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第九話


時刻は深夜を回った頃。


アルチナとローゼンの二人は、廊下の柱に隠れるように立っていた。


以前、アルチナが不審な赤い服の女と出会った場所であり、二人の視線の先には高そうな壺がある。


「昼間の聞き込みの結果、犯人は下着以外はあまり価値も無い小物ばかりを盗んでいたようだ」


「…唯一の例外は、私の壺だけ」


「そう。つまり、犯人はどうしても壺を欲しがる理由があった」


アルチナの作った壺にどんな価値を見出したのかは不明だが、犯人には盗む理由があった筈だ。


ならば、別の価値がある壺も盗まれる可能性が高い。


そう考えたアルチナに従って、二人で見張りをしている訳だ。


「にしても、来ないな。もう今日は来ないんじゃないか?」


「盗人とは夜に生きる者。人の居なくなった今こそ、奴らの時間よ」


「って言っても、アンタの壺が盗まれたのは昼間だろう?」


「…それもそうね」


言われてみれば、とアルチナは前言撤回する。


最近の盗人は日の出ている内にも活動するらしい。


「でも、妙な話だよな」


「何がよ?」


「アンタの言う通り、物を盗むなら人目に付きにくい夜が良いに決まっている。なのに、犯人が活動している時間帯はバラバラだ」


アルチナのように昼の場合もあれば、夜中に盗まれた場合もある。


不思議な話では、部屋で談笑していたにも関わらず気がつくと盗まれていたと言う話もあった。


まるで妖精か何かの仕業かのように。


「…まさか、魔法?」


「可能性は高いな。誰にも気付かれず、望む物を盗み出す魔法か」


ローゼンは実力はともかく、知識だけなら人並み以上にある。


幾つか候補は上がるが、やはり実際に見てみないことには何とも言えない。


「うーん………イテッ」


思わず柱の影から出て考え込んでいたローゼンは、突然背中に衝撃を感じた。


続けてドスン、と尻餅をつくような音も聞こえる。


「痛たたた…」


「…うん? あ、失礼。ぶつかったか」


「い、いえいえ、こちらこそ前をよく見ていなくて…」


差し出された手を握りながら、その女は起き上がる。


暗い夜闇の中でも目立つ、マタドールのような赤い服を着た女だった。


派手に転んだことをやや恥ずかしがりながら、ローゼンの顔を見る。


「こんな夜更けに一人で何しているんだ?」


「ええ、私はですね………」


苦笑しながら正直に答えようとして、赤い服の女はハッとなる。


驚いたように目を見開いて、自分の身体を確認している。


「し、しまった!? 魔法が解けてる! しかも姿を見られた!?」


「どうかしたのか?」


「ヤバいです、ヤバいです。どうしようどうしよう…!」


何やらパニックに陥った様子で赤い服の女はローゼンの顔と、近くにある壺を交互に見ている。


「…本当にどうしたんだ?」


「鈍いわね、ローゼン君。状況を考えれば、すぐに分かることよ」


困惑するローゼンに、アルチナは落ち着いた様子でそう告げた。


今だパニックになっている赤い服の女を指差す。


「彼女が、この事件の犯人よ」


まるで探偵のようにアルチナは宣言した。


自信満々の表情を浮かべて。


「…確かに少し不審だが、それだけで犯人扱いは」


「疑わしきは罰せよ、と言う言葉があるわ」


(疑わしきは罰せず、だと思う)


内心突っ込むローゼンだったが、アルチナは止まらない。


青い顔をしている女に向かって、近付いていく。


「犯人かどうかなんて拷問でも何でもして吐かせれば良いのよ! 私の壺の在り処を教えるまで、何日だって拷問を続けてやるわ!」


(魔女が魔女裁判しようとしている)


犯人を見て怒りが抑えきれなくなったのか、アルチナは完全に冷静さを失っていた。


「ッ!」


今にも襲い掛かってきそうなアルチナを見て覚悟を決めたのか、赤い服の女は赤い旗を掲げる。


「よ、よくぞ私があの壺を狙っていると気付きましたね! そう! 私こそ、今学院を騒がせている大悪党なのです! 名前はですね。えーと、怪盗…」


「私の壺を返しなさい!」


「壺? 壺はまだ盗んでは……ああ、昼間に盗んだアレですか」


何を思い出したのか、赤い服の女は苦い顔を浮かべた。


「あの壺は金銭的な価値はゼロだったので、正直盗んだことを少々後悔して…」


「…決めた。あの女はヨボヨボのお婆ちゃんに変えて山に捨てる」


アルチナの眼に殺意が宿った。


殺気を感じたのか、赤い服の女はブルっと身体を震わせた。


「う、うう…強者のオーラを感じる。で、ですが! 怪盗は一銭の価値にもならない戦いはしないのです」


そう言うと、赤い服の女は杖を改造した旗をバサバサと振り回した。


「出ろ出ろー! 『サモン=ウェポン』」


旗の間から、小型のナイフが数本飛び出した。


「ッ! 『召喚術サモン』…!」


飛んで来たナイフを魔力で強化した腕で叩き落としながら、アルチナは呟く。


召喚術サモン


ここでは無いどこかから、物体を召喚する魔法分野だ。


空間を超越した魔法であり、使用には高い才能を必要とする希少な魔法だ。


「この隙に…『テレポート』」


「なっ…!」


旗を大きく掲げた瞬間、女の姿が消えた。


(…自分自身を転移させるテレポートまで習得していたのか)


ローゼンは先程まで女が立っていた場所を見つめながら、考える。


召喚術の中でも上位に位置するテレポートまで習得しているとは思わなかった。


まんまと逃げられてしまったか。


(いや、逃げたのか…本当に?)


相手は一瞬で空間を移動できるテレポーターだ。


逃げるのも簡単なら、帰って来るのも簡単な筈だ。


あの女はローゼン達に姿を見られた。


コレで何も得ずに逃げ帰れば、損をするだけだ。


「壺は…」


ローゼンは急いで壺の近くへと駆け寄る。


もし、ローゼンが彼女なら壺のすぐ近くにもう一度テレポートする。


そして、犯人は逃げたと安心していたローゼン達の隙をついて壺を持ってテレポートするのだ。


ローゼンの推測が正しければ、彼女が現れるのはもうすぐ…


「ちょっ!? 何でこっち来るんですか!? お願いだから来ないで下さーい!?」


(…うん?)


何故か、焦ったような声が聞こえた。


「あーもー! こうなったら後には引けません! あなたごと、この壺は盗ませて貰いますよ!」


「え…」


何かを言おうとした瞬間、ローゼンは頭に衝撃を感じた。


痛みに呻く間もなく、その意識が闇に沈んでいく。


「『テレポート』」


再び呪文が唱えられる。


壺も、ローゼンの姿も、跡形もなく消える。


「………え?」


残ったのは、訳が分からず首を傾げたアルチナだけだった。








「つまり、壺と共にローゼンも誘拐されたと?」


翌朝、学院長室にて学院長は呟いた。


部屋には高そうな椅子に座った学院長、報告に来たアルチナ、その場に居合わせた錬金術の女教師がいた。


「犯人はテレポートを使用していたわ。ローゼンを殴って意識を奪い、壺のついでに誘拐したみたいね」


「テレポート。召喚術、か。他に特徴は?」


学院長はダイヤが散りばめられた杖を磨きながら、尋ねる。


「マタドールみたいな恰好をした女よ。目立つからすぐに分かると思うわ」


「…先生」


「はい。すぐに召喚術の講義を受けた生徒を中心に調べてみます」


そう答え、女教師は何かの書類を取り出した。


生徒の名簿か何かだろう。


「さて、この学院の先生は皆、優秀じゃからな。すぐに犯人の身元は分かるじゃろう」


よっこいせ、と椅子から立ち上がりながら学院長は言う。


「…? どこへ行くのよ?」


「何、少し散歩のついでに…」


ニッコリと笑みを浮かべる学院長。


「儂の愛息子を誘拐した愚か者をダイヤモンドに変えてやるだけじゃよ」


「や、やめて下さい!? 学院長が暴れたら、校舎が全部ダイヤ化してしまいます!」


「ええい、止めるなぁ! 離せぇ! お前もダイヤモンドに変えるぞ!」


「怖ッ! この人怖ッ! あの子にしてこの親あり!」


半泣きの女教師に羽交い締めにされながら、学院長は杖をブンブンと振り回す。


その度に杖から光が放たれ、部屋の家具をダイヤ化していく。


「…やれやれ。こっちは期待出来そうにないわね」


混沌とした学院長室から出ながら、アルチナはため息をついた。

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