ピアス
一目惚れ、なんて陳腐なものはない。
ただ、その一瞬に恋は落ちるものだと、私は初めて知った。
「直刺しにする?斜め刺しにする?」
と訊くマサヤの長い髪がサラサラと揺れて、私の顔にかかる。
「え?」
困ったように眉をひそめる私をマサヤはいたずらっぽく睨んで
「斜めに刺したほうがかっこいいけど。」
と、ピアッサーを取り上げて、つと私の左耳にあてがうと「バチッ」と硬い音がして、気付けばもう有無を言わさず、耳朶に鈍色の丸いピアスが斜めに突き刺さっていた。
二十四歳のクリスマスの夜、私とマサヤは出逢った。
クリスマスの熱に浮かされて、ひとりぼっちの私は少しばかりおかしかったのかもしれない。
ゲームセンターでたむろする若者の群れ。
その中で、シルバーのピアスの輪をしゃらんと揺らして、無造作に長い髪をかきあげるマサヤの拗ねたような瞳と私の瞳がかち合った。
ほんの一秒かそこらの瞬間。
私達は恋に落ちた。
一目惚れ、なんて陳腐なものじゃない。
ただ、その一瞬に、恋は落ちるものだと、私は二十四になって初めて知った。
十八で高校生のマサヤと二十四で社会人の私は、出逢ったその日に、ホテルのベッドにお行儀よく並んで寝そべっていた。
何をするでもなく、ただ、どちらからともなく手を繋いだ。
温かい二人の体温が繋いだ手を通して混ざり合った。
「犯罪?」
とマサヤが言って、くつくつと笑った。
その日の夜から、私達は毎日逢瀬を重ねた。
昼間は仕事がある私と、冬休みだけどバイトに忙しいマサヤが逢えるのは、決まって夜も更けてから。待ち合わせ場所は、例のゲームセンターの駐車場。マサヤは原付で現れると私の車に乗り換えて、夜の街を走る。
ポツリポツリとかわすなんてことのない会話。
時たま黙り込む二人の沈黙すらいとおしかった。
出逢ってからもうはや一週間。正月を迎えようという夜、私はマサヤにピアスの穴を開けてくれるようねだった。
事前に、マサヤから「ピアスを開けるにはピアッサーが一番安全。」と聞いていた私は、昼間にドラッグストアで、シルバーの丸いピアッサーを購入し、用意していた。
ーバチッー
硬い音と共に、あっという間もなく、ピアスが突き刺さっていた。
「あのさ、オレ、卒業したら東京行くわ。」
薄暗い団地の一角に停めた車の中で、マサヤの不意の言葉。
擦り切れるほど聴いた流行歌のテープがしんとした車内に虚しく流れ続ける。
「…そうなんだ。」
「ごめん…。」
「なんで謝るの?」
「だって。」
「東京行って音楽やるんでしょ?いつかマサヤの歌声聴くの楽しみにしてる。」
「うん…。」
夜の静寂の中、二人共、並んで真っ直ぐ前を見ていた。
「自分も、自分の信じた道を、行って。」
マサヤがいつになく真面目な声でポツリと呟いた。
現在、二人の前に別々の道が、一筋の白い軌跡を描こうとしていた。
「痛っ。」
開けたばかりのピアスの穴が甘く疼いて、私は思わず耳を塞いでいた。
※連載中の小説「~アーバンジプシー~」のアナザーストーリーです。
過去の恋愛の甘い疼きを作品にしてみました。
自身初めての恋愛をテーマにした短編作品です。
過去の甘い疼きに想いを馳せて。
ご一読ありがとうございました。
作者 石田 幸