その声、その怨嗟
「ッ…!」
ゲンゾーが吹き飛ばされるのを前にセレは強く瞳を閉じる。
目は見えなくとも魂の気配でどうなっているかは大凡把握出来るからだ。
(ゲンゾー様!)
生命の色が極端に弱まり、死に行く者達の気配を発する。
だがセレには何も出来ない。
このケウデスを倒す手段を何一つ持ち合わせていないのだ。
拳士としての喜びか、ケウデスの魂は喜色に満ちている。
『殺ココロ殺勝勝』
(!)
瞬間、何かの声がした。
しかしケウデスはその異質な声に気付いていない。
即ち、
(死者の声!)
その声は怨嗟の物ではなく、寧ろ歪な祝福のようだった。
後ろめたくも、しかしどこかそんなケウデスの喜びを肯定する優しく残酷な祝福。
(タリオスの声……じゃない。もっと力が弱い存在……)
ケウデスに憑いた、力は無くともその歪んだ愛を直向きに向ける何者か。
(もしかして……この人がお祖母様が見た人?)
その怨嗟にさえ感じる祝福の言葉は、ケウデスの服の下、胸元から聞こえる。
セレはその存在に声をかけた。
『もし?聞こえますか?』
『かっかかか勝勝勝ええいえ栄ここ光殺殺殺嬉嬉』
(駄目……負の感情が強過ぎて意味消失してる!)
こういった悪霊の類は早々に祓わねばならない。
人の命や名前が失われても、恨みというのは残り続けるのだ。
(でも……)
ただの悪霊でもない、そう直感していた。
それは、ケウデスに向ける感情だけは、余りに純な愛だからだ。
家族に向けるただ穏やかな、そして残悔や恨みが混じった不思議な声。
やがて意を決した様にセレは額の魔力痕を輝かせた。
(この怨嗟に近い思考の根幹を見なければ!)
覚悟してからは一瞬だった。
その怨嗟の声の根幹に有る何かの感情へと向かう。
汚泥の中を泳ぐ様な感覚に一瞬恐怖し、しかし更に奥へと向かう。
やがて、
『!』
視界が開けた。
暗い汚泥の底にて、瞳が色彩と景色を掴んでいる。
(ここは……どこかの宮廷?悪霊さんの記憶?)
豪奢な寝具の上、僅かに咳をする女性の声がする。
その声に、セレは強く意識を持った。
(悪霊が抱いてる記憶……私自身もセーブ出来るのでしょうか)
悪霊たるその女性の思考が一致し、同時に自身が乗っ取られないようにするためだ。
やがてその女性の部屋に一人の少年が入って来る。
その人物は、
「姉さん、今日も新しい本見つけたよ!」
幼い姿のケウデスだった。




