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まぁ、転生したからといって美少女になりたいとは限らない  作者: ゴリラの華
一章 美少女は望まない
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第十三話 冒険者ギルド

ちょっとだけ長い。



ぼわ、と逆立った尻尾を指先でするすると戻して居れば、何やらソファに座らず、じぃと見下ろすアウリルさん。



三人掛けのソファだから、座れないってこともないし……なんでそんなに見てくるのか。見られるのは苦手だ、すす、と毛布に然り気無く隠れればそわそわと落ち着かない様子で視線を散りばめ出した。




「あ、の……アウリルさん?」




流石に気にならない訳がなく、何かしたかと首を傾げると困ったように、眉を下げて彼女は笑った。



「アウリルでいいよ。慣れてないんだ、さん付けで呼ばれるの。……お嬢さんは?ギルドに来るには些か幼く見えるが。」



「レン、です。…五歳になりました、それで…訓練所に通いたくて、神父様とここに…」



「そうか、訓練所なら納得がいく。敬語もはずしてくれていいんだが……その…」




しっかり者の印象を受けた彼女は、そっと此方を指差した……正確には、まだお手入れ途中の尻尾を。



「良ければ、少し、少しでいいから、触らせては貰えないだろうか…?」




仄かに頬に朱差し、恥じらいながら言う姿は女の子らしい。

尻尾にも勿論神経が通ってるから……あまり触られたくないのだが、どうしよう。綺麗なお姉さんのお願いだ、揺らぎそう。



というか猫好きが多い世界なのか?


そんなことを考えていたら、拒否されたと思ったのであろうお姉さんがパンっ、と目の前で手を合わせた。



「この通り!…尾が嫌なら勿論耳でも構わない!」



「耳、なら……どうぞ。」




だめだ、美人の頼みは無下に出来ない。だって目の保養だもん。大人しく頭を差し出すように向ければ、恐る恐る手を伸ばしてくる気配を感じた。


ぽふ、と少し硬い手が髪と耳に触れる。剣を扱って居るからだろうか。きっといっぱい鍛練をしたんだろうなぁ。



壊れ物に触れるかのように、優しく、ゆっくり触れる手を甘んじ、少しこそばゆさを感じながらただされるがまま愛でられる。

撫でられるのは好きだ。前世で小さい頃に撫でてもらった記憶は少ない…それの反動か、大人になっても、勿論此方でも……甘えたになった自覚はある。嫌われるのは嫌だから様子を見ながらだけど。



彼女はどうだろうか。そう思って見上げると……きゅ、と眉を寄せ、けれど真っ赤に染まりながら此方を見ていた。なんという感情なのか大変分かりにくい。手が止まらないから喜んでいるのだろう、たぶん。



「……やわらかい…な……ふふ。」



「喜んでもらえたなら、何より…です。」



やっぱり嬉しかったみたいで、名残惜しそうに離した手を何度も閉じたり開いたりしてる。

そんなに動物が好きなのだろうか。



「おう、静かになったと思ったら…来てたのかアウリル。」




「武器屋の所の娘か、大きくなったな。…そのタイ、もうBランクになったのか。立派だな。」




「お久し振りです、神父殿。……それからギルド長、アンが探してましたよ。」




「ああ、いい、ほっとけ。どうせ急ぎなら自分で届けに来るだろうから。」




「……怒られても知りませんよ。」




のそりとやって来た大人二人に頭を下げたアウリルさん。神父様とも知り合いだったのか、と思ったがこの町に一番近い教会だし、逆にほとんど神父様は顔を覚えてそうだ。


お祈りにステータスの発行、神父様のやることはわりと多い。国に出す書類仕事なんかもたまにやってるのを見掛けるぐらいだ。



流石に目上をほっといてソファに縮こまってるのは偲びなく、降りて立ち上がろうとすればギルド長に止められた。




「そのままで構わん。むしろうちの者が悪かったな嬢ちゃん……血気盛んな奴が多いからか、喧しい連中なんだ。悪気はないから許してやってくれ。」




怒ってないとこくこくと何度も頷いて、立ち上がるのを止めてソファに身体を預け直した。三人は立っているから必然的に見下ろされるが…仕方ない、諦めよう。

寧ろ騒音が気にならないくらい神父様と大事なお話してたのに、此方が申し訳ないくらいだ。



「む……尻尾がまだ乱れてるな。そこまで驚いたか。」



「あ、いえ……大丈夫です。アウリルさんが止めてくれたので。」



ぽすん、と置かれた大きな手に頭をぐりぐりと押し付ける。大きくて、しわしわの手。ぽかぽかしてて神父様の手は好きだ。

尻尾のお手入れが途中だったので、せかせかと直して、神父様に確認。跳ねるように撫でる手は大丈夫のサイン…もう一度ぐりぐりと頭を押し付け、乱れた髪も直してもらった。




「アウリルは確か今年で十五だったか。」



「ああ、うちの期待の若手だ。訓練所の監督にもなるし……アウリル、此方の嬢ちゃんは来年期から新入りになる。贔屓しろだなんて野暮は言わねぇが……少し気を使ってやってくれ。」



「了解。……ふふ、訓練所の監督というのは、先生みたいなものさ。…といっても、君は黒猫族だから教えるのは私じゃないけど。よろしくね、レン。」




知らぬうちに、がーっと話が進んでいくが……何だか悪いことをしてる気になる。

監督に知り合いがいるなんてずるじゃないだろうか?何をしても贔屓だと馬鹿にされる日がくる気配がしてきた。



伺うように神父様を見上げると、察してくれたのか大丈夫だという風に笑った。



「訓練所に通うのはほとんどがここの冒険者の息子や娘。それ故贔屓なんて御法度中の御法度だ。実力が伴わなきゃただ死にに行くようなものだ……監督に選ばれるのはしっかり判断できるものだ。年齢に拘わらずな。」



「アウリルは十五だが、お前さんを教えるのはまた別の監督だ。教える場所が違うが、此処に来れば会える……良ければたまに顔を出してやれ。こいつが喜ぶ。」



「ギルド長!!」



楽しげに笑ったギルド長に、アウリルさんが慌てたように声を荒げる。なんだか最初はキラキラした王子様に見えたけど……中々可愛らしい人な気がしてきた。まぁ、見た目は幼女だけど自分中身いい年だもんなぁ……


と、話し声に混じって荒い足音が聞こえた。ぴっ、と耳を立てて扉を見る…獣人の方が耳がいいから自分以外気付いてない。




「ギルド長!!何度言ったら急ぎじゃなくとも呼んだらこい……と……」



バンッ!と豪快な音と共に扉が開いて、黒髪の青年が現れた。

その声量と扉の音で分かってたのに尻尾が逆立ったぞ。ビビり認定されたくないから言っておくが、分かってても人間の時より大きく聞こえる音のせいで意図せずびっくりしてしまうんだ。


またぼわっ、と膨らんだ尻尾を抱き締めて自分は関係ないとお手入れを開始した。…大人になる頃には直るか慣れるといいんだけど……神父様に聞いてみよう。




「やべ。忘れてた。」



「だから言ったじゃないですか、アンが探してるって…」



ひそひそと話すのを尻目に尻尾は戻ったものの、耳先の毛が跳ねている事に気付き、何とか直そうとする……うーん、上手くいかない。

見兼ねた神父様が隣に座って直してくれた。こしょこしょと指先で擽られると、何だかむず痒くてくふくふと笑いが溢れてしまう。




「失礼、来客中でしたか。…お久し振りです、ヴォルカーノ神父。それから初めまして、小さなお嬢さん。

ちょっとだけ、この馬鹿借りてきますね。」



がっ!と首根っこを掴まれて、ギルド長が拉致られた。いい笑顔を浮かべて絶対自分の上司であろう人物を馬鹿呼ばわりな上に有無を言わせないなんて……逆らわない方がいいタイプの人間だ。

だってギルド長も借りてきた猫みたいに静かになってたもん。



「彼奴……年々腹黒さが増してきてないか?」



「ええ、まぁ……王宮への報告とかも任されるようになって、磨きが掛かってきてますし…ギルド長は中々仕事なさらないので…」



どうやら日常茶飯らしい。仕事はしなきゃダメだと思う。朗らかないい人だけどね。



数分もしないうちに彼は戻ってきた。ギルド長は居ない。……いい顔してた。ストレス発散にもなってるのかもしれない。




「すみません、ギルド長は少々お仕事をされるので…何か手続きがあれば俺が変わりにしておきますよ。」



「いや、話は済んでる。…この子の顔出しにな。訓練所に通うんだ。」




流石に座ってばっかなのは良くないと思い、ソファから降りて毛布を畳んでいると、急に話を振られた。

アウリルさんと同じ年齢くらいか、彼も中々顔がいい。文系っぽい顔をしている……まぁ、大人一人を引き摺った時点で彼もギルドの人だなって思うが。




「へぇ……お嬢ちゃん。依頼の受け付けや報告の受け付けをやってるアンだ。違反行為や報告を怠慢したりするとギルド長と同じ様に幼くとも引き摺るのでよろしく。」



「レ、レン、です。よろしくお願いします…!」




いい笑顔で言われた。怖い。でも挨拶はちゃんとしなさいって昔から教育されてるので頭を下げる。偉い自分。



「この子はマメだから大丈夫だ。あと幼い子を引き摺るのは止めろ。泣かす気か。」



「仕事が溜まるのは此方なんですよ。幼い子だろうと勘弁してほしいです。」



「大丈夫かい?また毛が……」



味方が二人居てくれて助かった……よく膨らむ尻尾をせかせかと直して、神父様の袖を引く。ばちばちと見えない火花が散って居た気がした。




「む……まぁ、よろしく頼む。」



「了解しました。お嬢ちゃんは中々に音に過敏だから来たときには煩くしないよう伝えておきます。……いや、俺達が煩さに慣れただけか。獣人全般の子が来たときはそうしときますね。」



「私達はギルドに基本居るから、困ったときはギルドにおいで。それじゃあまた。」




そろそろ出ようかと神父様と手を繋ぎ…入り口まで見送ってくれた二人にいい子なので手を振る。ぷるぷると震えながら何かを我慢する表情を見せたアウリルさん。

心配になって神父様を見上げると、こそっと耳打ちされた。




「彼奴は無類の可愛いもの好きでな……折角だ、これからも仲良くするんだし…名を呼んでやれ。」



こく、と頷いてアウリルさんを見上げる。


蒼い瞳とかち合うと…一瞬ふにゃ、と蕩けて、でも己を律するように引き締まった。…そんなに可愛いの好きなら我慢しなくてもいいのに…

何だか可愛らしく見えて、頬が緩んでしまう。折角いい人と出会ったなら、ちょっと頑張ってみよう。




「また、ね。…アウリル。」




「っ………」




彼女の手を取って、頬へ当てて…めいっぱい甘えるポーズをとって、名を呼んだ。

幼い子は誰であろうと可愛いのは知っている。効いただろうと見上げたら……なんか天を仰いでた。既視感があったが…戻ってこいと神父様が手招くので大人しく離れた。


隣のアンさんが呆れた顔をして神父様を見ていた。



「ちょっと。あまりうちの若手再起不能にするの勘弁して貰えません?お嬢ちゃんが可愛いからって仲良しだと見せ付けなくても取りませんって。」



「誰が渡すか。…なに。自慢の娘を見せ付けたくなるのが親というものだろう?さて、次はどこに行くか。」




深いため息と共に、今度こそ見送って貰い……はぐれないように手を繋ぎ直した。


一緒にお出掛けなんて、なんだか楽しくて……いっぱい尻尾が乱れてしまったけど、ギルドの人達もいい人だった。自分があの輪に馴染むのは中々時間かかりそうだけど……うん。楽しそう。




可愛いものを見ると天を仰ぎたくなる気分、大変わかります。仰げば尊死、いとエモし。

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