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第二十四話


「手品師さん。外に遊びに行こうよ」


メディの襲来から始まった騒動が収まった後。


騒動の中心であったメディは、医務室のベッドで横になっていた。


それが不満なのか、不機嫌そうに頬を膨らませている。


「まだ駄目だって言ってるだろ? 今日一日は安静にな」


ベッドの隣に座ったローゼンは、リンゴの皮を剥きながらそう告げる。


魔力の暴走は完全に収まったが、メディの病気が再発しかけた事実は変わらない。


魔法による検査は行った後だが、念の為に今日一日は安静にしているように言われたのだ。


ちなみに、メディの実家の方には学院長が連絡を送っている。


「退屈だよ、手品師さん」


「仕方ないだろ、病人は眠るのが仕事なんだ。と言うか、俺は手品師じゃない」


「そうだ、手品。また手品を見せてよ! 手品師さん!」


「…もう手品師でいいや」


諦めたように息を吐くローゼン。


どうも、この少女は思い込みが激しいと言うか、人の話を聞かない所があるようだ。


押しの弱いパーシーの妹とは思えない程に、押しが強いし。


「ほら、リンゴが剥けたぞ。食べるだろ?」


「食べる! あーん」


「はいよ」


フォークに刺したリンゴの欠片を、メディの口へ運ぶローゼン。


メディの世話を焼いているローゼンだが、その顔に不満の色は少しも無い。


むしろ、世話を焼けることを喜んでいるようにも見える。


それは相手がメディだからと言うよりは、


『病人』が相手だからだろうか。


「あのクラーメルとか言う少年に続き、君までロリコンになったのかしら?」


「いきなり現れて、失礼だな。アルチナ」


メディにリンゴを食べさせながら、ローゼンは医務室の入口へ視線を向ける。


「俺がそんなに人間に見えるか?」


「…見えないわね。君はもっと違うベクトルの変態だわ」


「そうだろうよ………今何て言った?」


「そんなことより」


アルチナの言葉に引っ掛かる物を感じたローゼンの疑問を無視し、アルチナは手に持った物を見せた。


それは一枚の小さな紙片。


暴走したメディの頬に貼り付いていたダイヤマークのタトゥーシールだった。


メディの検査中に気付いたアルチナが、今まで調べていたのだ。


「コレの正体が分かったわ。コレは…一種のマジックアイテムよ」


「マジックアイテム?」


「効果は魔力の増幅。対象の魔力を一時的に倍増させるから、元々高い魔力を持っている者ほど効果は大きくなるでしょうね」


「………」


ローゼンは無言でタトゥーシールを見つめる。


コレで二つのことが分かった。


メディの魔力の暴走は、このタトゥーシールが原因だと言うこと。


そして、もう一つは…


何者かが、悪意を以てメディを暴走させたと言うこと。


「…珍しい顔をしているわね」


本当に珍しい物を見たと言う顔で、アルチナは呟いた。


その視線は真っ直ぐローゼンの顔に注がれている。


「そうか?」


「ええ。まるで親の仇を思うような凶暴な顔をしているわよ、君」


出会ってからまだ数日だが、ローゼンのこんな顔は初めて見た。


普段から大抵のことは笑って済ませ、クラーメル以上に怒る所が想像できなかった。


そのローゼンが明確な怒りを抱いている。


メディをこんな目に遭わせた犯人に対して。


「て、手品師さん?」


「…ああ、悪い。怖がらせてしまったか」


いつもの表情に戻りながら、ローゼンはメディの頭を撫でた。


「どうも、病人には弱くてな。余裕が無くなっちまう」


「…ふーん。何か、君にとって病人って存在は特別みたいね」


アルチナの眼が観察するようにローゼンを見つめる。


「出来れば、その話を詳しく聞きたいわね」


「………」








「あんまり聞いて楽しい話でも無いんだがな」


場所を中庭に変えてから、ローゼンは呟く。


人に聞かせたくない話、とまでは言わないが、あまり喜んで人に語るようなことでも無い。


「………」


それでも、アルチナは退かなかった。


単なる好奇心だけでは無い。


かつて出会った人間とはどこか違うローゼンのことを、純粋に知りたいと思っていた。


「俺と親父が本当の家族では無いことは、アンタも薄々気付いているだろ?」


「そうね。年齢が違い過ぎるもの」


「俺の本当の親は、とっくの昔に死んでいるんだよ」


特に悲観する訳でも無く、淡々とローゼンは事実を述べた。


それも、何となく察していたことだった。


「本当の親父は、俺が生まれる前に死んだ。だから、母さんも苦労していた」


ローゼンの記憶にある母親は、いつも疲れていた。


いつも優しく笑ってくれていたが、無理をしていることは子供のローゼンにすら分かった。


「やがて、母さんは病気になった。治療法は殆どない難しい病気だ。貧しい俺達にとっては不治の病と何も変わらなかった」


日に日に、母親は弱っていった。


痩せ細り、血を吐き、段々と病に蝕まれていく母親の姿。


幼いローゼンはそれをずっと見てきた。


それは絶望の日々だった。


どんな手を尽くしても、母親を救うことが出来ない。


その無力感で頭がおかしくなりそうだった。


「そして、当然のように母さんは死んだ。だが、俺はそれを悲しむ余裕すら無かった」


「それは、どうして…?」


「必死に看病を続けた結果、俺も母さんと同じ病気に罹っていたからだ」


その時ばかりは、神を呪った。


どうして自分達にばかり不幸を与えるのか、と世界を憎んだ。


周囲の人間は、誰も助けてはくれない。


それどころか、伝染することを恐れて触ろうとすらしなかった。


「でも、君は…」


「そうだ。俺は生きている。病気だってもう完治している」


少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべて、ローゼンは言った。


「こんな俺を助けてくれる奴がいたのさ。不衛生で、病原菌に塗れた見知らぬ子供の為に涙を流した馬鹿な男がさ」


それは貴族の男だった。


伝説的な錬金術師でもある男は、自身が十年掛けて作ったばかりの万能薬エリクサーを躊躇なくローゼンに使用した。


『この馬鹿者! こんな金で買える薬なんかより、子供の命の方が価値があるに決まってるじゃろう!』


それを止めようとした使用人の手を振り払いながら、男は叫んだ。


どれだけ希少だろうと替えが効く薬などよりも、ここで今失われようとしている命の方が価値があると。


一切迷うことなく、そう断言した。


「それを見て、俺は思ったんだよ。この人みたいな、魔法使いになりたいってさ」


「………………」


見知らぬ誰かを助けられる魔法使いになりたい。


あらゆる病を治せる薬を作れる錬金術師になりたい。


そんな子供のような純粋な夢を抱いているからこそ、ローゼンは魔女を軽視しないのだろう。


「…本当に、人間は変わったようね。それとも、君が特別変わり者なのかしら?」


皮肉気な言葉の割に、どこか嬉しそうにアルチナは笑みを浮かべた。


魔女にとって魔法とは、単なる力では無い。


自己ではなく世界の為の使い方を生涯を通じて模索し、次の世代へと託す大切な物だ。


決して、誰かを傷付けたり、自己の欲を満たしたりする為の道具では無い。


(人間に魔法を授けるなんて、最初は碌なことにならないと思っていたけど…)


こんな風に正しい使い方をする人間がいるのなら、その選択は間違いでは無かったのかも知れない。


「………」


「…? どうしたの? ぼんやりとして」


「いや…」


口をポカンと開けていたローゼンは真剣な顔で告げる。


「アンタの笑った顔なんて、初めて見たから………少々見惚れてた」


「ッ!?」


ローゼンの言葉に、アルチナは慌てて自分の顔を手で隠した。


「わ、笑って無いし! と言うか、君はその何でも思ったことを口に出す癖を治しなさい!?」


怒りと羞恥で顔を赤くしたアルチナはそう叫んだ。

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