急変のじいちゃん
魔物との初戦闘を終え、チコに怪我が無いのを確認したゲンゾーはチコが指差しているのに気付く。
「チコや、どうした?」
「光ってる」
振り向くと倒れ伏すゴブリンが眩い光を放っており、やがて粒状の光となって消えた。
そしてその場に残るは小さな結晶。
歩み寄ってそれを拾い上げ、ゲンゾーは軽く検分する。
(これは何か…鉱物と言うには些か柔いな。いずれにせよ家計の足しになるやも知れぬ)
懐に収め、すっかり元の修行場になった開けた林の中、岩に腰掛けたチコを見やりふむと考える。
(さてどうした物か。儂の知らぬ生き物に昨今の森の獣の黒ずむ体、加えて訳の分からぬ輝石と来た。ここはこの世界の先達に聞くが手っ取り早いやもしれぬ)
今の自分には手に余ると判断し、夕刻に迫っている事も有り下山する事を決める。
そうした時だ。
「おにーちゃん!」
不意にチコが声を上げ、振り向くと不安げに村の方角を見ている。
ゲンゾーも同じく見れば、
「黒煙…燃えておるのか!」
不吉な黒煙が立ち上っていた。
畑焼きの白煙ではなく明らかに戦火としてのその黒煙は前世でよく見知っていた物だ。
「チコ!ここにおれよ!」
怒鳴る様に言い残し、風の如く山を下りるゲンゾー。
村に辿り着いて早々に目についたのはゴブリン達に蹂躙される村人たちだ。
先のゴブリンとは明らかに違うしっかりとした体躯は、戦闘用のゴブリンと分かる。
いつものゲンゾーならば様子見に徹し、隙あらば村人を助けると言った行動に出ていたろう。
しかし、
「っ!この外道どもがぁっ!」
肉体年齢に引っ張られてか、視界が真っ赤に染まって爆ぜる如くゴブリンに肉薄していた。
「んだぁ?このガキブッ!?」
のろのろと対応したゴブリンの一人の喉仏に貫手を放ち、動揺するもう一人の人中と剣状突起に貫手を放つ。
「ごぼぁ!?」
内臓が破裂したか大量の血を吐き出して伏すゴブリン。
その足元、血染めに沈む中年の村人の肩を叩く。
「リヒャルト!リヒャルト!返事をしろリヒャルト!」
しかし背を深く斬られたせいか、中年の村人はもう動く事は無かった。
ぐっと拳を握りしめ、ゲンゾーは立ち上がる。
(これ程に簡単に命を奪われる世界か、ここは!父上と母上は!?)
家族の安否を思い、自宅に向かって走り出した。