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第七話


「学院長の息子? ローゼン君が?」


「ローゼン君って、面白いけど魔法の才能は全然無い人だと思ってたのに…実は演技だったとか?」


「でも、親子って言うのには少し年が離れ過ぎのような…」


「服の趣味は似ているよね。あの奇術師みたいな恰好」


学院長の爆弾発言から、教室の騒ぎは収まらなかった。


それを収める筈の女教師は、顔を青くしたり白くしたりして放心状態のまま帰って来ない。


混乱していないのは、張本人である学院長とローゼン。


以前、ローゼンから事情を聞いていたクラーメルだけだった。


「…はぁ。俺が必死に隠していたことをあっさり暴露しやがって、このクソ親父」


深いため息をついて、ローゼンは自身の父親である学院長を睨んだ。


周囲にこう言う反応をされたくなくて、今まで隠していたのに。


これまでの努力が台無しだ。


「心配して様子を見に来たのじゃが、大丈夫そうだのう」


「心配?」


「ほら、お前は昨日行方不明になったばかりじゃないか」


「…ああ」


言われてみれば、帰ってきてから一度も学院長の所に顔を出していなかった気がする。


息子から見ても、お人好しで心配性で子供好きの男が黙っている筈も無かったか。


「ん? でも、昨日アンタの所にアルチナが行った筈だろう?」


「まあの。ぶっちゃけ、彼女から大体の事情と経緯は聞いておる」


「…だったら、何で来た」


「暇なんじゃよ、意外と。と言うか、儂ももっと子供に関わりたいのじゃ!」


ダイヤモンドを散らばせた成金趣味の杖をカツン、と鳴らして学院長は叫んだ。


「学校の先生になれば、子供に囲まれて生活出来ると思ったからこの職に就いたのに! どうして儂の仕事はいつもいつも学院長室に篭るだけなのじゃ!」


いい歳して子供のようなことを言う学院長。


言動はやや怪しいが、別にロリコンと言う訳では無い。


かなりの子供好きで、子煩悩なだけだ。


「………」


頭痛を抑えるように、ローゼンは額を抑えた。


アルチナや女教師をマイペースに振り回していたローゼンだったが、この男には敵わない。


「あ。良いこと考えたのう。次から錬金術の授業を儂が受け持つと言うのは…」


「「絶対ダメ」」


いつの間にか起きていた女教師とローゼンの声がハモった。








「この壺。結構な年代物ね…」


学院の廊下に飾られている壺を眺めながら、アルチナは呟いた。


一時的に学院で暮らしている身とは言え、生徒では無いアルチナに受ける講義など無い。


暇を持て余したアルチナは新しい壺を作る為の材料を求めて、学院内を探索していた。


「値段もそれなりにしそうだけど、少しデザインが気に入らないわね。私が作るならもっとこう…」


ぶつぶつと呟き、アルチナは色々な角度から壺を観察する。


「素材は…魔力を含んだ土か。錬金術で作ってあるわね」


含まれる魔力は相当な物だが、素材自体はその辺の土のようだ。


コレくらいなら、今の手持ちの素材でも作れるだろう。


愛用する壺にはそれなりに拘りを持つアルチナだったが、いつまでも魔法が使えないままと言うのも落ち着かない。


本命はともかく、一度壺を作っておくのも…


「コレ、そんなに高い壺なのですか?」


その時、アルチナの背後から声が聞こえた。


壺に夢中になっていた間に通り掛かったのか、そこには一人の女がいた。


真っ赤な生地に黄色の刺繍が施された、とにかく派手な服を着た女だ。


細長い杖には赤い旗が付いており、全体的に闘牛士マタドールのような風貌。


装飾品は殆ど着けていないが、右手に何の飾りも無い鉄の指輪を付けている。


年齢はローゼンと同じ十七歳くらい。


体型はスレンダーで少々痩せ気味だ。


(…あの少年と言い、この学院の生徒は魔法使いを何だと思っているのかしら)


明らかに魔法使いには見えない恰好をしている女に、アルチナは内心呆れる。


アルチナのような如何にも魔女らしい恰好をしろとまでは言わないが、せめて魔法使いにも見える恰好をして欲しい。


「あの、先程から熱心にその壺を見ているようでしたが?」


「…何でも無いわ。そうね、この壺の価値なら…」


チラッと壺を一瞥し、アルチナは赤い服の女に顔を向ける。


「コレ一つで十年は遊んで暮らせるんじゃないかしら?」


(人間の金銭感覚はよく分からないから、多分だけど)


学院長との交渉で知った金銭感覚から、壺の価値を口にするアルチナ。


「そ、そんなにですか? こんな、何でも無い所に置かれている壺が?」


予想外だったのか、少し震えながら赤い服の女は壺を凝視する。


これ程の品を特に見張りもつけずに放置している辺りが、学院長の金銭感覚を表しているようだ。


いや、もしかしたら何か見えないように魔法で監視しているのかも知れないが。


「そう、ですか。壺って、高いんですね」


「…?」


何故か含みがあるように赤い服の女は言った。


その眼はアルチナの方は向いておらず、真っ直ぐ壺を見つめている。


何だろう。


アルチナのそれほど長くない人生経験的に、この女は良からぬことを企んでいるような気がした。


「ふふ…ふふふふ…」


「………」


まあ、気付いた所で何もしないのだが。


怪し気に笑う赤い服の女を不審に思いながらも、アルチナは放置して立ち去った。


あんな生徒よりも、優先すべきなのは壺だ。


壺が無ければ、時の魔法は使えない。


早く新しい壺を作って、あの少年に復讐するのだ。


壺を割った件は水に流すと言ったが、それはそれ。


あの少年が個人的に気に食わないことには変わりない。


試作壺の試し撃ちには丁度良い。


「ふふ…ふふふふ…」


ローゼンが泣いて謝る所を想像して笑みを浮かべるアルチナ。


奇しくもそれは、アルチナが不審に思っていた赤い服の女と似たような笑みだった。

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