから、金貨なんて早々お目に掛からない。
串焼き二百円とか安い、と前世の感覚が抜けなくて思うが、適正価格だ。小銅貨一枚の焼き物とかあるもん。
焼き立てを一本神父様に貰って、あぐ、とかぶり付く。熱くてちょっと困った。しっかり冷ましてから再度がぶり。
「っ……!…っ、……!…!!」
柔らかくて、肉汁たっぷりで、こんな美味しいものが一つ百円なんて信じられない。
噛みきりやすく、脂が唇について、舐め取ってもまたそれが美味しい。こんな美味しいものがあるなんて、この国はいい国だ。
「お、いい食いっぷりだねお嬢ちゃん。ピグの串焼き旨いか?」
ピグというのは前世でいうとこの豚だ。ちょっと見た目が違うし、なんか突進してくるらしいけど…一般人が三人いれば狩れるらしい。
こくこくと深く頷いて、もう一口串焼きをがぶり。…濃いタレがまた、食欲を刺激して美味しい。
「美味しそうに食べるねぇ……よし!そんなお嬢ちゃんにもう一本おまけだ!持っていきな!」
今度は塩焼きだろう、白っぽいお肉からも美味しそうな匂いがして……今度は自分の手で受け取った。両手に串焼きである、乙女の嗜みとか知らない、美味しいのが悪い。
「ありがとう、ございます…!」
「おう!いいってことよ!神父様も今後ともご贔屓に!」
「すまんな、また今度買わせて貰う。」
しっかり片手で神父様に抱えてもらいながら、タレが染み込んだお肉を食べ進める。
神父様は口が大きいから、中々豪快に食べていく…そうしたいが、まだ口が小さい。それでもいっぱい頬張ってるけど。
「意外だったな、お前さん……静かなのを好むかと思ったが、町の雰囲気も好きなのか?」
「ん、んむ。……好きだよ?楽しいものは何でも好き。……食べ物くれる人はいい人。」
塩焼きを一口神父様に差し出して、口のものを飲み込んでから応えると……何故か呆れた顔をされた。
「くれるからと言って、変なものに着いていくでないぞ。」
「流石に見分けぐらいつくもん。いい人からしか貰わない。」
キリッと表情を引き締めて答えると……口の周りにタレが着いているとハンカチで拭われた。また呆れた様に神父様が笑った。
どこへ向かってるか知らないまま、神父様に連れられては時折屋台を覗いて、その度にオマケを貰って……お腹が膨れてしまった。
「優しいね、皆。オマケいっぱい。」
「珍しくお前さんが愛想よくしてたのもあるしな……この国の者は皆子供に甘いといわれてたが、成る程な。」
ムムという柔らかい生地にジャムやマシュマロを挟んだお菓子の屋台では、袋いっぱいにオマケを貰って……それで小銅貨一枚なのだから、経営がむしろ心配になってくる。
確かに後半はにこにこしてたらオマケ貰えるのに気付いて調子にのった節はある。…ナオにでも上げようかな。
「次行くのはどんなところ?」
「とりあえず日用品を買うか。……その前に馬車に荷物を乗せて、少し離れてるからそのまま馬車で移動しよう。」
「じゃあ馬車の人にもムム上げよっか。いっぱいある。」
がさ、と紙袋を揺らしてアピールすれば、褒めるように優しく頬をくっつけられた。片手に荷物、片手に自分だもんなぁ……ふふ、パパのお髭じょりじょりするなんてやったら神父様どんな反応するだろうか。
まぁ、お肌すべっすべなんだけどね。
書いてたらお肉たべたくなった。串焼きは豚バラが大変好き。




