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突然ですが、武士拾いました  作者: 和久井 要
7/14

8月18日 am11:47

 家を出て一時間ちょっと。電車とバスを乗り継ぎ、ボクら三人はハーモニーランドにやってきた。

 ジェットコースター、フリーフォール、観覧車、バイキング。定番のアトラクションに加え、夏はプールも営業しているこの辺りでは有名なテーマパークだ。

 もちろんもっと足を伸ばせば全国に名を轟かせるテーマパークにも行けないことはないが、午前中に急に思い立ってからたどり着けるような遊園地は、あいにくとこのハーモニーランドくらいしかなかった。


 夏休みの割にはスムーズにチケットを買うことができ、ボクたちは園内に入った。入場ゲートをくぐると、すぐ目の前にはお土産を売る売店がいくつか軒を連ねていて、吸い込まれるようにマユがショップに向かおうとしているのを、ボクは腕を掴んで阻止した。


「どこに行こうとしてる?」

「お土産買うのぉ」

「今買ってどうするの? かさばるだけでしょ? そういうのは帰りにね。もう昼だし、まずは何か食べた方がいいんじゃない?」


 腹がは減っては戦はできぬだ。


 マユを引っ張って、どんどん園内に入ってきたとはいうものの、ボクは歩きながら難題に挑んでいた。和食以外はあまり食べたがらないブシが、遊園地で販売しているものの中で果たして何が食べられるというのか。

 夏祭りでは、フランクフルトもりんご飴も結局は半分も食べなかった。ブシの可愛い写真にスマホに収められてマユ自身は上機嫌だったが、ことごとく残飯整理をさせられたボクの身にもなって欲しい。

 手にした園内マップを元に、フランクフルトやたこ焼きなどスナック系を売っているショップには目もくれず、いくつか店の前を通過して、敷地のほぼ中央にある大型のレストランの前でボクは足を止めた。

 のぼりに"各種定食あります"の文字。定食なら食べるかもしれない。ボクにはのぼりに後光が差しているようにも見えた。

 

「ここにしよう」


 ボクはそそくさと中に入った。

 ドーム型の建物は、広々としていた。とにかく天井が高くて開放感がある。その大部分にはイスとテーブルが並べられてはいるものの、丁度正午を過ぎたばかりということもあり、レストランは当然ながら混雑している。


「席一杯だし、やっぱりお土産買いに行こう。あとで来ればきっと席も空いてるよ」

「買い物は最後」


 どうしてかお土産にこだわるマユとそんなくだらないやり取りをしていると、早めに食事を済ませた家族づれが偶然にも席を立ち、三席分、場所を確保することができた。


「ラッキー」


 我先にとマユは席に座り、ブシが控え目にそれに続く。やはりマユが一番お子ちゃまなんだなと半ば呆れ、ボクは最後に席に着いた。

 

「さてと、何食べようか?」


 レストランの最奥部に目を凝らせば、一直線に伸びるカウンターが目に入る。軽食・ドリンク、パスタ・麺類、カレーライス、ハンバーグ・グリル、定食類。混雑を緩和するためだろうか。種類ごとに窓口が分けられている。


「ご飯選んでおいでよ」


 ボクはマユとブシに声をかける。先程までお土産とうるさかったマユの目が昼ご飯を前にランランと輝いていた。どれだけ食い意地が張っているのだろう。


「ブシコ、行くよ」


 マユがブシの手を取る。


「じゃが……」


 ブシがボクを見た。ボクを残していっていいのだろうかと考えあぐねているのだ。こういうところでもブシは気配りができる。精神年齢は一体何歳なんだろう。感心しかしない。


「大丈夫。いいから行っといで」


 そんなブシを愛おしく思う反面、やはり年相応にもう少し無邪気に振る舞ってもらいたいと思ってしまう。

 ボクが背中を押すと、ブシは一つ頷き、マユに引っ張られるがまま席を離れた。二人が雑踏に紛れると、ボクはスマホでハーモニーランドの公式ホームページを開き、園内のアトラクションを調べ始めた。限られた時間で、できるだけ効率よくした動けるよう頭に叩き込んでおくつもりだ。


 ブシは無事に食べるものを選んでくるだろうかと実はやきもきしていたものの、マユだけでなくブシも手にトレイを持っている姿が目に入り、胸を撫で下ろす。時間にして約20分。遊園地のレストラン、しかも昼時だと考えれば妥当な時間だろうか。


「お待たせ」


 幸せそうにマユがトレイをテーブルに置いた。隣でブシも続く。 

 マユはカツカレーを、ブシはさばの味噌煮定食を選んでいた。マユのカツカレーは分かるが、さばの味噌煮定食なんて、遊園地にしては渋いメニューを置いてあるものだ。


 改めて周囲を見渡せば、なるほど意外と年配者が多い。もちろん年配者だけで遊園地に来ることはあまりないだろう。実際、孫と思しき小さな子供を連れている人がほとんどだ。

 親は共働きで忙しい。物価は上がり続けるのに、所得は上がる様子もない。そこで時間とお金を持て余した祖父や祖母の出番というわけなのだろう。


「先食べといて。何か買ってくる」


 二人が席に着くのを見て、入れ違いでボクは席を立った。


 実はメニューは前もって決めていた。時間ももったいないし、お腹さえ満たせればそれでいい。ボクはナポリタンとホットコーヒーをお盆に乗せ、席に戻ってきた。きっかり10分。タイミングなのかカウンターがあまり混んでいなかったのが幸いした。


「ユイって相変わらず少食だね」


 テーブルに置いたお盆を見て、開口一番、マユがそう言う。


「マユが食べ過ぎなんだって。今はいいけど、年いったら太るよ」

「レディに年の話は厳禁でしょ」


 あと体重の話もね。これみよがしにそう付け加える。

 体重というワードを気にしているものの、マユは体に余分な肉は一切ついていない。取り除く必要もない肉の話をする以前に、枝のような直線的過ぎる体のラインを嘆くべきではないだろうか。


「はいはい。そこまで言うならレディらしい振る舞いをしてくださいね」


 ボクはすかさず反撃に転じる。こういう時くらいしかボクはマユと戦えない。


 ボクの発言にマユはただただ唇を尖らすのを見て、人知れず溜飲を下げる。

 ボクとマユがあたかも夫婦漫才のようなやり取りをしている間にも、ブシはさばの味噌煮定食はまずまず順調に消費していた。

 メインのさばの味噌煮が残り半分くらい。小鉢とほうれん草のおひたしはなくなっていた。漬物に味噌汁、そしてご飯は残りわずかというところ。


「どう? ご飯は」

「美味じゃ」

「そか。よかった。でも、食べ切れなかったら無理に食べなくていいよ」


 何せ、このあとアトラクションに乗るのだ。気持ち悪くなっても意味がない。


「御意」


 想像しなかった返事にボクは思わず吹き出してしまった。御意ときたか。


「笑うでない」

「ごめん。可愛かったから」

「可愛くなぞない。別に……普通じゃ」


 結局は三人がほぼ同時に食べ終わり、他の人に席を譲るためにもそそくさとレストランを後にした。

 昼食後は精力的に園内を動き回った。

 人気のある絶叫マシーンを二種類。うち一つは身長が足らずブシは乗れず、マユだけが乗った。定番のメリーゴーランド、観覧車、子供でも乗れる小さめのバイキングにも三人で乗った。"園内さんぽ"と名付けられた高いレールにぶら下がった乗り物に乗って、ゆっくりキッズエリアを一周するアトラクションにはボクとブシの二人で乗ることになった。ティーカップでは調子に乗りすぎたマユが無駄に回転を早めてしまい三人とも気持ち悪くなってしまうというハプニングもあった。


 暇さえあればマユはスマホのカメラでブシの姿を収める。その姿は一見すると姪っ子との思い出を形に残す麗しき女子大学生の姿ではあったが、よくよく見れば時々、涎を腕で拭っているマユを見て、思わず後頭部を叩くこともしばしばだ。


「外では気持ち悪いこと禁止」

「うっさいなぁ。可愛いんだから仕方がないでしょ」


 何が仕方がないのかは定かではないが、散々乗り物に乗って、さすがに疲れてきていたところで休憩用のベンチが空いているのを見つけた。そこで一旦休憩を取ることにした。


 おあつらえ向けにスナックショップがあった。いや、近くにスナックショップがあるからこその休憩用のベンチか。


「はい、どうぞ」


 ブシの手にソフトクリームを渡す。和食好きなブシもソフトクリームは喜んで食べる。マユはもう小腹が空いたとかで、フライドポテトを食べていた。何とも壮大な胃袋だ。見ているボクの方が胸焼けしてしまう。


「しかし、ブシコはやっぱり可愛いね」

「周囲の視線が凄かったね」


 そうなのだ。アトラクションに乗るため列に並んでいると、ブシの同世代の子供は例外なくブシを見ていた。目を奪われたと表現するに相応しい反応を示す男の子もいたし、保護者からも幾度となく声をかけられたのだ。


「もの凄く可愛いお子さんですね?」

「ありがとうございます。姪っ子なんです」


 子供というにはボクやマユでは年齢的に不自然だ。姪っ子と言っておけば、夏休みの子守を頼まれたのだろうと勝手に解釈してくれる。実際、不審がる保護者は一人としていなかった。

 ボクはアイスカフェラテを飲みながら、園内マップを広げていた。

 乗っておきたいアトラクションは乗り尽くした感がある。ブシやマユがアトラクションに対して満腹なようであれば、入園ゲート前のショップでお土産を買うのも悪くない。


 それにあまりゆっくりもしていられない。突然の外出に、晩ごはんの材料が冷蔵庫にほとんどない状態だ。帰りに駅前のスーパーに寄って買い物もしなければならない。

 考えごとをしていると、不意にブシが立ち上がったのが見えた。ソフトクリームは食べ終わり、手にはソフトクリームに巻かれた紙を持っている。


「ゴミ捨てに行くの?」


 一度軽く頷いて、首を傾げる。目的は一つじゃないということだ。


「もしかしてトイレ?」


 ブシは今度は大きく一つ首を縦に振った。


「場所分かる?」

「大丈夫じゃ」


「早く戻って来てね」


 ブシは軽く頷き、足早に歩いていく。

 しばらくブシの後ろ姿を眺め、顔を戻せばマユの顔がそこにはあった。


「まだぁ?」


 マユの言わんとしていることは分かっている。ボクは顔を綻ばせた。


「そろそろ……お土産買う?」


 その言葉に対して、マユは満面の笑みを浮かべる。その顔を見た時、ボクの心は歓喜する。


「うん!! 待ってました!!」


 結局、マユの無邪気さにボクはいつも癒やされているのだ。

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