憤怒の瞳と間諜の瞳
宝剣の間の光球から膨大な光を放ち、ヒエラコスフィンクスは魔力障壁でそれを防ぐ。
しかし魔力量が多い為か、ヒエラコスフィンクスは地に鉤爪を食い込ませて堪えていた。
その隙にセトナは再び影に触れ、縄状の影をヒエラコスフィンクスに巻き付ける。
「ジットー!」
「へぇへぇ」
そしてジットーは影に消え、ヒエラコスフィンクスの影から出てひゅんと小さなナイフを奮う。
瞬間、魔力障壁に亀裂が走り、その僅かな隙間にジットーの長細い腕が入り込んだ。
「はいチクッとしますぜー」
そして羽毛の間を縫う様に針が刺さり、ヒエラコスフィンクスは何かに驚いたかの様に目を見開いた。
『いただく!』
その隙にソペクネフェルは更に魔力を乗せ、魔力障壁を打ち破ってヒエラコスフィンクスを吹き飛ばした。
外壁に砂煙を上げて突っ込んだヒエラコスフィンクスを前に油断なくソペクネフェルは構え、ジットーは建物の影から頭だけ出して頬をかいた。
「あらま、お元気なこってす」
『?』
「いやさ、あたしの麻痺毒を気合いで堪えてまさ」
砂煙の向こうのヒエラコスフィンクスは大きく身体を上下させつつも瞳をギラつかせ、ソペクネフェルを、否、街の一点を睨んでいる。
『我が子を案ずる御前の気持ちは察する……!だからこそ話を聞いて下さらぬか!』
聖獣同士だからこそ分かる。
このヒエラコスフィンクスは凄まじい憤怒に支配されていると。
僅かでも力が残っているのならばそこに身を委ね、目的を完遂せねばと猛っているのだ。
「無駄だ!」
と、セトナは再び影を伸ばす。
が、
「!?」
影はヒエラコスフィンクスに届く手前でぶつりと切れ、その隙にヒエラコスフィンクスは駆け出した。
『行かせぬ!』
ソペクネフェルはその巨体で遮るが、そのままヒエラコスフィンクスは飛び上がって行った。
そして街の一点を目指して飛び去り、セトナが渋い表情を作る。
「まずった……!何度も影を見せ過ぎたか!まさか弾くとは……」
「いんや、どうですかねぇ」
と、ジットーは飛び去った方角とはあらぬ方向を向いている。
「何だと?」
「……ありゃ誰かが光魔導を使ったみてぇでさ。けそけそしやがって、助平な野郎だぁ」
「?」
とぷんと自らの影に消えるジットー。
『親方様、あたしゃ出歯亀野郎を探しまさ。ちぃと失礼しやすぜ』
「………」
セトナは呼び止めるか僅かに迷い、かぶりを振るう。
(再び飛んだ以上ジットーでは届くまい。それに、奴の鼻はよく効く)
何がしかの意味が有る行為だと分かっているセトナは取り敢えず残った部隊に向かう。
「衛兵隊は負傷者の救出と住民の保護に務めろ!メジャイ部隊、動ける者は私に続け!」
セトナもまたメジャイ達と共に影に消え、ヒエラコスフィンクスを追った。




