第十一話 始まりの町のギルド
とりあえず初めはギルドにカチコミ。
馬車から降りて、初めて町に足を着けた。
眼前に広がるのは、どこかのゲームかなんかで出てきそうな、いかにもといった建物。
“世界共通冒険者連合組合”、通称冒険者ギルド。
堅苦しい名前を付けたのは初代組合長らしい……加護持ちだったと聞くし、無駄にかっこよくしようとした転生者だろうなぁ……いや、分からないけど。
各国に拠点を構え、拠点を治める拠点長が居て……それを纏めるのが組合長。
冒険者という職業も、勿論一般的で……失せ物探しから始まり、魔物討伐。魔物捕獲など、仕事は様々。一筋でやってる人は、魔物討伐や捕獲を主にしているらしい。
勿論、力量の伴わない仕事をギルド側が割り振る事もなく、ランクに応じてこなせる仕事は変わってくる。
……するすると頭に入ってきたのは、ゲームのギルドとかも大体そんなもんだからだ。
ただし、ここは私にとっての現実だ。
体力を示すゲージも、魔力の残りを示すゲージも……セーブもロードも、出来ることはない。
ちょっと待って、が許されないのが現実だ。攻撃を受ければ痛いし、瀕死になりかけてもすぐ回復してリトライ……は物理的には可能だが、精神がもたない。
復活の呪文なんて、この世界の何処にも存在しない。
そう思えば、通り過ぎる片腕を布で吊った人や、包帯を沢山巻いてる人……ゲームならば気にも留めない人達が、ただひたすらに凄いと思った。
ふるりと僅かに震えた身体を神父様に寄せると、宥めるように大きな手が背中に触れ、擦ってくれた。
「……止めるか?」
「…………止めない。ちょっと、寒かっただけ。」
ギルドに顔を出すのには、理由がある。
ギルドが管理する訓練所で一年初歩を学び、それを持って正式にギルドに所属することになる。
訓練所に行くためには自筆で申し込みを書き、自分自身の意思を示さなくてはいけない。
神父様に教えて貰ったから、基礎的な読み書きは出来る。……難しいのとか、古代の文字は読めないし書けないけど。
再びふるりと震えそうな尻尾を一度強く抱き締めて息を吸い……ギルドの中に、進んだ。
ナオと共に居るためならば、こんな所で立ち止まってなんて居られない。
「おう!よく来たなぁ!教会の方に引き込もってばっかで死んじまったかと思ったぜ!」
「喧しい。……見ろ、うちの子が怯えるだろうが。」
ギルドに入った途端、ラリアットばりの勢いで誰かに引っ捕まり、神父様と別々にされた。
知らぬ匂いに、知らぬ場所。知らぬ声や足音にびっくりする間も無く、なんか、こう……めちゃくちゃマッチョで……一言で言えば暑苦しい人達に捲し立てられるように質問攻めにされ……本能的に逃げようとしても、がっつり腕を捕まれてるから逃げられなくて、久し振りに本気で泣いた。
大人だろうって?
体験してみれば分かる。知らない人から腕をがっしり捕まれてたらそれだけで怖すぎる。
獣人は耳がいいから、近くで大声を出されるとキーンとする。……まだキーンとしてるもん、なんだったんだあの人達は……
本格的に泣き出したものの数秒で、神父様が駆け込んできて……此方から抱きついた。今もソファに座らず神父様の膝の上だ。ここじゃなきゃ安心できそうにない。
「可哀想に。初めて町へ来たのに……刺激が強かったな。今日はお前さんが好きなオムライスにしよう。」
「……ぷりんも。」
「ああ、生クリームを使ったやつを。」
ぴるぴると情けなく震え続け、神父様の腕の中に収まり続けていると……じぃ、と見詰めてくる真正面の人。
「いやはや、何処ぞの娘を育てているとは噂に聞いてはいたが………お前、子煩悩になるタイプだったんだな。意外だ。」
「戯け。これぐらい普通だディグラート。」
彼こそ、このギルドを治める拠点長。
狩りを治める虎の獣人、ディグラート。
………同じ獣人なのに声が大きくて耳が痛くなる。この人は正直苦手リストに入れておくとしよう。
カチコミに行ったら拉致された、五歳を取り囲むおとなってだけで子供にはトラウマもの。




