第十二話 始まりのギルドの人々
知らない大人に捕まれたら大声を出して逃げましょう。
ギルド長と神父様がお話をしている間、何故か見知らぬおじ様方に再度囲まれてしまっている。冷や汗が止まらない。
世間話にギルドの方針、訓練所での話など沢山話すことはあるんだろうな、とは思うけど、だからって五歳児を知らない人に任せないでほしい。神父様は意地悪だ。
「小っせぇなぁ、子供ってこんなもんだったけか?」
「そりゃお前、俺達と種族違うからこんなもんだろ。」
「そうそう、猫科の獣人なんてこんなもんだぞ?大猿の獣人が大きすぎるんだって。」
頭上を飛び交う言葉たちに一層縮こまって距離を取った。…大猿って言うけど、ようはゴリラってことでしょう?力強そう。
囲む彼らも獣人が多い。やはり国の特色がギルドにも濃く反映されているのかもしれない……普通の人間の人も居るけど、遠くから眺めてるだけで助けてくれそうにない。なんなら大猿の獣人達の勢いに笑っている。薄情者め…!!
今すぐナオの所にいって、腕の中に隠れたい。何なら毛布の中でもいい。
そんな現実逃避をして、関わりたくないとそっぽ向いていても現実は無慈悲で……無視しようが縮こまろうが質問が止まない。声が総じて大きすぎて耳が痛くなる。
ギルド内は賑やかだから、この騒音にもそのうち慣れてくるのかもしれないけど……普段から物静かな教会に居た私にとっては地獄でしかない。騒音が頭に響いて大変痛い。割れそうだ。
せめてもと耳を塞いでもさっきよりも大きな笑い声が響くだけで…怯えてると揶揄われてるのかもしれないが、それどころじゃない。頭にガンガン来て辛い。
「お前達、少しは口を閉じるかボリュームを下げろ。お嬢さんが痛がってる。」
不意に、暖かい何かに包まれ……ぽう、と淡い光を灯した掌が額に触れた。
じんわりと温かさが痛みを抑え込んで……そのまま眠りたくなるような、微睡む様な心地に陥る。…癒術だ。俗に言う回復魔法。…一度だけナオにされたことあるが…この優しい気分になる心地は好きだ。
でも聞いたことのない声だったので、痛みからぼんやりとしていた思考をなんとか覚醒させ、幾ばくか静かになった部屋を見回す。
………見回すこともなく、すぐ近くに綺麗な人が居て、尻尾がぼわってなった。毛布で包んでくれてる最中だったのもあり、ぶつけてしまったのが申し訳ない…
「っ…ご、ごめんなさ……!」
「っと、…此方こそ、申し訳ない。うちの馬鹿共は煩かっただろう?特に幼い獣人は感性も感覚も過敏だと聞く……初歩的な癒術しか使えないが、気分はよくなったかい?」
落ち着いた低い声。目線を合わせるためにわざわざソファの前に膝を着いてくれた優しい人。……状況が状況だったから、ものすごく安心した。こくこくと何度も頷いて目の前の麗人に応える。
短く、所々跳ねる金髪。それに碧眼ときた。正しく少女が描くような王子様の理想像。……なのに、なんか…違和感を感じた。
こう、キラキラしてかっこいい、とは思うんだけど……うーん。なんと言ったらいいか……
「どうかした?まだどこか痛む?」
「あ、…大丈夫、…です……その、…」
「ん?……ああ。私はアウリル。まだまだ半人前の剣士だ。」
腰に付けた細く長い鞘。アックスとか振り回す人じゃなくてよかった……じゃなくて。
「アウリル、さん。……おね、……おにい…?……んん、…ごめんなさい、どっちでしょう…か。」
「アウリルでいいよ。因みにお姉さんだ。」
違和感が解消した。
間違ってなかったことにホッとした……いや、確かにかっこよくてキラキラしてたんだけど……何故か可愛いも同時に出てきて、喉仏もないし、もしやと思ったんだ。聞くのは本当は失礼だけど、優しい人でよかった……
「ずりーぞ、アウリル!」
「喧しい。お前達は煩いんだから声を抑えろ……それに、依頼の報告は済んだのか?さっきアンがものすごく怖い笑みを浮かべてたぞ。」
「あ、やっべ!」
眉を吊り上げたアウリルさんの言葉に、顔を蒼くして一人、また一人と慌てて去っていった。
漸く静かになった部屋のなか…話すことに熱中してる二人は全然気付いてないけど。
ソファの端ぎりぎりまで離れ、強張っていた体がやっと緊張から解放され……深く息を着くと、離れて座ったアウリルさんが笑った。
「すまない、皆悪気があった訳じゃないんだ。ギルドに小さい子が居るなんて珍しくて…しかも君は泣き喚くタイプでもない。……子供の鳴き声は音に耐性ある者でもものすごく響くらしい。…だから、子供を持たない者らは君と話したかっただけなんだ。許してやってくれ。」
悪気があってされてたら、それこそ神父様に泣き付いていたところだが…そういって笑うアウリルさんが暖かくて、流石に怒ることなんてできなかった。
意図せず男に見える女の子が居たっていいじゃない




