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ガーディアン  作者: フライング豚肉
第二章・ジプシーの意味は放浪者
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彷徨いの果て

「くっ……はぁ……!」


深い溜息と共にゲンゾーは尻餅を着き、地に背を預ける。

荒い呼吸を繰り返し、やや収まった時に何かが降って来た。

反射的に掴むと、それは簡素な鍵であり、放り投げた当人のケウデスは倉庫内の樽を指差している。


「あの樽は空だ。隠し通路を隠している。そこに貴様の連れが居るぞ」

「………」


勝者への手向けか、敢えて教える必要も無い事を話すケウデス。

しかし彼は構わず続けた。


「代わりと言っては難だが、一つ教えてくれ、最後のあの一打、あのモーションの全く無く鋭い一打は何だ?」

「……矢張り御主には反応出来なんだか」


そしてゲンゾーは愉快そうに答える。


「あれは加重移動による一打、簡単に言えば『倒れながら殴った』のだよ」


これは骨法などに使われる特殊な一打だ。

ゲンゾーの瞬歩やケウデスの後ろ足を弾く歩法のように、どこかしら力を溜めて飛び出す一打ではない。

重心そのものをずらして打点に乗せ、その打点を重心にして進みながら放つ。

相手と同等以上のリーチが無ければ放てず、更に傍目にはやや遅い一打だ。

だが、


「御主の様にな、見切りが達者であるものなればこそ、見切れぬ技なのだ」


そう、見切りが完璧であるが故に見切れない技に反応出来なかった。

それが意味する事をゲンゾーは答える。


「御主は、間違いなく『達人』だったよ」


その賛辞がどう届いたか、ややあってからケウデスはくつくつ自嘲気味に笑った。


「とんだお笑い種だ……私が達人だから見切れなかっただと?やれやれ、生兵法が羨ましいと初めて思ったよ」


ごぼりと血を吐きながら笑い、やがて静かに言う。


「まぁ……何一つ実りの無い人生と思っていたが……多少は良かった人生だとも初めて思えたぞ」


もう助からない。

あの一打で既に内臓を強く痛め、更に属性魔導も受けたのだ。

だからこそとゲンゾーも思った事を口にする。


「儂も聞いておきたい。拳士よ、何故セレ嬢を狙わなんだか?勝つ為だけならばそうも出来たろうに」

「まぁな。だが言ったろう、お前の全てを見せろと」


静かに彼は答える。


「幻獣を遠退けたのも、その策に乗らなかったのも、全て私の求めた所」


そして何より、と。


「例え外道の道に堕ちようと……誇りは捨てん……!」


それは拳士としての誇り。

それが目的を一つに定めていたのだ。

一対一の状況に持ち込む為の外道は行おうと、一度そうなればもう外道はしない。

彼の矜持がそれだけは許さなかったのだ。

ふぅと穏やかな吐息が漏れ、側に立つ人影を見遣る。


「貴様が件の預言者か……」


側に立つセレはケウデスの元に姿勢を落とし、頬に触れる。


「私を看取る必要は無い」

「……私を看取ってくれたのに、ケリィ?」


その一言に、ケウデスは大きく目を見開いた。

セレの魔力痕が鮮やかに光り、その瞳がケウデスと同じ物になっている。


「……姉……さん?」

「……ごめんなさいね、ケリィ、ずっと辛い目に遭わせて」


ケウデスの頭を抱き寄せ、穏やかな言葉を紡ぐ。


「私がいなければ家督は貴方に、幸福も名誉もあったのに……私のせいでいつも暗い道を……」

「………違うよ、姉さん」


抱き寄せる腕を最後の力を振り絞って握る。


「………俺は……俺の方こそずっと謝りたかった……俺が助けるって言ったのに……肝心な時にいつも側にいられなくて……」


二人の頬に雫が流れる。

長い長い間凍っていた物が溶ける様に。


「姉さんの所が俺の居場所……姉さんが居なくなって、俺ずっと彷徨ってたんだ……寂しくて、寂しくて……姉さんの居ない部屋が……広過ぎて……俺……」


言葉が弱くなっていく。

溢れる感情と、消えゆく命。


「姉さん……もう一度会えて……良かった……」

「ケリィ……」

「俺……姉さんの弟に産まれて……幸せだったよ……」

「ッ……!」


その言葉に、セレの宿す何者かが強くケウデスを抱き締める。

その言葉を、誰より求めていたからだろうか。

瞬間、ケウデスの四肢の甲が輝く。

その宝珠の光は纏まり、ゲンゾーの元に宿った。


「!」


見れば、ゲンゾーの四肢にケウデスの甲がはまっている。


「……四宝印の甲……私が……俺が師範より頂いた……真の持主に向けて託され続けた宝具だ……俺の拳士として生きた証……代々の拳士達の拳……貴様に託す……」


その身に付けて初めて分かる。

その圧倒的存在感。

何故自分にと眼差しを向ける。


「ありがとう……最後に……幸せに……触れた……」


会いたい人に会えたからか、その表情は、とても安らいでいて。

と、セレの頬に触れるケウデス。


「姉……さん…………もっと…………いっぱい……………話したい…………こと………」


そして、その手は地に落ち、もう言葉は出なくなった。

静かにその瞼を下ろしてやり、姉と呼ばれた誰かも答える。


「おやすみなさい、ケリィ。私も行くから、いっぱいお話しましょう」


やがてぼうと光を放ち、何かが消え、セレはぱたりと伏す。


「セレ嬢!」


よろめきながらセレの身を起こしてやれば、セレは虚ろにゲンゾーを見上げる。


「あの人は……会えました?」


その言葉にややあってから、微笑みと頷きで応えると、セレは微笑んだ。


「良かった……」


彷徨い続けた者達が、安住の地に旅立ったと知って。

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