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第三十六話


「ははは! あはははははは! 久しぶりじゃねえか! アルチナ!」


蘇ったランクルは狂ったように笑う。


病的に細い肉体も、色素の無い白い髪も、その身に纏うボロボロのローブさえも、強い魔力を放っている。


肉体から服に至るまで、あらゆる物が魔力で作られているのだ。


「六百年ぶりだなぁ! オレの顔を覚えているか? なあ、アルチ…」


「死ねェ!」


「ぎゃああああああああああ!」


不愉快な笑いを続けるランクルへ、魔力の光が放たれた。


一切の容赦も躊躇もなく魔力を放ったアルチナは大きく舌打ちをする。


「ちょ、おま…! 六百年ぶりに会った因縁の相手に、開幕ぶっぱかよ!?」


「チッ! やっぱり効いていない! ローゼン! 杖を寄越しなさい! 全力でこの外道を消すから!」


「話聞けよ!」


ランクルは怒ったように叫んだ。


悲鳴を上げていた割に、大してダメージを受けていないように見える。


「もっとオレに聞きたいことあるんじゃねえのかよ! どうやって蘇った! とか! 何を企んでいるんだ! とかさァ!」


「聞くまでも無いわ。その腐った口を閉じなさい、墓地に送り返してあげる」


「…なーんだ。全部気付いているのかよ」


憮然としたアルチナの言葉に、ランクルは冷ややかな笑みを浮かべた。


言うまでも無く、一目見ただけでランクルの正体には気付いていたのだ。


「アルチナ。アイツはまさか…」


「そのまさかよ。アイツは魔女喰いのランクル。一度死んで、ゾンビとなって蘇った死者よ」


「簡単に言ってくれるねェ。これでも結構苦労したんだぜ?」


けらけらと笑いながら、ランクルは言う。


「六百年前に処刑された際、ほんの少しだけ魔力と共に魂を残すことには成功したが、悪霊以下の怨念だけの存在だった」


人に取り憑くどころか、自我を持つことさえ出来ない悪霊未満。


ランクルはその状態で六百年以上の時を過ごした。


「形を得たのは、一年前。どこぞのネクロマンサー見習いが一人で練習を行った際、偶然猫の死骸にオレの魂が宿った。ははは! 世界を滅ぼし掛けた魔物様が、お猫様だぜ? 笑えねえよ!」


「…それがケット。ってことは、ロジェは」


「ハッ、オレの肉体を作るって役目は終わったからな。あの小娘も用済みだ」


興味なさげに、ランクルは吐き捨てた。


その言葉に、ローゼンは目を見開く。


「…娘のように思っていたんじゃなかったのか?」


「本気でそんな感情がオレにあると思ったのか? このランクル様に? ははははは! 笑える」


ランクルは嘲笑を浮かべた。


ちょっと甘い顔をすれば、善人と勘違いする若造達を馬鹿にしたように。


「コイツは昔からこう言う奴よ。その腐った性根は、死んでも治らなかったようね」


「おいおい、これでもオレは少し反省しているんだぜ? 生前は好き勝手やり過ぎたってな。力を得て調子に乗って目立ちすぎたから、オレの天下は一年も持たなかった」


「………」


「だから今回は慎重になった。全ての準備が整うまで、全ての材料が揃うまで、息を潜めて目立たないように気を付けていたのさ」


ランクルが前世の経験から学んだことは、魔法の力は絶対ではないと言うこと。


例え世界最強の魔法を手に入れたとしても、判断を間違えれば殺されると言うこと。


だからこそ、今回はその失敗は犯さなかった。


「派手に行動するには肉体が要る。取り合えず、魔力を集めるには魔法学院と言う環境は好都合だったから適当に未熟な魔法使いを唆して魔力をばら撒いて貰った」


「ただ魔法が関わるトラブルが起きれば失敗しようが、成功しようがどうでも良かったのね…」


「そう言うこと。まあ、概ね計画通りだったが、流石にオレの肉体を作る為に必要なゾンビパウダーを盗まれた時は焦ったな」


膨大な魔力を用意しても、それだけでは肉体を作れない。


ネクロマンサーであるロジェの用意したゾンビパウダーを使い、自身の遺体を作成する必要があった。


「ペドロに盗まれたなら、どうやってその身体を…」


「アイツはゾンビパウダーを学院中にばら撒いた。それは人々の雑念を吸って亡者となったが、まだ取り除かれずに残っている」


学院を騒がせていたゾンビ達は消えたが、それは形を失っただけだ。


微細なゾンビパウダーを未だ残留し、学院中を漂っている。


「つまり、それを使って骨を作り、魔力で肉付けをした。多少強引にな」


ランクルは手をひらひらと振った。


すると、その手から粉のような物がサラサラと大気中を流れる。


強引に作り出したと言うのは本当のようだ。


「…完全な死者蘇生など、上手く行く筈がない。あなたのそれは、亡者同然。数日と持たない脆弱な器よ」


「ははははは! 十分過ぎるな! それだけあればオレは、オレの目的を果たせる!」


「お前の目的って…」


「おっと、少年。悪いが、そろそろ時間だ」


ローゼンが詳しく問い詰めようとした時、ランクルが手で制した。


ランクルの顔が喜悦に歪む。


「このオレが、何故こうも長々とオレの計画を懇切丁寧に教えてやったと思う?」


ぐらり、とアルチナの身体が崩れ落ちる。


それを見て、ランクルは更に深い笑みを浮かべた。


「時間稼ぎだよ。阿呆共」


「ぐ、ううう…!」


倒れたまま、アルチナは呻く。


手足が動かない。


全身から発せられる高熱に意識すら歪む。


「アルチナ!」


(そう、か…私が感じていた違和感の正体は…!)


自身を襲う異変の正体に気付いた時、アルチナの意識は闇の中に沈んでいった。


「『ゾンビ』とは、本来死者のみを差す言葉では無い」


「お前、アルチナに何を…!」


「ゾンビパウダーとはゾンビを作り出す毒薬。死者を亡者ゾンビに変え、生者を奴隷ゾンビに変える」


三日月のような笑みを浮かべたまま、ランクルは言う。


死者に偽りの命を与える毒薬は、生者からも自我を奪い、生きたまま奴隷ゾンビに変える。


「お、前…」


「もし、学院中の人間がオレの奴隷になったら面白いとは思わねえか? 魔法を使える将来有望な奴隷共がオレの為に世界を滅ぼす! 六百年前と同じ結果にはならねえ!」


前の戦いの時は、ランクルの下に魔法が使える下僕はいなかった。


魔女によって与えられた魔法で戦う人間達に対し、対抗できたのはランクルだけだった。


だからこそ、ランクルは敗北した。


「ニャーッハッハッハ! 夜明けと共に始まるぜ! このオレの世界征服の夢が!」


ランクルは笑いながら空へと飛びあがる。


呆然とするローゼンを置き去りに、森の奥へと消えていった。

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