表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/42

第十五話


「そんな訳で、乱れた魔力を元に戻す方法とか知らない?」


「知るか」


初代学院長の銅像がある中庭にて。


包帯を巻いたままそう尋ねたローゼンに対し、アルチナの返答は簡潔だった。


中庭のベンチに座りながら、いつも通り不機嫌そうな表情でローゼンを睨んでいる。


「仮に知っていたとしても、私がそれを君に教える義務も理由も無いわよ」


「お、おおー…予想通りと言えば予想通りの返事だ」


相変わらずの冷た過ぎる態度に、ローゼンはため息をついて別のベンチに腰を下ろした。


知っているにしろ、知らないにしろ、良い返事を貰えるとは初めから思っていなかったが。


「と、いつもなら言う所だけどね」


「お?」


ニヤリと悪い笑みを浮かべるアルチナを見て、ローゼンは首を傾げる。


珍しく機嫌が良さそうだった。


小脇に抱えていた小ぶりの木箱を自慢げに突き出す。


「私の壺の第三号が完成したのよ」


蓋を開けると、中には見慣れた斑点模様の壺が入っていた。


「…前よりも若干小さくなってない?」


「素材が足りなかったのよ。これでも最低限は機能する筈」


木箱の蓋を閉め、我が子に触れるように撫でるアルチナ。


「一号と二号は悪しき人間に壊されてしまったけど、この子だけは守って見せるわ」


「悪しき人間って、俺のことか」


親の仇ならぬ、子の仇を見るように睨むアルチナにローゼンは言った。


悪いとは思っているが、二度目は故意で無かったことは理解して欲しい。


「二号は部屋に置いていたせいで、盗まれてしまったわ。だから持ち歩くことにしたのよ」


「理屈は分からなくも無いが、何となくオチが見えたような…」


「オチ?」


大事そうにそれを抱えながら、アルチナは不思議そうに首を傾げた。


「あ、危ないよー。そこの人達ー」


言葉の割に緊張感の無い声がどこからか聞こえた。


声が聞こえる方向をゆっくりと振り向く二人。


「げ…」


思わずローゼンが声を上げる。


誰か魔法でも暴発したのか、燃え盛る炎の球がこちらへ飛んで来ていた。


「危な…!?」


それは慌てて頭を屈めたローゼンの髪を掠めていき、


正面のベンチに座っていたアルチナへ迫った。


「き、きゃああああああ!?」


咄嗟のことでパニックになったアルチナは魔法を使うことも忘れ、手にしていた物を自身の盾にする。


大事に抱えていた木箱を。


瞬間、火球が弾け、木箱はその中身ごと木端微塵になった。


パラパラと宙を舞う炭を見ながら、アルチナは放心する。


「わ、私の三号が…」


「…迷い無く我が子を盾にしたな。アンタ」


「だ、黙りなさい! もう、どうなっているのよ! 人間には割れ物を見たら、壊さずにはいられない本能でもあると言うの!?」


どうしていつもいつも私の壺は壊されてしまうのか、とアルチナは嘆く。


目を離している間に盗まれたらたまらないと持ち歩けば、この有り様だ。


アルチナの喪失感が段々と怒りに変わってきた。


「大丈夫ですかー?」


「大丈夫じゃないわよ! 主に私の壺が!」


のんびりと駆け寄ってきた女にアルチナは叫ぶ。


「ごめんなさーい。ヘラ、元素魔法は少し苦手で…」


(…この声?)


聞き覚えのある声に振り返ると、そこには苦笑を浮かべたヘラヴィーサ(ヘラ)がいた。


悪戯をした子供のように無邪気な顔で頬を掻いている。


「そもそも、人がいる所であんな魔法を撃ったら危ないでしょうが!」


「………」


激怒するアルチナにヘラは笑みを浮かべるだけだ。


(何だ、この感覚?)


その笑みを見ていると、ローゼンは妙な胸騒ぎを感じた。


前に会った時にも感じた、心のざわめきだ。


「待って下さい! 姉さまは悪くありません!」


「そ、そうです!」


その時、遅れて走ってきた二人の女生徒がヘラを庇う様に前に出た。


「私達が姉さまに魔法を見せてなんて言ったから!」


「わ、悪いのは全部私達なんですー!」


怒っているアルチナが怖いのか、やや怯えながらも女生徒達は前に出たまま動かない。


余程、ヘラのことを慕っているのか。


学院のアイドルと言うのは、本当らしい。


「私は、その子と話をして…」


ヘラの取り巻きを退かそうとしたアルチナは、ふと言葉を止めた。


何かに気付いたかのように、真っ直ぐヘラの顔を見つめている。


「ヘラの顔に何か付いてますか?」


「…いや、妙な格好をしているな、って思っただけよ」


「そうかな? 自分では可愛くて気に入っているんだけどなー」


ひらひらとミニスカートを揺らしながら、ヘラは呟く。


「姉さま! 私も可愛いと思っていますよ!」


「わ、私もです!」


フォローするように取り巻き二人は声を上げる。


この二人、ヘラの言うことなら何でも肯定しそうだ、とローゼンは思った。


「…もういいわよ。壺のことは赦してあげる」


「!」


ローゼンは驚いてアルチナの顔を見る。


あれだけ自身の壺に執着しているアルチナが、それを壊されたことをあっさりと許した。


一体どんな心境の変化があったのか。


「ん。ありがとう。行くよ、二人共」


「「はい」」


アルチナが突然意見を翻したことに疑問を持った様子も無く、ヘラは二人を連れて立ち去る。


まるで、初めからそうなることが分かっているかのような反応だった。


「あの子…」


「ヘラヴィーサのことか? 俺も確かに、あの恰好はどうかと思うよ。あれじゃ、魔法使いじゃなくて魔法少女だもんな」


「………魔法少女?」


「最近子供の間で噂の童話に出てくるヒーロー。魔法で変身して戦う女の子の魔女って言った所か?」


「…それを作った人間は、私に喧嘩売っているのかしら?」


いつから魔女は子供のヒーローになったのだ。


六百年で人間はどこまで愚かになってしまったのか。


本物の魔女であるアルチナはがっくりと肩を落とす。


「って、それはどうでも良いのよ。いや、魔女のプライドとして物申したい気持ちはあるけど、取り合えずそれは置いておくわ」


コホン、と咳をしてアルチナはローゼンの顔を見た。


「…あの子、顔に似合わずえげつない魔法を使うわね」


「…? さっきの元素術エレメンタルの火球のことか?」


「違う。そっちじゃなくて、もう一つの魔法よ」


「もう一つ?」


ヘラは何か別の魔法を行使していただろうか?


杖にも触れておらず、何か使っているようには見えなかったが。


「『魅了チャーム』よ」


「…何?」


「気付かなかったかしら? あの子は常に魅了の魔法を放っていたわ」


アルチナは思い出すように告げる。


魅了チャーム


他者の心を騙す魔法分野『幻惑術イリュージョン』に属する魔法だ。


その効果は読んで字の如く、相手を魅了すること。


惚れ魔法とも呼ばれ、魔法を掛けた対象の恋心を自在に操る。


「学院のアイドル。生徒にも教師にも好かれ易い子だと聞いていたけど…」


「全員、魔法で操っているのでしょうね…」


アルチナはヘラが去っていった方を見つめた。


「私、嫌いなのよねぇ。人を支配する類の魔法は…」


表情の無い顔に僅かに怒りを滲ませながら、アルチナは呟いた。


基本的に人間嫌いで、関心を持とうとしないアルチナには珍しく、ヘラに対して強い怒りを感じているようだった。


「…君も気を付けることね。あの類の魔法は基本的に異性の方が効果が強い。コロッと洗脳されて、人形に変えられるわよ?」


「…ああ、気を付けるよ」


アルチナの忠告に、ローゼンは大きく頷いた。


何を思っているのか、普段より真剣な表情でアルチナを見つめる。


「なあ」


「何よ? 言っとくけど、私は何もしないわよ?」


アルチナは普段通りの顔に戻りながら、問われる前にそう答える。


確かにヘラの魔法の使い方には怒りを感じるが、犠牲になっているのは見知らぬ人間だけだ。


頼まれた所で、ヘラをどうこうする気は無かった。


そんな言葉を聞いていないのか、ローゼンは構わず言葉を続ける。


「あの子って、どんな花が好みだと思う?」


「…はい?」


「いや、プレゼントしようと思うんだが、生憎と手持ちには薔薇しか…」


「言ってる傍からあっさり魅了されてるんじゃないわよ!? この馬鹿!」


完全に魅了に掛かっているローゼンの頭に、アルチナの拳が振り下ろされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ