管槍と魔導
ガロンの持つ長刀は手足の長さと相まってそのリーチは極めて長い。
しかし槍に比べればそれは矢張り劣る。
それ故ガロンはすぐさま跳ね、間合いを詰める。
(このクソが!槍なんざ懐ろに入りゃゴミだろ!)
アリーヤもそれを察してか槍を突くべく低く構えた槍を上段に構え、僅かに下がる。
しかしガロンの方が早い。
(内側に捌いてそのまま腹をブッた斬ってやる!)
「死ねやぁ!」
槍の穂先を捌くべく剣の腹を側面に向けて駆け、ぐっと手首を捻るアリーヤの穂先を睨む。
と、穂先が動いた。
「見えてんだよ愚図が!」
「へぇ、そうかい」
握られた槍はその捻った手首の力が加わり、
「!?」
回転しながら迫った。
抉るような回転軌道の穂先はその殺傷性だけでなく、しなる槍の穂先のせいでその軌道が予測不可能な状態だ。
所謂『管槍』の技法を用いているのだが、アリーヤは本能的にこれを行なっていた。
「ぐぅ!」
迫る槍を辛うじてかわし、僅かに血が垂れた右袖を抱くようにしてアリーヤを睨むガロン。
アリーヤはぴゅんと槍を戻し、再び管槍のために上段に構える。
「どうしたよ、見えてんだろ?」
「このクソアマ…!」
そう、初動は確実に見えている。
しかし見えているのと捌けるのとでは話が違う。
管槍とはそれほどに圧倒的であり、まず同じかそれ以上の間合いが必要だ。
歯噛みしながらガロンはアリーヤを睨み、やがてくつくつ笑いを漏らす。
「じゃあこういうのはどうだよ!?」
さっと大きく下がり、長刀を構える。
『鉄槌は空より!天上の御方の笑覧は我が栄誉!』
と、詠唱した瞬間野太い雷がアリーヤ目掛けて降り注ぎ、周囲に瓦礫が飛び散る。
もうもうと立ち上る土煙を見渡し、ガロンは哄笑した。
「馬鹿が!どいつもこいつも、俺を倒せる気分だけ出してよ!実力が無いならコソコソ俺の視界に入らないよう努力すりゃ良かったんだよ!」
「そいつぁ鏡に向かって言うんだね」
「!」
しかし土煙が晴れた中には、槍をアースのように立てて身を低くしていたアリーヤが居た。
その射抜く様な眼光でガロンを睨み、ガロンは心底忌々しげに睨み返す。
「てめぇ…!動けねぇクセにほざくな!」
再び雷撃を放つが槍で全て防ぐアリーヤを前に徐々に乱雑な魔導になって行く。
裏路地の壁は至る所が破壊され、瓦礫が散らばっていった。
しかしそれでもアリーヤには届かない。
白兵戦では及ばない以上、アリーヤが動けない内に手を打たねばガロンに勝機は無かった。
「どうしたよ、元副長サマ?そんなんであたしの上にいたのか?」
「うるせぇ!どっち道てめぇもどん詰まりだろ!」
「そうでもないね」
「!?」
そうアリーヤが応えた瞬間、ガロンの視界が揺らぐ。
ぐらついた視界を抑え、まさかと天に臨む槍の穂先を見れば、微かに震えてりんと音を立てていた。
(干渉魔導!)
槍を動かせない間に既に干渉魔導を放っていたのだった。
余り大きくやっていては気付かれるし、かといって小さくやってもガロンの抗魔力に阻まれる。
それ故絶妙に放っていた。
(だったら完全に飲まれる前に…!)
「で、あんたはいつも気付くのに後手後手だな」
と、槍を動かせない今を狙ってと長刀を構えるが、肩を誰かに掴まれる。
振り返ると、
「よぉ、借りたもん返す…っぜ!」
ボロボロのエリルと、その拳が見えた。




