永遠の片思い
すごく、すごく優しいヤツだった。心配性で、口うるさくて、母ちゃんみたいだなんて言うと『お前の周りは調子良いヤツばっかりだから、俺ぐらいはストッパーになってやらないと』なんて言っていたっけ。そのお陰なのかな?本当に危ない事は見極めれるようになったし、まじでヤバいヤツに誘われそうになっても回避出来たり、きっと全部お前のお陰で身に付いた回避能力なんだろうな。
他のヤツにお前の事を説明するときに『俺の親友』って言うようになったのはいつだったかな?前は『ただの幼なじみ』だったのにな。
高校くらいから学校内ではあんまりつるまなくなったな。まぁ、俺がよく一緒にいるメンツはお前の事苦手みたいだったし、お前は見かけによらず人見知りしないし誰とでも仲良くやれる人間だけど、自分の事を嫌っている人間も見つける事が早かったから、わざわざ近づくこともなかったもんな。だから俺たちを気遣ってバラバラで登下校することのほうが多かったけど、本当は早起きが苦手なお前が、寝坊をして遅刻ギリギリになるときだけ一緒に登校出来たから、俺はいつも『寝坊しないかな』って期待していたんだ。だって俺が早起きしてお前と一緒に登校したら、せっかくのお前の気遣いが無駄になるし、あれ以上の早起きは無理だろ?俺は平気だけど。
付かず離れずな高校生活は、楽しかったのかもしれないけれど虚無感の方が大きかったよ。今思っても後悔ばかりで『あぁすりゃよかった』『ここで誘えばよかった』なんて未だに思うんだ。過去なんて帰ってこないことくらいもう理解出来るのにな。
遠くで笑っていたお前を見ると、いつも隣にあった少し幼い笑顔を思い出すよ。きっとあの頃の写真なんかをお前のファンみたいな女の子たちに見せたら発狂するんだろうな。絶対、全員、可愛いって言うぞ。俺だって可愛いって思うもん。今じゃ特撮ヒーローみたいなイケメンだもんな。きっと一番のイケメン枠をもらえるぞ。
大学時代をあまりよく知らない事があの頃は良かったのかもしれないけれど、今となってはちょっと寂しい。お前はどんな環境でどんな人に囲まれてどんなことを学んでいたんだろうな。今までより会えなくなって、この気持ちに区切りをつけれると思っていた俺はただのバカだったよ。会えない間の方がお前の事を考えてしまって、お前のSNSをよく確認していたよ。でもお前はああいうやつが面倒くさくてあんまり好きじゃない事も予想出来ていたから、更新が月に一回くらいしかないそれを見て『変わってないな』ってちょっと安心もしたんだ。
社会人になって、働くようになって、会う場所が専ら居酒屋になっても、話す内容はあの頃と変わらなかったり、たまに酔った勢いで入るゲームセンターやストレス発散だって言って二人で行くカラオケなんかも楽しくて、そういえばバッティングセンターもよく行ったけど年々動けなくなっていくのを見て互いに歳をとったな、って笑うのが俺は大好きだったよ。その時の笑顔は俺の記憶よりだいぶ老けてて、それでもまだ隣にあることが嬉しかったんだ。
お前と過ごすと楽しいから、一人になることが寂しいことなんだと感じさせられるんだ。何日かするとそれも無くなるけれど、お前に会うことは止められないから、この感情は延々と無くならない。ずっと一緒にいてくれと言えたらどんなに楽だろうな。
「なんでお前が泣いてるんだよ」
困ったように笑いながら、俺を見てそう言った。
「感動したんだよ」
「お前が感動で泣くなんて、歳をとったな」
そういうお前は楽しそうに笑った。
白いタキシードがこの世の誰よりも似合っているよ。できればそれは、俺が着せてあげたかったけれど・・・
「結婚、おめでとう」
結局、お前を想っていても言えなかった二文字は今日の祝福に変化して、俺だけが学生の頃に取り残されたままだ。