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第1章 2 奴隷狩り部隊ベレーザ強襲


             2


 クーナ族は昔から川べりで狩りをし、森に簡素な小屋を建てて移動しながら狩猟と採取を営んでいた。


 先頃、エルレーン公国から『聖堂教会』の伝道師がやってきて、彼らも同じエルレーン公国の民であると説き、食糧の援助や、定住するために役立つ方法などを考えてくれたりした。

 伝道師は三ヶ月に一度やってくる。

「きれいな水が豊富にある。換金できる作物は、亜麻を栽培するといい。食べ物は今のユカ、それにタロイモ。魚も干す他に燻製もいい」

 北方の出身の、熱心な伝道師で、村の長老と目されているまじない師コマラパと話し合い、安定して食べていけるようにといろいろ考えてくれた。

 また来ると約束して伝道師が帰って行ってから、一月が過ぎていた。


 この日までは、平穏な日々が過ぎていったのだった。


 急いで村に帰り着いた狩人たちの見たものは、悲惨な光景だった。


 ずたずたに切り裂かれ、重い物で押し潰されたような死体の山。しかしそれは老人と病人ばかりだった。女たちや子供たちの姿はない。

 家のあった辺りには残骸がくすぶっている。燃えかすを取りのけ、掘り起こしても、焼けた柱と壁土に埋もれて、消し炭しか見いだせない。


 キールは家にとって返し、探したが、一緒に住んでいた妹、スーリヤの姿はどこにもなかった。

 母親は十年前に熱病で、父親は五年前に怪我から高熱を出したのがもとで死んでいる。妹だけが、キールに残された肉親だった。

 キールは荒れ果てた村の中を歩いた。

 村の共同倉庫は打ち壊され、租税や万一に備えた食料や布、すべてが根こそぎかっさらわれていた。倉庫の残骸の前で、たたずむ男に出会った。

 村の男たちの中でも、一番腕の立つ狩人といわれるタヤサルだ。


 キールが駆けよったとき、近くで小さな物音がした。

 かすれた呻き声が、倉庫の残骸の中から聞こえてきた。

 タヤサルと、まもなく駆けつけた従兄弟のクイブロと、三人で残骸を掘り起こす。


 掘り出されたのは雨期に腰をいためて狩人をやめ、倉庫番をしていたパロポじいだった。身体の半分がつぶれている。白く濁った眼を何度もしばたかせ、涙を流している。

 老人は必死に何かを言いかける。

「赤いトカゲ……トカゲの旗……」

 

 突然、口から赤黒い血が溢れ出た。

 言いかけたまま、身体が痙攣し、前のめりに突っ伏して動かなくなった。


「もう、パロポの命は尽きていた」 

 背後で、乾いた声がした。

 まじない師コマラパだ。

「それでもなお、何が起こったのかを伝えようとしてくれたのだ」 


「赤いトカゲ…? トカゲの旗、って?」

 キールはコマラパを見た。

 呪術師の老人は苦い顔をしている。


 答えたのは、タヤサルだった。

「赤いトカゲの旗印を掲げ、灰色の騎龍に乗って。目をつけた村を襲っては略奪し、村人をさらっていくやつらがいる。抵抗するものは容赦なく殺す。まるで殺しを楽しむように。おれは小さい頃ヤツらに出会った。ここから山一つ向こうにあった、生まれた村が襲われたんだ。その時は男も女も、大人は皆殺しにされた。子供は連れ去られて、奴隷に売られた。おれはそのひとりだ」

 タヤサルが左肩を見せた。見たことのない印がそこにあった。皮を剥いだように白く、くっきりとあとが残っている。

「これはヤツらが奴隷につける焼き印のあとだ。奴隷は人間扱いされない」


「そんなひどいことを!」

 キールは言葉につまる。

 タヤサルにも妻子がいた。

 マチェというしっかりものの妻、子供の名前はタルウィ、まだ幼かった。

「……ちくしょおお!」

 腹の底から怒りがこみあげてきた。


          *


 広場の跡に集まった狩人たちにコマラパが告げた。

「村を襲ったのは《ベレーザ》だ。赤いトカゲを旗印に各地を荒らし回っておる。かつては南の大国グーリアの皇帝直属の軍隊だった。今は各地から民を狩り集め奴隷として売り飛ばすやつどもだ。やつらを追い、奪われた妻を子を取り返すのだ!」


 狩人たちはさっそく準備にとりかかった。


「キール、おれの家にこい。村外れにあったから少しはましだった」

 クイブロがキールに声をかけた。

 彼はキールの一つ年上、先輩狩人で、幼なじみ。

 妹のナンナがいて、スーリヤとも仲が良かった。


 村の家はどれも同じつくりで、椰子や茅を立てた柱に土壁、草葺き屋根で、家の中央に炉がある。


 クイブロは灰の中に埋めてあった小さな皮袋を取り出した。干し肉と煎った豆、あく抜きをした苦イモを煎った粒が入っている。狩人の携行食糧だ。


「ナンナは用意がいいからな。きっとスーリヤも普段からこんな準備はしていただろう。あいつらずいぶん仲がよかった。実の姉妹みたいに」


 互いの妹のことを話題にしながら、クイブロはしだいに口が重くなる。


「おれの家はつぶれていた。外から火がかけられてた。でも」

 言いかけたキールを遮り、

 クイブロは言いきった。


「死んでない。ナンナもスーリヤも生きてる。ぜったいに」



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