幕間 いざ新天地へ
常若の国に入国してからおよそ3ヵ月。
時々は故郷のヤディ村に顔を出していたとはいえ、肉体的にはほとんど時間が経過していないというのだから不思議なものだ。
もっとも10年、20年経たない限り、はっきりとした実感は湧いてこないが。
その間に俺はピクシー族の要望に応じて仕事をしながら、自分なりに研鑽を積んだ。
おそらく……いや、確実に周りと比較すれば戦闘における能力も経験も不足している。
これから先、少しでも皆の枷になる事態を避けられるようにしなくてはいけない。
そんな日常が最後となった夜、何気なく屋敷のリビングまで顔を覗かせてみる。
すると考えることが皆同じだったようで、馴染みのある面々が集合していた。
そして他愛もない雑談の末、それぞれが順番に自分の成果を発表する場へと化していった。
「自分は長年休止状態になっていましたノデ、キャローナに念入りにメンテナンスをしてもらった上デ、新たな形態になれるようパーツも換装して貰いまシタ」
例の石の件でレクトニオには機能に制限をかけてしまうが、それでもまだ見ぬものも含めてアシュヤの技術は心強い味方になる。
「レクトニオも言ってたけど、私は彼のメンテと石の管理や研究に時間を費やしてたかな。それと合間に作ったエルトの新しい義手だけど、不備があったらすぐに教えてね! 戦場では意図せずスクレナ様と離れちゃう事態もあるかもしれないし」
自分の仕事もあったろうに、俺が不便にしてるのを見てキャローナが作り直してくれた義手。
まだ訓練が必要だが、新たな機能を考案してくれたおかげで元の手と比べても遜色ないほど動かせるようになった。
「私が得意とするのは生命を司る水の魔力。そいつで生成した秘伝の回復薬は一級品さね。可能な限りたくさん用意したけど、もし足りなくなったとしても私の治癒魔術があるから安心しな」
マリメアのような治癒に精通した術士がいるだけで生存率は格段に上がるし、戦略の幅だって広げることが可能だ。
先日見せてくれた魔力探知の他にもまだ能力があるようなニュアンスだったし、彼女のサポートは必要不可欠と言えるだろう。
「某はひたすらに自分の長所を磨いておったぞ。刮目せよ! この鍛え抜かれた肉体美を!」
う、うん……言われてみれば張りが以前よりも増したような気もするけど、「美」ってどういうこと?
追求するところは果たしてそこでよかったのか。
「嫌だねぇ、これだから筋肉バカは。暑苦しいったらありゃしない」
「失礼な! 筋肉だがバカではないぞ」
デリザイトとマリメアが起こした悶着にキャローナの援護が加わる。
どうやら優勢なのは女性陣のようで、次第に巨漢はたじたじになっていった。
「エルちゃん見て見て! ピクシーたちがお花の種子から作ったヘアオイルを使ってみたの。おかげでウチの髪がこんなにツヤツヤになったよ!」
ある意味お前が一番すごいな! スズトラ。
なんでその結果報告で最後を飾ろうと思った!?
「もちろん次への準備は大切だが、気分を一新することもこの拠点へ戻った目的のひとつなのだ。それを踏まえれば各々が十分に効果を得られたと言えるのではないか?」
言われてみれば確かに。
俺は他人の魔力の程度を正確に読み取れるほど器用ではないが、それでも全員の質も量も格段に上がっているように感じる。
おそらく強化をしたというよりは、蓄積されていた疲れやダメージを解消して元通りになったのか。
スクレナが俺に、ここでは何もせず自由にしてろと言った意味がようやく分かった気がした。
この発言の際に従者たちの注目が主に集まったところで、今後の流れを再確認してみる。
まずは帝国領からの脱出。
目的地へ行くには山脈を越えなければならない。
しかしその前は疎か、あらゆる場所におそらく俺たちを捕らえるための封鎖線が敷かれているだろう。
何せ向こうからしたら、レジオラの村で帝国を相手に黒騎士が啖呵を切ったということになっているからな。
トトに乗って海中を移動すればいいという提案もあったが、スクレナはあくまで陸路を選択するという。
次に行うのは、山脈を越えた先で常若の国への新たな門を開くこと。
その骨格となる建造物は俺たちで作り、同行させるピクシーたちの力を持って完成させる。
そうして行く先々で繰り返していけば、今後は安全かつ迅速な移動が実現するということだ。
ただし特定の場所でのみ行えるとのことなので、これはあくまで可能ならばという程度である。
そして最後にすべきこと。
それはこれから向かう国から、正式に雇われなければいけないということだ。
大規模な戦場では所々で混戦となってゆとりはなくなるだろうが、ふとしたことで俺たちが身元の分からない一団だとバレたら。
双方からの挟撃に合う恐れだってある。
かと言って冒険者の登録プレートを提出して正式に手続きをしたとしても、独立した組織ゆえに情報は各所で共有されてるんだ。
ギルド側は問題なくとも傭兵の依頼元が軍である以上、今の情勢では帝国から来たばかりの者が弾かれるのは自明の理と言える。
いい案がないかもう少し熟考していたかったが、ケット・シーの外部偵察隊の情報では開戦の時が押し迫っているようだ。
手をこまねいているうちに終わってしまっては目も当てられない。
この件に関しての議論は移動中に行われる事となった。
以上の情報が共有されたのを示すように、耳を傾けていた者は皆一様に頷く。
まさか俺が村どころか帝国領の外にまで出る大冒険をすることになるとは。
しかもお供が闇の女王とその仲間だなんて、数年前の自分に話したとしても苦笑されるだけだろう。
だけどこうして現実にそれが起こっているんだ。
最早どんなことでも起こりうるという覚悟を持って足を踏み出さねばなるまい。
いざ行かん、新天地ラストリア王国へ。




