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第二十六話


「だーかーらー! ヘラはもう、そう言う人様に迷惑をかけるようなことはしないんだってば!」


憤慨したように腰に手を当てて、ヘラははっきりと告げた。


「本当にそれで良いのか? お前の魔法は人を操り、支配する為にある。才能が勿体無いとは思わねえか?」


「思いませーん! もうヘラに構わないでよー!」


黒いフードを被ったケットに対し、ヘラは杖を向けた。


「ヘラは改心したのです。ヘラが間違った時は、クラ先輩が教えてくれるから。だから、ヘラはクラ先輩が駄目だって言ったことはもうしないって決めたのー」


まだ精神的に未熟なヘラには善悪の判断が曖昧だが、それでもクラーメルが自分を想って叱ってくれていることは理解している。


そして、目の前の男が企みが、何か悪いことであることにも薄々気付いていた。


「お前には夢があったんじゃねえのか? お前は何の為に魔法学院へ入学した?」


「それは…」


ヘラは口を閉じ、思い出す。


そもそも、ケットの誘いに乗った理由。


ヘラの求めた夢を。


「もう、叶っちゃったからー」


「…何?」


「ヘラはね、きっとヘラの魔法が効かないような人を求めて学院に来たんだー。魔法なんかに惑わされず、ヘラ自身を見てくれるような人を」


ヘラは僅かに頬を赤らめながら夢を告げる。


昔から何でも魔法で解決してきたヘラが、無意識のうちに求めていた存在。


それを探す為に、ヘラはケットと手を組んで大勢の人間に魔法を掛けていたのだ。


「つまり、何だ? お前は、出会いを求めて学院に来た、と?」


わなわなと震えながら、ケットは尋ねる。


「そうだねー! そう、ヘラはクラ先輩って言う王子様を求めてこの学院に入学したんだよー!」


ポン、と手を叩きヘラは恋愛脳全開なことを口走った。


「うがああああああ! お前、学校舐めてんのかー! 学校は魔法を学ぶ為に入学する場所だ! 出会いなんて求めて入学するんじゃねえ!」


「でも、クラ先輩だって、魔法が嫌いで授業サボったりしているよー?」


「どいつもこいつも! 最近の若いのは、熱意が足りねえ! このゆとり共が!」


まるで世を嘆く熱血教師のようなことを口走るケット。


ヘラやクラーメルの態度に、何か譲れない所があったのだろうか。


「たっく、オレの若い頃は魔法を学ぶだけでも苦労したってのによぉ…」


「若い頃?」


「…何でもねえ。もうお前には頼まねえよ」


ブツブツと文句を言いながら、ケットはその場から去った。








「………」


アルチナはタトゥーシールを眺めながら、考え込んでいた。


コレを付けられ、魔力が暴走したメディ。


それを感じ取ったからこそ、アルチナはローゼンに声を掛けられる前から屋上へ向かっていた。


メディから放たれる魔力から『懐かしさ』を感じたからだ。


「…コレは」


このシール自体はマジックアイテムに過ぎない。


だが、コレを作った物は恐らく魔女を知っている。


貼り付けた者の魔力を増幅させるマジックアイテム。


そうローゼンには教えたが、少し違う。


厳密には、コレは貼り付けた者を『魔女に変える道具』だ。


「一体、誰が…」


アルチナ以外に魔女の生き残りがいたとは考えていない。


何故ならアルチナ以外の魔女は六百年前に既に、


残らず、死に絶えたのだから。








「ローゼン、コレはどうだい?」


「駄目だ。それは毒草だ」


魔法学院の敷地内にある森にて、ローゼンとクラーメルの二人は植物採集に来ていた。


度々クラーメルが適当な草を抜いては、知識豊富なローゼンに確認を取っている。


「ローゼン、コレは?」


「それも毒草だ。気を付けろ、口に咥えるだけで全身が麻痺するぞ」


「…さっきから僕が取るやつ、毒草ばかりなんだけど」


少し気落ちしながら、クラーメルは手にした毒草を放り投げた。


ローゼンの錬金術に使える素材を探しているので、毒草は必要無いのだ。


確かに、毒を作ることを専門にしている錬金術師もいるが、ローゼンは違う。


万能薬エリクサー作りを目標としているローゼンは、いつも薬作りを専門としている。


「ところでローゼン、魔法解除薬とか作れない? ヘラに使おうと思うんだけど」


「…あー」


まだその勘違いは続いていたのか、とローゼンは苦笑を浮かべる。


まあ、見ていて面白いので敢えて誤解は解かないが。


「惚れ薬ならともかく、それは無理だな」


「…だよねぇ。って言うか、惚れ薬も作れるのか」


「実際に作ったことは無いがな」


まず使う相手がいない。


適当に取った薬草を籠に放り込みながら、ローゼンはそう呟いた。


「あのアルチナさん、とかは?」


「確かにアルチナは美人だが…」


「ローゼンって意外と年上好きだよね。何か同年代相手にしている時よりも態度が親し気になるって言うのかな…」


「…そうか?」


自覚は無いのか、ローゼンは首を傾げる。


確かに、年上の女性を相手にしている時は、亡くなった母親を思い出すせいか、少々馴れ馴れしくなっている癖があるような気もする。


「…まあ、どちらにせよ。年下好きのお前よりはマシだと思うが」


「不可抗力だよ、僕の場合は! そもそも僕は別に女の子なんて…」


言いかけて、クラーメルは言葉を止めた。


その視線の先、森の奥から一人の少女が顔を出したからだ。


「………」


腰まで伸びる銀に近い白い髪。


青と白のエプロンドレスを纏い、二本の青いリボンを頭に着けている。


どこかウサギを思わせる容姿の少女は、その赤い眼で二人を見ていた。


「…おい、俺の後ろに隠れるな。クラーメル」


「任せた。ローゼン」


知らない女の子を見たせいか、そっとローゼンの後ろに隠れるクラーメル。


年下ヘラの相手は慣れたようだが、まだ女性恐怖症は治っていないようだ。


「その人、どうしたの…?」


「あ、ああ、悪いね。このお兄さん物凄くシャイだから君を見て照れてるみたいだ」


「…?」


未だ小首を傾げている白い少女。


「俺はローゼン。こっちはクラーメルだ」


愛想の良い笑みを浮かべて、ローゼンは言う。


「………私、ロジェスティッラ」


「ロジェス、何て?」


「ロジェ、で良い」


表情に乏しい顔で、ロジェはそう言った。


口数が少ないが、別にローゼン達を警戒している訳では無く、元々無口な性格なようだ。


「君も薬草採集か?」


ロジェが持つ小さな籠を見て、ローゼンは尋ねる。


「…違う」


「それじゃ、この森で何を?」


「………それ」


ロジェは細い指でローゼンの足下を指差した。


そこには、先程クラーメルが捨てた毒草が落ちていた。


「コレ? コレは毒草だけど?」


「…知ってる。実験に使う」


「実験? 君も錬金術師か?」


てくてくと歩いて落ちていた毒草を籠に入れるロジェ。


ローゼンの言葉を聞くと、表情に乏しい顔に少し苦い物が浮かんだ。


「…違う。私は、錬金術師じゃない」


「じゃあ、君は一体?」


「…あんまり女性のプライバシーを、詮索するべきじゃない」


きっぱり、とロジェは告げた。


どうやらあまり話したくないことだったらしい。


「と、私の猫が言っていた」


「猫?」


「…さようなら」


終始マイペースな様子で、ロジェは森の外へと歩いて行った。


「不思議な子だったな」


ロジェが完全に見えなくなってから、ぽつりとローゼンは呟いた。

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