竜胆と隕鉄
「兄さまぁ!」
「ふぐぉあ!?」
隠し部屋の檻を開くなりチコが飛び付き、ゲンゾーは激痛に身をよじった。
「ゲンゾー様!?」
「もうダメだ……米食いたかったの……墓前に供えておくれ……」
「き、気を確かに!」
「まっことそうだな……矢張り己の舌で米を…………チコや?」
ぶるぶる震えるチコは、僅かに嗚咽を漏らしている。
よほど怖かったのだろう。
軽く検分して何事も無いと悟り、頭を撫でてやる。
「もう心配要らぬ。泣き止んでおくれ」
「……はい」
小さくすんすん鼻を鳴らすチコ。
その胸元にある小さな存在にゲンゾーは僅かに表情を締めた。
「……その瓜坊」
「…………はい」
金色に輝く金属の猪、件のグリンブルステインの子だ。
ぷっぷっと鼻を鳴らしてゲンゾーを見つめ、ゲンゾーは苦虫を潰した様な表情で見つめ返す。
(先の巨獣の卵にこの小さな瓜坊……そうか、儂はこの瓜坊の親を……)
この倉庫で何が起きていたかある程度把握し、同時に僅かに響いた地響きにゲンゾーはケウデスの残した卵を取り出す。
「……まだ少し休めぬな」
「……はい」
セレも応え、チコは小さく首を傾げる。
三人はそのまま倉庫から出ると、
「!」
満身創痍の、されど憮然と立つ隻眼のヒエラコスフィンクスがいた。
その傍らにはグレタ、エーリカ、ソペクネフェルにエーラだ。
静かに卵を差し出すゲンゾーだが、ヒエラコスフィンクスはゆっくりと瞳を閉じる。
何かと思う間も無く、エーラがゲンゾーの手に触れた。
「黒檀さま、聖獣様がお話ししたいと」
瞬間、低く響く荘厳な声が聞こえた。
『我が子を救ってくれた事、ひとまず礼を言おう。我はフー、ミグール谷の長だ』
「……儂はゲンゾーと申します、フー殿。御子をお返ししたく存じます」
と、卵を差し出すがフーと名乗ったヒエラコスフィンクスは首を下げる。
『無用だ。我は人を数多殺めた。今更貴様等人間の厚意は受け取れぬ』
「なれど貴方の御子を攫った所業は確かに御座いますれば」
『だが貴様の所業ではあるまい』
頑として受け付けないフー。
彼はこう言っている、人の情けを受ける事は今更矜持が許さないと。
あくまで敵としてあったという立場を崩さず、だがそれでも許すべき所を許し、そして許さない事は例え自分の事だろうと許さない。
武人然として在り、されど親としての在り方を一切見せずフーは続ける。
『貴様はそう言えば……我の目を穿った者だな……』
「……高名な御方とは知らず、無礼を致しました。どうかお許しを」
『違う。感心しておるのだ。勇者の称号を贈るに相応しいとな』
そしてフーはくるりと身を翻した。
『我が目を奪った褒美だ。我が子を好きに使うが良い。我も人の匂いの染み付いた一族など要らぬ』
「………」
それは如何なる矜持か、そのまま決して振り返らず、空を駆けていった。
最後まで、何故猛り狂っていたかの理由を隠したままに。
「!」
瞬間、卵に亀裂が生じ、中から鳥の頭をした翼の有る子猫が出た。
ぴぃぴぃと小さく鳴き、ゲンゾーを見上げるヒエラコスフィンクスの雛。
「……黒檀さまをお父さんって呼んでます」
「……鳥の頭だけに、儂にインプリンティングか。父親なら先ほどまでおったのに、寝坊助め」
エーラの言葉に自嘲気味に笑い、喉をくすぐってやるゲンゾー。
その無垢な瞳を見つめ返し、やがてチコも側に寄る。
「兄さま、この子と共に名付け親になってくれませんか?」
「………」
奇縁だ、そう心中呟く。
共にこの幻獣達の親を害した存在が自分だと言うのに。
しかしと覚悟を決めた様に先ず雛を撫でる。
「随分と遅くに出たが、それを功に繋げよ。名を贈ろう、遅咲きの花、『竜胆』と」
そして瓜坊に触れる。
「其方の親は雄々しく駆けた。儂の拳も通さぬその力、儂に放つかは其方に委ねよう。名を贈ろう、駆ける鋼、『隕鉄』と」
二人の幻獣に名を贈る。
その名をどう思うか、それはゲンゾーには分からなかった。
ステータス更新
NAME・竜胆
レベル・1
クラス・ヒエラコスフィンクス
筋力・H(EX〜H)
耐久・H
敏捷・G
魔力・G
対魔力・H
属性・不明
保有スキル
無し
固有スキル
聖獣・A
NAME・隕鉄
レベル・1
クラス・グリンブルステイン
筋力・G(EX〜H)
耐久・G
敏捷・H
魔力・H
対魔力・H
属性・不明
保有スキル
無し
固有スキル
聖獣・A




