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ガーディアン  作者: フライング豚肉
第二章・ジプシーの意味は放浪者
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老人達の黄昏

ケウデスらが敗れた事は密かにパスガノ首脳陣に届けられていた。

勿論、その報が身に何らかの意味を及ぼす人間達にである。


「ち…違うのですネフティス様!」

「ほう?何が違うのかね?『話せ』」


パスガノの中央宮殿にて、ネフティスはブバスティスにそう告げるとブバスティスは虚ろな目で応える。


「はい、貴方の質問に対する答えは肯定です。私はヴィラレスク委員会と繋がり、貴方を失脚させてパスガノの統治権を得ようとしました」

「民意も得られずにかね?選出の儀はどうする気だったのじゃ?『話せ』」

「はい。ヴィラレスク委員会が後援を約束してくれておりました。対抗し得る者の暗殺や民衆への扇動など、シェリ・ガル自治区でも行った行動で私の地位を安定させてると」

「………最後に聞くがの、お前はパスガノを治めて何をしようとしたのじゃ?『答えよ』」

「はい。私への優遇策を数多く行い、私個人の幸福を強く描いておりました」

「………もうダメじゃな、御主は」


ふぅと溜息を吐き、ネフティスはブバスティスをぎらりと睨み付ける。


『死ぬるが良い』


その一言でブバスティスは糸の切れた人形の様に崩れ落ち、そのまま動かなくなった。

そして傍らのセトナが小さく手を払う仕草をするとブバスティスだった肉塊は影に沈み、消えて無くなった。


「どうやら使い走りにされていた様ですね。しかし矢張りシェリ・ガルは……」

「それは前々から睨んでいた事よ。じゃろう、エイトリ?」


そして後ろに立てかけてある霊鏡に話しかけ、霊鏡に映るエイトリはふむとあご髭を撫でた。


『まぁの。そもそも隠す気の無い黒が黒だと言われた様な物よ。しかし今やその情報を得ても手は出せまいな』

「じゃな。あそこは最早我々の世界とは別次元じゃ。手を打つにも首魁をどうにかせねばな」


と、ネフティスの影がとぷんと揺らぎ、ジットーが顔を覗かせる。


「長ぁ、例の助平は取り逃がしちまいやした。勘弁してくんなせ」

「構わぬ。御主で追えぬならば誰も追えまい。しかし何ぞ掴んだかね?」

「へぇ。野郎はアレッサドリ商会の鎧装使いでさ。あんな魔力変換効率はあのいけ好かねえスケこましの作った奴じゃなきゃ出来ねぇでさ」

「ここでもまたシェリ・ガルの影か」


セトナは目頭を抑え、エイトリは首を振る。


『ひとまずシェリ・ガルは置いておくとしよう。遠くの火事よりも近場の火事じゃからの』

「とは何じゃ?」

『例の従属の枷の件じゃよ』


と、エイトリは続ける。


『そっちに行ったワシの部下が人間用の次に幻獣用の物の発見を報告してきての、加えて先だって施工されたあの方策じゃ』

「………例の重罪人に対する刑罰かの?」


首肯するとネフティスは表情をしかめる。


『不服そうじゃな?』

「当たり前じゃ。ワシは子や孫らにだけは人に束縛される苦痛を味わって欲しく無い、そう願ってジプシーの皆を纏め上げ、このパスガノを拓いた」


と、一息。


「重罪人であろうと、従属の枷を付ける気にはならぬ」


その一言は、何よりも重く響く。

しかしエイトリは柳の様にかわして続ける。


『価値観の話は方便に過ぎんよ。問題はこれを機に人用の従属の枷が横行する可能性にこそ有る。あれが市井に流れれば間違い無く恐るべき災いとなろうな』

「一般的に見る物として生活の中に馴染む可能性かの?」

『と言うよりも人を従属させる事の罪悪感の弛緩じゃな。これが起きれば間違い無く後の世に禍根を残す。文明としての自壊さえも起こしかねん』


エイトリは既に一つの出来事の先に起こり得る最悪の事態を見ていた。

それがどうなるかは誰にも分からないが、彼は人の心が歴史を動かして来ていたのを知っている。

故に、人の心に無自覚な悪と誰かに対する憎悪が募る事を危惧していた。

悲観的な観点を常に話すエイトリだが、そんなエイトリに代わりネフティスは笑う。


「さてどうかのう?大精霊様が寄越したあの拳士、あの運命が既に大きく世界の運命を揺らしたのでな」

『何じゃ、あの小僧で間違い無いのかね?』

「そうじゃ。そして小僧と侮るでないぞ、御主が何者か、そして御主がここに拳士を寄越した事、大凡察しておったぞ」

『………ほう』


僅かにエイトリは息を漏らす。


「御主、拳士とは初対面と宣っておきながら妹の存在を具に告げたじゃろう?ま、御主の事じゃから敢えての可能性もなきにしもあらずじゃが」

『して、ワシの立場の根拠は?』

「一つは魔法使いの素質のある人間達に容易に接していた立場。エーリカの許容がそれをある程度核心に寄せ、二つ目が妹御を知る存在じゃ。戦災孤児のあの娘をわざわざ調べる存在ならばトラジオン運営に帰属する身である事、加えて調べるならば母が魔法使いであった事を知る身分じゃ。そして最後になるがの、御主ボロ布の脇から既にトラジオン刻印の有る服を見られておる」

『………いつじゃな?』

「御主が鼻にナイフを突きつけられていた時じゃ」

『………二つ目までは課題に過ぎぬ試しじゃったが、手癖の悪い小僧じゃな』


ふぅと溜息を一つ、そしてネフティスは笑う。


「しかし呑気はしておれぬぞ?既に此度の一件、オエコラフの元に届いていよう」

『ぬふし!?で、ではあの口煩いヴァインにもか!?』

『ほう、どう口煩いのでしょうかな?』


と、霊鏡に映るエイトリの後ろに憤怒の形相のドラコニーが映る。


『ふは!?ひぃ!ち、違うぞヴァインよ!ワシはパスガノなんかどうじゃなーと!喋っただけでな!』

『立派に教唆ですな。判断は都督閣下に仰ぎましょうぞ』

『ま、待てヴァインよ!話せば分か』


と、やかましく会話が切れ、セトナはふむと唸りながら顎に指を当てる。


(政に利用すれば返す拳、か。どうやら我々には向かわずエイトリ殿の方に飛んで行ってくれたらしい)

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