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第62話 強者の在り方

 サントリウムの塔に眠っていると言われていた竜王ドルコミィリスが姿を現した。

 この不可思議な状況を前にしても、その話をしてくれてたスクレナ本人は眉ひとつ動かさない。

 なんでそんなに冷静でいられるんだ。


「うん? だから眠っていると言ったであろう。奴は遥か昔に世界そのものを灰燼(かいじん)に帰さんとするほどの強敵と死闘を繰り広げ、それ以来この地で魔力の回復に努めておるのだ」


 あぁ、眠ってるってそのままの意味だったのか。

 俺はてっきり死んでしまっているものなのかと。


「竜王様……魔力が満ちるまでには今しばらくの時が――」


『この愚か者どもが!!』


 おずおずと伺い立てる一族の言葉を遮り、ドルコミィリスは怒声と共に得体の知れない力を頭上から浴びせた。

 竜族たちが立つ一帯を取り囲むように地面はひび割れて窪み、皆が押し潰されて平伏すような形となる。


 あれは魔力やら物理やらを用いた攻撃などではなく、単に存在感からなる圧によるものだ。

 それだけで災害に近い出来事をもたらすなんて、全てのドラゴンの頂点という称号は飾りなんかじゃないってことか。

 いや、この世界における頂点として名乗りをあげても決して不相応ではないだろう。


『ヘルヴァジータ……今は竜帝と名乗っていたか。彼奴は昔から他の者の心を掌握することに長けていた。おおかた甘い言葉に惑わされたというところであろう』


「お、恐れながら! 我々の行動理念は邪竜の思想に準じておりますが、決して(そそのか)されてというわけではございません! あくまで最も優れた種族ゆえに統治する責任があり、また現存する全ての者にとって、より理想の世界を築けるという考えに基づけばこそ」


 もっともらしい理由を並べて繕いを謀る1人のドラゴンだったが、どうやら逆効果だったみたいだ。


『竜族が優れているというのは疑いようのない事実だ。我らは創世神が生み出した最初の種族であるからな。では、創造主はなぜドラゴンという個体にこれほど強大な力を与えたのか』


 ドルコミィリスは如何にも壮大な物語の出だしのような言葉を口にした。

 だが正直いうと少し興味はある。

 実はこういった話を聞かされるのは子供の頃から嫌いではなかったんだ。


『限定的にしかこの世界へ干渉できない主の代行者としての役割を担うためだ。長い寿命の中で培った知識や強靭な肉体をもって、他種が過ちを犯した場合には導き、必要とあらば悪しき枝を剪定(せんてい)する。それは支配者などではなく、世に安定をもたらす礎とならねばいかんのだ』


 さすがここにいる誰よりも長く生きているだけあって視野が広く、言葉の深みも断然違う。

 もちろん支持したい意見だから少しばかり贔屓目に見てるという点は否めないが。


『創世神から授かった恩恵を持つからこそ、過酷な土地を生活圏とするのは自然な成り行きなのだ。他の種族と違い、我ら竜族ならば苦もなく暮らすことが出来るのだからな。真に強き者が万人に対してもたらすべきは表立った恐怖ではなく、影ながらの慈愛でなければならん。それが理解できたのなら、各々が自らの行動を恥じるがよい』


 ぐうの音も出ないドラゴンたちは皆すっかり項垂れてしまっている。

 まるで子供を叱りつける親のような説教だな。

 実際のところ被害を受ける側からしたらそんな微笑ましい話ではないのだが。


「全く年寄りはいつも話が長くてウンザリするわ。それとも寝惚けて上手く言葉をまとめられんのか、爺よ」


 スクレナはわざとらしく小指で耳の穴を掻きながら、明らかに気分が萎えた様子を見せる。

 お、おい、頼むからあんまり刺激すんな。な?


 だがそんな心配をよそに、竜王は不遜な態度を前にしても声高らかに笑うだけであった。


『相変わらず大物っぷりは変わらぬな、黒衣の娘よ。こうして幻体で顔を合わせるのも何度目だったか。お主も長く自由を奪われていたと聞くが、体の訛りはすっかり取れているようだな』


 向こうが知らないと思ったのか。

 忌まわしい事実に触れられ穏やかではなかったろうが、スクレナは心情を隠すように鼻で笑う。

 とんだ薮蛇だったみたいだな。


「ふん! お前は完全に回復するのがまだまだ先だろうに。時期が延びると分かりながら、なぜ貴重な魔力を消費してまで幻体を顕現させた」


『それは当然、仮初の体とはいえこの目で見て、話してみたかったのだ。生命の樹の実を食した人間がその力を用いた場合、どのような世界となるのかを知る為にな』


 そう言ってドルコミィリスは首を僅かに動かしこちらを向いた。

 何かの実と言ってたが、今の話って俺のことなのか?

 村の近くの山で採れる様々な木の実なら飽きるほど食べてきたけど。

 まさかそんなことで竜王が降臨するはずないよなぁ。


「お、おい! この男は違う! 余計なことを吹き――」




 珍しく動転していたスクレナがドルコミィリスの言葉を遮ろうとした途端に、周囲の者も含めて姿を消してしまった。

 いや、いつの間にか目に映る風景が変わっていることから、俺が他の場所へ移動したのか。


 ひと目で自分の知らない場所だということは分かった。

 それ程までに現実とはかけ離れた世界が広がっていたからだ。


 終わりが見えないくらい遥か先まで続く雲海に浮かぶ緑豊かな大きい島と、その中心に高々と立つ樹木。


 その島を囲むように並ぶ6つの塔は、それぞれの先端から強い光を放っていた。

 黄色、緑、水色、青、紫、赤……

 全ての色に違いがあるのは何か意味がありそうな気がするのだが。


 そしてとりわけ妙な部分といえばやっぱりこの空か。

 太陽と月が向き合うように存在し、昼と夜が綺麗に分かれていた。

 そんな地を俺は透明な足場でもあるように上空から見下ろしている。


『お主が目にしているのは歪みなき世界、その縮図だ。最もここは儂が作り出した精神世界であるがな。本物の肉体は変わらず元の場所に留まっているから安心しなさい』


 安心しろと言われてもなぁ……

 要は今の俺の体は魂が抜けたような状態で放置されているんだろう。

 無防備にも程があるし、落ち着けと言う方が無理なんだけど。


『ふむ……なるほど、このような歩みを……』


 って、聞いてないか。

 人の不安を他所に竜王は何を物思いに耽けるよう頷いているんだ。


『婚約者が聖女の力に目覚めたが故に道を分かたれ、挙句に他の男に奪われたとな。そしてその直後に闇の女王と出会い、虎視眈々とあのザラハイムの復活を画策していたと……短い間に随分と人生が急転したものよな』


 なんで俺の身に起きたことをこれだけ事細かに知っているんだ!?

 なんだか素っ裸をマジマジと見られるくらいの羞恥心に苛まれるじゃないか。


『今の儂とお主はいわゆる精神体とも言える状態だ。肉体という囲いを取り払い、剥き出しになった心は軽く念じるだけで読み取ることが出来るのだ』


 勝手にこんな恐ろしい所に連れてこられて、まるで過去に自分が書いた詩を朗読されるくらいの辱めを受ける。

 これはあれかな? 同族のセルラィンを打ちのめした仕返しなのか。


『いや、もちろん破廉恥な行いをしている点に関しては自覚もしているし、申し訳なくも思っている。しかし言葉で偽れぬ場所だからこそ都合がいいのだ。どんな手段を行使してでもお主の人生の軌跡を確かめたかったのだからな』


 俺の軌跡を?

 そうは言っても波乱に満ちた人生なんて、今しがた見た辺り以外には特別なことなどないはずだが。

 至って平凡な子供時代を過ごしてきたのだからな。


『確かに最も古い記憶まで遡ったが、裕福ではないにしろ平坦な道を歩んできたのがよく分かった。父親があまり出てこなんだが、母親や周囲の者から相応の愛を注がれながら育った故に性格の大きな偏りもなし』


 目をつぶり、天を仰ぎ見ながらドルコミィリスは語り出した。


『困難に直面している者を見ると手を差し伸べたくなる慈しみを持ち、自分よりも他人の為に最大限の力を発揮することが出来るが、だからこそ目上と判断した者がいると状況に流されやすい。おそらく自負心の弱さの表れだろう。掻い摘んで言えば、表裏一体の長所と短所を併せ持つごく普通の人間というところか』


 散々分析された結果が普通らしい。

 明日を生きられるかも分からぬこの時代の中において、擦れてないというなら最高の褒め言葉じゃないか。


『だからこそ――』


「え?」


『世界を変えうる程の力を持たせるのはあまりにも危険だということだ』


 ドルコミィリスの口元に光の玉が出現すると、すぐにそれが線に変わるほどの速さで俺の胸を的確に撃つ。


 完全に油断していた。

 しばらく差し向かって会話をしていた上に、殺気も感じられなかったから不覚にも気を許していたのか。

 同族の過ちを戒めたとはいえ、竜王が味方だなんて確証はなかったのに……




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