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第十一話


「………」


アルチナはある物を握り締めながら、目を閉じていた。


それは昨夜、パーシーが投擲したナイフの一つ。


姿を消したパーシーが残した唯一の手掛かりだった。


「違う。この時間じゃない。もう少し前…」


中庭のベンチに座り、アルチナは真剣な表情で作業を続ける。


アルチナが何か呟く度に、握られたナイフが淡く光を放った。


その光は時と共に段々と大きくなっていく。


「………何か用?」


ようやく何かを掴めそうだ、と言う時にアルチナは目を開いた。


普段以上に不機嫌そうな顔で背後を振り返る。


「あ、いえ…その…」


そこには、以前出会ったクラーメルが立っていた。


無言で後ろに立っていたことに負い目を感じているのか、もごもごとしている。


「待って。それ以上近付かないで」


「え?」


気まずそうに近付いてきたクラーメルを睨みながら、アルチナは言う。


その視線はクラーメルの顔ではなく、腰に下げられた鉄の杖に向けられていた。


「それと、出来れば口を閉じてどこかへ消えてくれると助かるのだけど」


「…ぼ、僕、あなたに何かしましたっけ?」


クラーメルは少し泣きそうになった。


まだ名前も聞いていないのに、酷い言われようだ。


「作業の邪魔なのよ。ただでさえ、壺が手元に無くて魔法が使い難いのに…」


「…? 何か魔法を使っていたのですか?」


「…このナイフの『時』を遡り、持ち主の居場所を暴こうと思ったのよ」


「時を、遡る? そんな魔法が?」


「だから近付くな! 君の持っている杖のせいか、君が近付くと何か魔法が消えちゃうのよ!」


「ご、ごめんなさい!?」


言われてみれば、クラーメルが近付く程にナイフから放たれていた光が弱まっている。


魔女狩りの道具故か、アルチナの魔法とは相性が最悪だった。


「全く………あれ?」


クラーメルが慌てて距離を取ったのを確認した時、アルチナは魔法が見せた映像に首を傾げた。


今、見ていたのは昨日の昼間の映像。


即ち、犯人がアルチナの壺を盗んだ時間の映像だ。


アルチナの部屋に侵入した犯人が、それをどこに隠したか探る為に見ていたのだが…


「コレって…」








「秘密の地下室?」


パーシーの隠れ家にて、ローゼンは言った。


「そうです。ここは私が見つけた秘密の地下室………怪盗パーシーのアジトなんです!」


どこか得意げな顔をしながらパーシーは答える。


薄々感じていたが、この女は怪盗とか大悪党とか、そう言う悪ぶった表現が好きなようだ。


その割には、盗んでいた物はあまり価値の無い小物ばかりと言う小悪党だったが。


「『ライト』」


パーシーが手にした旗付き杖の先端が光る。


「ほら、アレが地上とアジトを繋ぐ唯一の出入り口です」


「へえ、出口が見当たらないと思ったら、上にあったのか」


光に照らされた天井には古い木製の扉があった。


形は四角形で、大きさは大の男が辛うじて通れるくらい。


男としては比較的小柄であるローゼンや、痩せ型のパーシーなら楽に通れるだろう。


「一人なら楽に降りられるのですが、昨日はあなたを背負っていたので少し大変でしたよ…」


「え? パーシーが俺を背負ったのか?」


驚いたようにローゼンはパーシーを見つめる。


小柄とは言え、ローゼンはこれでも男だ。


ほっそりとして華奢なパーシーがそれを背負ったなど、信じられなかった。


「ああ、魔法は使いましたよ? 強化魔法は結構得意なんです」


「…なるほど」


昨夜、アルチナも使っていた魔力を使って身体強化する魔法。


それを使えば、華奢なパーシーでも大の男のような力を得られるだろう。


あまりそのジャンルの魔法は勉強していなかったが、覚えていれば便利そうだ。


(…ん? 待てよ)


ふとローゼンは首を傾げた。


今のパーシーの言葉、何か引っ掛かる。


何か妙なことを口走らなかったか?


「なあ、パーシーは…」


疑問を口にしようとした時、頭上で爆発音がした。


「な、な、何ですか…!?」


「何か、地上で爆発があったような…!」


慌てて頭上を見上げる二人の前で、地下室の天井が吹き飛ぶ。


轟音と共に、空から降ってきたのは見覚えのある影。


「見つけたわよ、この盗人め!」


怒りのままにそう告げたのは、アルチナだった。


「な、何でこの場所が? 入口は魔法で隠していたのに…!」


「入口? そんな物分からなかったから、怪しい所を全部吹き飛ばしただけよ」


バチバチと手の平に火花を散らせながらアルチナは言った。


「まさか、中庭の銅像の下に隠れているとは思わなかったわ。いっそ、あの不愉快な銅像ごと吹き飛ばした方が良かったかしら?」


「…やめてくれ。そこまでやったら、親父も怒るぞ」


「冗談よ。流石に壺無しで、そこまですることは出来ないし」


ローゼンの言葉に、アルチナは平然と返す。


逆に言えば、壺さえあればやり兼ねないと言うことだ。


「って、君のことはどうでもいいの。それより早く壺を返しなさい」


アルチナは視線をパーシーへ戻した。


「昨夜のようにテレポートで逃げられると思わない事ね。ここに壺があることは分かっているわ。あの壺さえ近くにあれば、私は全力で魔法が使える…!」


(…あー)


メラメラとやる気に満ち溢れるアルチナからローゼンは目を逸らす。


パーシーも事情を察して冷や汗を流し始めた。


「ん? 何よ、ハッタリだと思っているの? それなら証拠を見せ………」


何かを目撃し、アルチナの動きが止まる。


床に散らばったまま放置された壺の残骸。


それは無残にも壊されたアルチナの作品だった。


「「………………」」


無言で見つめ合うローゼンとパーシー。


(どど、どうするんですか!? この壺って、何か大切な物だったのでは!?)


(い、いや、盗んだのはアンタだろう!? 俺だけ悪者にするなよ!?)


(私は返そうと思ってましたよ! 壊したのは、あなたです!)


(俺達は共犯者だ。運命共同体だ。そ、そうだろう?)


(アレって、そう言う意味だったんですかー!?)


こそこそと小声で言い争う二人。


責任を押し付け合い、目の前のアルチナから必死に目を逸らしていた。


「…ふ、ふふふふ」


しばらく無言で割れた壺を見ていたアルチナが突然笑い出した。


「そう言うこと。先手を打たれた、と言う訳ね」


「…はい?」


妙なことを言いだしたアルチナに、パーシーは首を傾げる。


「私と戦うことを見越して、予め私の力を削ぐつもりで壺を叩き割ったのね」


「え゛」


何故かパーシーが壺を叩き割ったことになってしまった。


明らかに最初よりも殺意が増したアルチナに怯え、パーシーは自称運命共同体を見つめる。


「そ、そうだ! 何て悪どいことを思いつくんだ! 流石は大悪党!」


「う、裏切られたー!?」


何か格好良いこと言ってたくせに、あっさり裏切ったローゼンにパーシーは涙目になる。


もう誰も信じられない。


「う、ううう…!」


ぷるぷると震えながら、パーシーは赤い旗を振り上げる。


「そ、その通りです! その壺はこの怪盗パーシーが叩き割ってやりましたとも!」


(…何か可哀想になってきた)


健気に怪盗の役を演じ続けるパーシーに、心が痛むローゼン。


「学院から小物を盗んでいたのもあなたかしら?」


「そう! それもこの怪盗パーシーの仕業です!」


「…下着を盗んでいたのも?」


「そう! それもこの怪盗パーシーの…って、下着? それは知らないのですが?」


(…ん?)


下着泥棒はパーシーの仕業では無かったのか。


考えてみれば、当然のこと。


パーシーの目的はエリクサーを得る為の資金集めなのだから、下着には用が無い筈だ。


…下着を買い取るような輩が知り合いにいなければ。


「まあ、そっちは割とどうでもいいわ。私にとって重要なのは、壺の仇を討つことだけ」


スッとアルチナはバチバチと帯電する片腕をパーシーへ向ける。


「あ、あの…すっごくバチバチ言っているのですが、一体何を…?」


アルチナの正体を知らないパーシーは、何が起こっているのか分からなかった。


時の魔法が使えずとも、アルチナの持つ膨大な魔力は衰えていない。


アルチナは今、それをそのまま片腕に収束させているのだ。


魔法ではなく、純粋な魔力の放出。


人間が同じことをしても火花を出すのが限界だが、魔女であるアルチナがすれば破壊の光となる。


「………こ、この人がどうなっても良いのかー!」


「えぇ!? 俺かよ!」


冷や汗を流しながらパーシーはローゼンに背中から抱き着き、手にしたナイフを首に突き付けた。


一瞬でアルチナに勝てないことを理解し、人質を取ることにしたのだ。


少しの間でも隙が出来れば、魔法を使って逃げ出そうと。


「…な、何か全然止める気配が無いんですが? むしろ、さっきより収束の速度が増している気がするのですが!? どうしてー!?」


「私とその少年が友達にでも見えたのかしら? 殺すなら好きにしなさい。好都合よ」


「…何か、こうなる気はしていたよ」


パーシーにナイフを突き付けられながら、ローゼンは諦めたように息を吐いた。


ローゼンを盾にするように背中にしがみ付くパーシーの顔を見る。


「パーシー、俺達は運命共同体だ。死ぬ時は一緒だぜ」


「今、そんな言葉聞きたくないですよ!? お願いだから諦めないで下さ…」


「消し飛べ」


瞬間、アルチナの手から光が放たれ、ローゼンごとパーシーを吹き飛ばした。

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