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ガーディアン  作者: フライング豚肉
第二章・ジプシーの意味は放浪者
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寄る辺有る身

パスガノ中央宮殿の中、ベッドの上で微動だに出来ず突っ伏すゲンゾーがいた。


(またこのパターンかの、とほほ……)


ケウデスとの死闘を経た後、文字通り倒れたゲンゾーはそのままソペクネフェルに担がれて宮殿に保護され、彼に治癒してもらったが魔力不足の為に現在に至る。

エレンが行ったブーストヒールはあくまで身体能力を底上げするだけであり、魔力は自分の身体で精製せねばならない。

故に二度も魔力不足で倒れたゲンゾーに、更にブーストすれば更に無茶を重ねる危険性がある。


(曰く、『バッカじゃないの!?』……いやはや、返す言葉が無いの)


他の皆も宮殿に泊まる事になった現在、矢張りゲンゾーは一人である。


(………いや、一人では無かったか)


ぴぃぴぃと小鳥の鳴き声がする。

僅かに首を動かすと、そこに竜胆がいた。

竜胆はぺふぺふと仔猫の肉球をゲンゾーの頬に当て、ゲンゾーは何とか竜胆を撫でてやる。


「………子を託す、か」


この聖獣がどのような存在になるか、それは分からない。

ただ、託された以上必ず一人前に育ててみせる、そう覚悟を決めていた。


「………?」


と、竜胆の喉を撫でていると僅かにノックの音が聞こえ、セレが顔を覗かせた。


「ゲンゾー様、お加減はいかがでしょうか?」

「あまり良いとは言えぬな。しかし詮無き事よ。心配有難い」


ゲンゾーの魂の気配を頼りにベッドのそばまでセレは歩み寄り、心配そうにゲンゾーを見つめ、しかして命の輝きを強く増したゲンゾーに安堵もする。


「この調子ならば、明日には立てますよ」

「それもまた有難い。いやはや、とんだ回り道をしていたものよ」


随分と苦労したが、得られた物も有る。

しかしそれが何かは分からない。

何を失って何が生まれたか、それは後になって振り返った時に気付くだろう。


(その時に儂自身悔いの無い選択と、胸を張れれば良い。張れぬなら笑い飛ばすまでよの)


どうせとんだお節介で来た世界だ。

と、半ば開き直った様に笑い、セレに向かう。


「今日は助かったぞ」

「私は……何もしていません」

「いや、御主がいたからこそあの拳士は最後に救われた。儂一人では叶わなかっただろうよ。彼の尊厳を守ってくれた事、心より感謝する」

「………」

「これも其方の心が読める力のおかげやも知れぬな」

「!」


その一言にセレは凍り付いた。


「えっ……やっ……」

(いつ頃気付いたか、かね?)

「!」


敢えて心の中で呟かれたその言葉に更に動転する。

しかし構わずゲンゾーは続けた。


(まぁそれは日頃の観察で憶測はしていたのだがな、矢張りネフティス殿が幾つもらしい事を示唆しておったからよ)

「………」

(浮かぬ表情よな。察するにその力を疎まれて来たのかね?)

「せっ、精霊殿の皆さまはそんな人達じゃありません!」

(分かっておる。そして更に分かっておるとも、其方以上にな)

「?」


言われた言葉にセレは首を傾げた。


(其方の力は市井では疎まれたやも知れぬ。しかしだ、敢えてその力を強く持って欲しいのだ)


ゲンゾーは静かな眼差しで思いを伝える。


(それはきっと苦しかろう。心を失いそうになるやも知れぬ。だがな、その人の心が分かる力は、きっと人の隠した痛みを見つけ得る。誰よりも優しくなれる力だと思うのだ)


何より、と。


(その力を望めるのは……きっと其方だけだろうからの)


優しい思念と共に届いたその言葉は、虚飾が無かった。

それは当然だろう、『心に思った事』だからだ。


(この人は……)


今迄出会った人々とは一線を画していた。

セレの能力に同情し、優しくそして対等に接してくれたのが精霊殿の歴々だ。

それは確かな救いになり、世を恨まず生きれた理由である確かな存在だ。

しかし、同情を示すことはせず、在り方を肯定してくれた人物はゲンゾーが初めてだった。

セレは複雑そうに笑い、漸く合点が行く。


(そうか、この人は……個人の在り様を肯定し続けて、そして光有る場所に連れて行ってくれる人なんだね)


人の生まれ持った物を決して否定せず、助けるべき所を無理なく助ける。

例え何者だろうと尊厳を守り、人が美しいと感じる物を守り続ける。

あらゆる在り様を肯定し、見守る。

ただの黒に染まった領域ではなく、瞬く星々を抱えた広い夜空の様な黒。

それが心の中に見えた。


「………」


そっとゲンゾーの額に口付けし、セレは微笑む。


「私からも祝福を重ねがけしておきます。ゲンゾー様、ありがとうございます」

「はは、ここは儂が礼を言う所だろうに」


と、セレは力無く放り出されたゲンゾーの掌を握る。


「今日は共に床に就いても宜しいでしょうか?」

「藪から棒だな。理由を聞いても良いかね?」

「私も僅かながら魔力放出が可能です。お早い回復になるかと」

「……女子が妄りに男と床に就きたいと言うでない、と叱るべきだろうが、甘えさせて貰おうかの」


情けないと同時に有難いとも思いながら肯定し、セレはゲンゾーの手を胸元に寄せて横になる。

直接繋いだ掌から、無限に受け入れられる広い夜空を見る。

ただただ広がり続けるその夜空は、誰を拒む物では無かった。

僅かでも彼の力になりたい、そう願いながら、夜空を望む夢に向かった。

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