表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

第1章 9 逃亡せよ!青い瞳のナンナの指令

          9


「なんのことだ。おれは母の仇をうつために旅をしている。破壊行動などしていない」


『自覚がないのか』

 青い瞳のナンナは、肩をすくめた。

『おまえはベレーザの宿泊地や天幕を焼き払い、それだけでは飽き足らずベレーザの街の半分以上を復讐の炎に捧げた。身に覚えが無いとは言わさぬ』


「それは! ベレーザは奴隷狩り部隊だ。この大陸じゅうの多くの地域から人間を攫って本拠地に連れ帰り、奴隷として売っていた! 許されないことだっ。それに、闇の魔道師たちが味方していた! あいつらは、おれの母を殺した! おれは正義を」


『正義?』

 ナンナの瞳が、さらなる青に染まっていく。もはや人間の目の色ではない。精霊たちの目にしか見受けることのない淡い青色である。


『おまえの主張する「正義」を指示する為政者はいるのか?』

 冷ややかな声が、熱くなっていた銀髪の少年の胸を刺す。


「為政者? それが何を」


『国を統治する王は、国民に対して責任を負う。たとえば地震、噴火、大火事などの自然災害に襲われた地域があったとしよう。政府は人々を救わねばならぬ。でなければ為す術もなく焼け死に、飢えて死んだ民は、世界を呪う『瑕疵かし』、傷となるからだ。それは世界にとって好ましい状態ではない。たとえば水脈に毒が混入されたようなものだ。防がれ、あるいは癒やされねばならぬ。かつて世界が始まったとき、王達はそれを《世界》と約束した。誓いを破れば、人間の世界は滅ぶ』


「おれに関係あるのか?」

 銀髪の少年はいぶかしむ。


『おお、聖なる愚者よ。おまえはこの街を焼いた。人々の生命を生活を失わせた。つまり、おまえが災厄なのだぞ。ここは国境。エルレーン公国とグーリア神聖帝国の二国及び近隣諸国は使節を派遣する。この街を調査し原因を取り除くために。そのとき、おまえは彼らの前に立てるか』


「意味がわからん」


『街を焼いた原因を突き止めねば調査団は帰国できないからな。おまえを犯人として捉えて本国で裁判にかけ処刑するか、または捕らえるのが困難であればここで、現行犯逮捕と同時に殺す』


「バカな! なぜだ、奴らが先に」


『だが、おまえは現に街を焼いた。ヒトを殺した。母親ひとりの仇を討つために、ほぼ関係ない多数の人間を葬り去るのがおまえの正義なのか? そしてなおも満たされず、これからも殺し破壊し続けるつもりだろう?』

 ナンナは呟いた。

『それでは天秤が傾いたままだ。看過することはできぬ』

 そして、また、少女はほうっと息を吐く。

『せっかく隠れ住まわせていたのに。調査団など来られては台無しだ』


「なんのことだ」


『おまえのことでは無いよ、ジークリート』


 ひゅっと、銀髪の少年の喉が鳴った。

 名乗っていない真実の名前を、ナンナという少女が口にしたのだ。

 すると銀髪の少年が纏っていた黄金の炎が高く上がり、ナンナに襲いかかった、またはそのように見えた。

 しかし次の瞬間、黄金の炎は弾け、飛び散った。


「う! グルオンシュカ!」


『炎の聖霊スピリットの名を、それ以上は口に上らせてはいけない』

 ナンナは手のひらを差し上げて少年を制した。


『そこでわたしからの提案だ。少年、おまえの逃亡を助けよう。そのかわりにしてほしいことがある』


「何をやらせるつもりだ」

 相変わらず不信感に満ちた少年である。

 この会談を見守っているキールとクイブロは、気が気ではなかった。

 同席しているコマラパは案じていないようであったのだが、キールたちにそこまで気を回すゆとりはなかった。


『大したことではないよ』

 ナンナは笑みを浮かべる。

『交換条件だ。クーナ族の村で匿ってきた二人の子供を。キールとスーリヤを共に連れて逃げてくれ。二人は生粋のクーナではない。身元を調べられては身に危険が及ぶ。それは、おまえも同じだろう?』


「……だが。おまえたちは一緒に逃げないのか? 匿ってきたんだろう?」


『全員が逃げてしまっては追っ手の引っ込みがつかない。どこまでも追うだろう。追い詰めて捕らえるか殺すかするまでは。だから私は囮になる。その代わりに二人を逃がしてくれ。行き先も用意してある』


 そこでコマラパを見やる。

 コマラパは無言で進み出て、麻布に炭で描かれたとおぼしい文字を見せ、そして今一つ、柔らかな皮でできた小さな巾着袋を差し出した。

 僅かに、重みを感じる。

 銀髪の少年が皮袋の中身を手のひらにあけて確かめる。

 指先ほどの、金の粒が、二、三十ほど入っている。


「しばらくはもつだろう。決して、袋ごと他人に預けてはだめだ」


「これをなぜおれに」


「ナンナの言葉を聞いただろう。キールとスーリヤを逃がすためだ。我々クーナ族は、どうとでもできるが、あの二人は、そうはいかん」


『行き先はここに記してある。エルレーン公国の端にある土地で静かに暮らしている老女がいてな。懇意にしているのだ。そこへキールとスーリヤを連れて行ってくれ』


「おれはまだ頼みをきくと言ったおぼえはないぞ」


『頼みではない』

 ナンナの笑みは、凄みを漂わせた。

『命令だ。おまえの炎、グルオンシュカに命じている。そこで余生を送っている老女は、おまえのことはともかく、何よりもスーリヤを助けてくれるだろう』


「そうするしかなさそうだな」

 銀髪の少年、ジークリートは引き受けることにしたようだ。

「だが、頼っていくのだ。彼女の名前くらいは教えてくれ」


『彼女の名は……ルーナリシア・エレ・エルレーンだ。頼むぞ。我らはここで、エルレーン及びグーリアの使者たちを引きつけておくからな。面倒くさいが、いたしかたない』

 嫌そうにナンナは言った。


『くれぐれも頼むぞ』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ